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幸希(ユキ)
2026-03-01 20:31:26
3327文字
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同じだった
同じだったはず。もしもの話。でも、確かに心は本当だった。
向き合うのを逃げていたずるい私が悪い。加州は悪くない。返せなくて、ごめん。
加州清光。うちの本丸で、打刀の中で2番目に顕現した刀。私が始まりの刀選びで最後まで迷った刀。うちの教育番長。
「主。俺じゃ駄目なの?どうしてもあいつじゃなきゃ駄目?」
いつだったろう。加州に始まりの刀選びの事を話したのは。むっちゃんが修行から帰ってきた辺りだった気はする。記憶力の乏しい私だから、正確な時期が思い出せない。
「愛してるのはむっちゃんだよ。」
「俺は?愛してない?」
「加州も大事だよ。愛してる。」
「なら
…
!」
「でも、むっちゃんに抱くそれじゃない。」
話をしてから、何を思ったのか加州はむっちゃんに張り合うようになった。「俺の方が主を好きだ」と言うようになった。むっちゃんがいない時距離を詰めるようにもなった。本丸の運営に差し障りが出てなかったのは本当にすごいと思うけど、私はむっちゃんしか見てなくて、加州の真意が分からずにいた。特に追及しようとも思ってなかった。
「最後までどっちが選ばれるか分かんなかったんだよね?だったら俺でも可能性あった訳じゃん。何で陸奥守だったの。どうして陸奥守だけを見たの。俺だって主の事好きだよ
…
!」
これまで幾度となく言われてきた。「主が好きだよ」と。でも、私の心はただひたすらにむっちゃんに向いていた。加州への罪悪感が無かった訳じゃない。でも、好意が返せない事が分かっていて宙ぶらりんにするのは不誠実。だから早々に断ってもいた。
「加州の気持ちは嬉しいけど、応えられない。」
「あいつじゃなくて、俺にしなよ。俺だって主の事大事に出来る。可愛くデコる事も出来るよ。いろんなとこ付いてくし。映えるスポットとかだって調べられる。」
「
……
。」
……
正直、何が選びの決め手になったのか。それがどうにも思い出せない。ただの感覚でしかなかったから。“むっちゃんなら、ネガティブな私でも大丈夫かも”と漠然とした理由。未来を見る刀ならと。
加州の言い分自体、さほど間違ってない。加州だって人に寄り添えるし、必要であればいろんなものを見る機会を与えてくれる刀だと思う。“今”を認めて一緒に歩いてくれる。そういう優しさを持った刀。
「正式に夫婦になった訳じゃない。まだ間に合う。だから
…
」
「加州。」
「っ。」
むっちゃんと加州。1つ違えば私の人生も変わっていたんだろう。でも、結果だけを見てしまえば、私が恋をして、心底愛してるのはむっちゃんだ。
『それがわしの守りたい景色。わしの物語じゃ
…
!』
あの言葉に救われた。あの声に光を見た。絶望の真ん中でうずくまって動けなくなっていた私を引き上げてくれたのは、他でもないむっちゃんだった。
「加州の言ってる事は、間違ってない。」
「
……
。」
「でも、それは“たられば”に過ぎない。実際選んだのはむっちゃんだよ。」
「そうだけど
…
!」
「なんで、そんなに張り合うの。なんで、あの日から急に言い出したの。断っても、どうして食い下がるの。何がそこまで加州を駆り立てるの。」
「それは
…
。」
「私自身そんなに見目が良いわけでもないし、性格なんて捻くれ屋。大分改善したとはいえネガティブだし、欠点上げたらキリがない。どこに加州が惹かれてるのかが分からない。」
「
……
。」
「むっちゃんへの対抗心だと思ってたけど、絶対違うよね。なんで?」
俯く加州。舌の付け根に苦い感覚が広がる。向き合いたくない事と向き合う時は、いつもこの感覚がする。
「だって、」
「うん。」
「だって、きっと俺の方が先に好きだった!ネガティブでも周りに優しくあろうとする主が可愛いって思ってた!可愛がってもらって、強くなって、俺がずっと主を支えられると思ってた!けど、大侵攻で主の陸奥守を見る目が変わって、あいつがつれないからって安心してたらあいつの目まで変わっていって
…
!!」
「羨ましくなったの?」
「その前に主からもしかしたら初期刀が俺だったかもしれないなんて、そんな可能性聞かされたら、俺だってって思うし、俺がこの想いをあんたに伝えられてたかもしれない
…
!まだ、まだあいつのものになってないならチャンスはあるって、だから
…
!!」
血を吐くように叫ぶ加州。私の知らないところで抱えていたそれは、覚えがあった。
(昔の私だ。)
好かれる自信もなくて、叶わぬ恋に身を焦がしていた昔の自分。後手に回ってしまってひどく後悔した。焦がれて焦がれてやまない、けれど手が届かない苦しさ。
(本気、だったんだね。)
罪悪感が胸を刺す。でも、それでも、
(私はそれに応えられない。)
どう転んでも、私はむっちゃんしかいらない。むっちゃんしか欲しくない。添い遂げたいのはむっちゃんだけ。無い希望を与えて何になる。
ずっと断っていたけど、これまでの伝え方で加州が納得できないのであれば、もっと強い言葉を使わなければいけない。
「ねぇ、主
…
。」
「
………
。」
「俺と陸奥守、何が違ったの
…
。」
きっと、大きな違いなんて無い。どっちを選んだとしても、二振りはきっとどんな時でも支えてくれた。未来を何かしらの形で指し示してくれた。選んだ理由は、審神者になったあの日の自分しか明確な事は分からない。
「多分、違いとかないよ。でも、あの時の私は、“未来を語る陸奥守吉行”を選んだ。後から分かる事じゃなくて、その時分かった希望を選んだ。」
「
……
。」
「私が捨てようとしたものを、むっちゃんは拾い上げて大事にしてくれた。それすらも私だと言って。いらない。切り捨てたい。無かった事にしたい。そう思う私の心ごと拾って、全部大事にしてくれた。」
「俺だって
…
」
「何度も言うけど、それは“たられば”に過ぎない。私の心の向く先はむっちゃんだけだよ。」
「
……
。」
あぁ、口の中が苦い。喉が詰まりそう。
「私はむっちゃんと添い遂げたい。むっちゃんのお嫁さんになりたい。むっちゃんと生きていきたい。
……
だから、加州と一緒にはなれない。なりたくない。」
言ってしまった。でも、受け入れられない想いははね除けるしかない。嘘なんか吐けない。
「応えられなくてごめん。」
「
……
それが本心って、ことだよね。」
「うん。」
「
……
そう、だよな。」
不意に加州が外に視線を移す。
「叶わないなら、攫おうかとも思ったんだよ。しょーじき、今もちょっと考えてる。」
「!」
「でもさ、それやったら、あんた泣いちゃうでしょ。主が泣くのが見たいんじゃないんだよ。」
「
……
。」
ふ、と寂しげな笑顔。
「幸せにしたかった。これは嘘じゃない。主が好きなのもほんと。陸奥守に取られてヤキモチ妬いてたのもほんと。
……
俺なりにさ、主の事大好きだったんだよ。奪えると思ってた。」
「加州
…
。」
「本当は分かってた。主ずっと断ってたしね。でも諦めきれなかった。
……
俺こそごめん。」
「
……
。」
思わず手が伸びた。柔い頬を撫でる。
「俺けっこーとんでも発言したと思うんだけど、それでも撫でてくれるの?」
「思いがどうであれ、加州が大事な私の刀なのは変わらないよ。大好きな刀だもん。」
「
…
あんたさ、優しいよね。そんで残酷。こっぴどくフッたくせにさ。」
「両方叶えるのは無理だよ。」
「ま、それもそうね。あんた、不誠実な事嫌うし。」
撫でていた手が取られる。
「ねぇ、主。」
「何?」
「俺の事、好き?」
「仲間として好き。」
「陸奥守は?」
「最愛。」
「ブレないなー。まぁ、それが主か。」
する、と離された。
「幸せになって。」
「うん。」
「あいつが何かやったら、いつでも俺のとこ来ていいからさ。」
「多分ないと思う。」
「万が一とかあるかもしんないじゃん。」
「またむっちゃんに突っかかられるよ?『そがな事万が一にもない!』って。」
「あははは!言い方似てる!」
いつもの笑顔を浮かべる加州。罪悪感は消えないままだけど、これでよかった。そのはず。
「主。」
「ん?」
「
…
大好きだったよ。」
向き合うのが遅くなってごめんなさい。その心は忘れないよ。好きになってくれて、ありがとう。
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