雪白あくあ/翠澤しのん
2026-03-01 03:07:04
1795文字
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祝福を得た1/31

塔から戻った直後の小森月について

……あたし、卒業しちゃうのやだな」
 夕焼けに照らされる星の横顔を見て、あの塔から生き返ったんだなって思った。祝福を貰ったらそれを元からそれを持っていたことになる……というのは本当だったみたいで、僕は星の言葉の意図を、おおよそ把握できていた。
 卒業してしまう前に、やり残しを全部無くしたい。胸を張って卒業したい。自分は小学校をやり切ってから中学に進学しましたと誇れる状態でありたい。きっと、知りたいという強い興味があれば元の僕でもわかったんだろう。でも、夢を見ていたから、わからなかった。多分そういうことなんだろう。
 そして、祝福を貰っても、星のその感情は僕に無いものだった。
 知りたくなかった。ずっと一緒だと思っていたかった。こんなに違うなんて実感したくなかった。
 でも、それを選んだのは、僕だ。隣にいるために、突き落とさないでもらうために、違うんだとしても知りたいって思ったのは僕だ。星は片割れだとしても、僕と違ってとっくに一人だったって思い知っても、隣にいたいと望んだのは、僕だ。
 僕が望んだ。僕が選んだ。
……月?」
 星が遅れた僕を振り返る。その瞳が、ちょっと煩わしそうにしていて。ああ、ちゃんと隣に帰ってこられたんだなって、思えた。
 それで、口から素直に言葉が滑った。
「わ、わか、んな……わかんなくて、ごめん」
「え、な、何?」
 星の目が疑念に歪む。僕の口は止まってくれない。
「星のこと、わかるのに、わかんなくて……ごめ、でも悔し……っ。わかんなくて、ごめん!」
「突然何の話……!?」
 困惑。その顔で、わかってほしいとわかりたいが、爆発した。
「やだぁーーーー!! 星のこと大好きなのに!! 全然違うこと考えてるのやだ!!」
「ハァ!?」
 驚愕と困惑。あと引いてる。それがわかっても、わかるのに、全然口が止まらない。
「星がまだやりたいことあるって思うのわかるのに! 僕全然そんなこと思えない!! お揃いじゃない!! せめて寄り添えるお兄ちゃんでいたい!! でもわかんない!! やだぁーーーーー」
「え、えぇ…………
 地べたに頽れてしまった僕を、星が見下ろしている。涙が邪魔でずっと手で除けてるから、視線は感じるけど表情はわからない。
「ちょ、ちょっと、もうちょっとだし家帰ろ。ほら月お兄ちゃんでしょ!」
 『お兄ちゃん』って言われて、思わず顔をあげた。ちょっと怒ってるけど、嫌い……では、なさそうというか。わかんなくても、お兄ちゃんでいていいのかなって、思えた。
……ん。僕、星のお兄ちゃんだよ」
「はあ……なっさけない兄」
 仕方ないなって、顔に書いてある。
 お揃いじゃなくても、ずっと素敵な兄じゃなくても。それでも星は、僕のこと片割れでお兄ちゃんだと思ってくれるんだ。
 元から強迫観念でお揃いとか立派な兄になりたかったわけじゃないけど、それでも、そう思えるとホッとした。
「うん」
 星が差し出してくれた手を取って、立ち上がる。もう一度涙を拭って、また歩き出す。手を繋いだまま、星に導いてもらうまま、階段を下りていく。
……月ってさ、あたしのこと好きなのはいいけど、意味不明だからね?」
「えっ」
「あたしが始めるからって『僕も新体操やろうかな』じゃないよ。あとスカートも。お揃いだからどうしても欲しいって言って買ってもらったくせに、あたしが嫌な顔すると着ないのかなりキモい」
「う……
 ほんのりそう思われてるとわかっていても、星の声で聞く『キモい』は、かなり効く。しんどい。また涙が出そう。
「だから、あたしは月と考えてることお揃いなんて全然思ったことない。……でも、母さんより父さんより、一番あたしの味方でいてくれるのは、月だと思ってる」
……うん」
 そっか、確かに、そうかも。お揃いじゃなくても、一番の味方にはなれる。そう思っているうちに、一番下まで着いた。家は、もう目の前。
「ねえ、星」
「なに、月」
 不自然な位置で呼び留めた僕に、星が振り向く。
「ずっと、ずうっと大好きだから。ずっと、味方でいるから。どうかこれからも一緒にいてね」
……はいはい。月が妹離れできるまでは一緒にいてあげる」
 ため息を吐いて、星は苦笑した。そしてドアを開けて――
「「ただいま」」
 安堵に満ちた二人の声が、重なった。