風花莉亜
2026-03-01 02:50:03
4236文字
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ホットミルクの魔法。

第35回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点で同棲設定。千早くんの眠れない夜の話。よくあるやつです
いつも通り、なんでも大丈夫な方向け


「くっ……
「んー? どうした? 意地張ってないで早く言えって」
「うぅ……
「んはは、睨んでも怖くねーよ?」
……いじわる」
「なんとでも? ほれほれ、早く言っちゃえよ。そしたらご褒美に、くれてやるから」
…………ぃ」
「ん?」
「~~~~ホットミルク作ってください!! あ、あぉぃ、くん」
「ん、よく出来きました」

く、くやしい〜〜〜〜!!
子供扱いと言わんばかりに頭を撫でられるのも、馬鹿みたいに愛しいという笑う顔も、それより何より、ホットミルクを人質に下の名前を呼ばせられる事が腹立たしい。
こんなんで呼ばせるなよ! もっと特別な時に呼ばせろよ!
あぁもう、俺にあの味が再現できたなら、こんな茶番に付き合わずに済むのに。
何度か挑戦してみたものの、そのどれもが藤堂くんの作るホットミルクとは同じ味にはならなかった。
同じ材料、同じ工程、同じはずなのに味が違うのは何故なのか。
本人曰く、「愛情じゃね?」との事だが、それで何が変わるってんだ。
納得のいかない俺は、けれど負けを認めて藤堂くんに縋るのだった。





───遡る事、一時間前。
いつものように藤堂くんと一緒に夕飯を食べ、それぞれ風呂に入ってからリビングでテレビを観つつ会話をして、最後に歯を磨いてから自室へと戻った。
おやすみ、と額に唇を落とされるようになって、半年くらいだろうか。
一緒に住むようになってルーティン化してしまったそれを受け入れて、そのお返しに俺も藤堂くんの頬へと唇を触れさせ、そうしてやっと一日が終わる。
一緒のベッドで寝る時もあるけれど、明日は起床時間が別々なので、独り寝だ。
自分の部屋にひとりきり。
それを寂しいと感じてしまって、アラームをセットしてからベッドに入って目を閉じたものの、睡魔が訪れてはくれない。
いやでも、まだ十五分だし。
おやすみ三秒の藤堂くんとは訳が違うのだ、このくらいの時間は寝れなくても普通なのでは?
そんな事を考えながら試しにとゴロン、と向きを変えてみたが何の変化もなく、眠気のねの字すら出てこない。
考えるから駄目なのかもしれない、無になれ。
深く息を吸い込んで吐いて、何も考えないを選択してみたものの、ただただ時間が過ぎていくだけだった。

「寝れない」

口に出してしまったらもう、駄目で。
仕方なしに布団を捲って起き上がり、キッチンへと向かう事にした。
温かい物でも飲んだら寝れるかも、なんて薄い望みを求めて。

キッチンに到着して電気を点けると、暗闇に慣れた目が人工的な光を眩しいと訴えてる。
チカチカする視界に目を細め、暫く慣れるまで少し待つ事にした。
なんだか太陽と向き合えない生き物にでもなった気分だ。
実際には太陽でもなければ昼間でもないのだが、そんな事はどうでも良い、今の俺は兎に角早く寝たいのだ。
眠れない時の飲み物と言えば、ホットミルクやココア、ノンカフェインのハーブティーやホットジンジャーなどあるが、手軽に出来るのはハーブティーだろうか。
ハーブティーはティーバッグの物を使えば良いし、紅茶を淹れる事は一番慣れている。
そう結論付けてお湯を沸かそうとした所で、廊下から物音がして小さく跳ねた。
やめてくれ、夜中の一人きりのキッチンで怪奇現象なんて起きようものなら、一生寝れなくなる。
若干涙目になりながら物音のした方を固唾を飲んで見守っていると、現れたのはここの住人である金髪ヤンキーだった。

「何してんの?」
「驚かせないでもらえます?」
「すまん、そんな驚いたか?」
「そん、なには驚いてないですけど」

嘘、めっちゃ怖かった。
しかし、そんな事を口にしようものなら笑われる。
揶揄われてたまるか、と強がってみせたが、藤堂くんはあっさり「そっか」なんて言いながら人の頭を撫でてきたので、怖がっていたのがバレているようだった。
これだから藤堂くんは。
俺の事は何でもわかってる、そんな態度がムカつく。

「ところで、なんの用ですか?」

ふい、と視線を外しながら可愛くない言い方をする。
それでも藤堂くんは「かわいくねー」なんて口で言いつつも笑っていて、だからその『愛おしい』って顔やめれませんかね?
表情筋どこに置いてきたんですか?
こんな風に時折、藤堂くんが大人びて見えて、そして自分は子供のような態度を取ってしまう。
違った意味で釣り合いの取れてしまっているソレは、一体いつからだっただろう、記憶を探っても探し出せないでいる。

「千早くんは、寝れないんだろ?」

突然の確信を突く言葉にハッとする。
やっぱり、バレない筈がないよなぁ。
寝ると言って自室へと戻ったのに、その一時間後くらいにはキッチンでゴソゴソやっているのだから。
それに、こんな風に寝れなくなるのは初めてではない。
一緒に住み始めてからも何回かあった事で、しかも毎回それに付き合ってるのは藤堂くんなのだ。
これでバレない訳がない。
そんな藤堂くんは、どうしたら俺が眠れるのかも当然わかっている。
わかっているからなのかは知らないが、この男はどういう訳だか、今日みたいにタイミング良く起きてくるのだ。
まるで俺が眠れない日を知っているかのように。
自分さえ知らないような、何かしらのサインが出ているのだろうかと考えた事もあったけれど、考えた所で知らないのだから答えなんか出るはずもなく。
一度だけ藤堂くんに聞いてみた事もあったけれど、「勘?」としか答えないし。
なんだよ、勘って。
あーでも、そっか、藤堂くん自ら起きて来たんだし、頼っても良かったりしますかね?
あの、と口を開きかけた所で、藤堂くんがニンマリとした顔をしている事に気付いてピタリと止まる。
この顔、陸でもない事言われそう。

「しゅんぺーくん」
「!!」
「あれ? シカト?」
「ナンデスカ」
「いや、動揺しすぎだろ」

カタコトになる俺に意地の悪い笑みを向けたまま、藤堂くんは手の甲で優しく俺の頬に触れた。
顔と行動、それで合ってます?
下の名前を呼ばれた事で動揺している俺には、残念ながらその判断はつかなかった。
らしくない、と心を落ち着かせる為に眼鏡のブリッジを押し上げようとして、しかしその指は見事な空振りを起こす。
そうだった、眼鏡かけてないんだった。
俺のマヌケな姿を見て、藤堂くんは屈託なく笑う。
その邪気のない純粋な顔に騙されたのは俺だった。

「なぁ、ホットミルク作って欲しいんだよな?」
「そう、ですけど」
「じゃあ、お願いしてみ?」
「はい?」
「だから、『ホットミルク作ってください、葵くん』って」

何言ってんだコイツ。
これが最初の感想だった。
仮に「ホットミルク作ってください」はわかるけれど、その後の「葵くん」はわからない。
なんでトッピングされてるんですか、葵くん。
口をへの字に曲げていると、言わないと作らないとか訳のわからない事を言い出されてしまった。
正直言って、じゃあ結構です、と突っ撥ねてしまいたい所だったが、そうもいかないこの現状。
睡眠を取るか、プライドを取るか。
ある種、究極の二択だ。
それにしても、名前呼び、か。
付き合って同棲までしているものの、藤堂くんの下の名前を呼んだのは片手で足りてしまうくらいなもの。
呼び慣れていないのと恥ずかしさから、どうしても敬遠気味になってしまっているのは否めない。
ずっと『藤堂くん』呼びのままでも良い気もするし、駄目な気もする。
いややっぱ、駄目かも。
そろそろ次のステップに進んでもいい頃だと考えているからこそ、藤堂くんはこの強引な名前呼びを仕掛けてきたのではないだろうか。
下の名前で呼び合う事を望んでくれているのなら、応えてあげるのが最善だと理解はしているものの、実行出来るかと言ったら、それはどうだろう。
あぁ、だからなのか、こんな風に強引に名前呼びをさせようとしているのは。
無理矢理にでも慣れさせて、俺が呼びやすくなるように。
……いや、そうなのか?
もしかしたら、買い被りすぎかもしれない。
半分、いや三分の一くらいは本心の可能性はあるが、ほぼ面白がってるだけだコレ。
優しいフリしてるだけだ。
楽しんでるのが隠しきれていないのが良い証拠。
これに屈するのは……などとごちゃごちゃ考えて、そして冒頭に戻る。

「とうどうくんのばかあほまぬけ」
「平仮名で言われても可愛いだけだなー」

機嫌を損ねた俺の態度は気にした様子もなく、ミルクパンを用意した藤堂くんは牛乳を注いで火を点ける。
そんな藤堂くんに悪態をつきつつ、背中に引っ付いて遠慮なしに頭をグリグリさせている俺は邪魔でしかないだろう。
しかし、それを良しとしているのだから、藤堂くんはなんだかんだと俺に甘い。
たまに意地悪だけど。

弱火でゆっくり温めるミルクパンの中が掻き混ぜられていくのを後ろから眺める。
温められた事で牛乳の香りが辺りに漂い、その優しい香りに心が温かくなるのを感じた。
この時間、好きなんだよなぁ。
藤堂くんに抱き着きながらそんな事を思う。
慌ただしく過ぎていく毎日の中、こんな風にほっと一息つけるような時間があってもいい。

「そろそろ出来るからマグカップ出してくんね?」
「はぁい」

名残り惜しく感じつつ藤堂くんから離れ、ペアのマグカップを食器棚から取り出す。
量からして二人分あるのはわかっていたので、緑とオレンジの両方を持って藤堂くんの元へと舞い戻った。
カップへとトプトプ、と注がれるミルク色のそれを眺めつつ、その美味しさを思い出してゴクリと生唾を飲む。
最後の仕上げに蜂蜜を垂らして掻き混ぜて、それで出来上がり。
実にシンプルだ。
藤堂くんから差し出されるオレンジ色のカップを受け取り、ほわほわ登る湯気に鼻を近づけて吸い込む。
ほんのり甘い、優しい匂い。
安心する。

「早く飲んで寝ようぜー」

くぁ、と欠伸をかみ殺す藤堂くんにコクリと頷き、ふぅふぅ、と息を吹きかけて一口。
あぁやっぱり、

「美味しい」
「だろ?」
「はい」
「で? それ飲んだら布団行けそうか?」
「安眠できそうです」
「そりゃ良かった」

だってほら、眠い癖にこうして付き合ってくれる誰かさんを早く寝かせてあげたいですし?


そうでなくても、コレのお陰でもう寝れる気がした。


END