望月 鏡翠
2026-03-01 01:08:17
1056文字
Public 日課
 

#2018 NPCのFA



 子供のためのと銘打ってくれているところ。
 そこが一番、優しくて好き。
 謎はときに残酷だ。人が死んだり、悲惨な真実が隠れていたり、謎を解決しても誰も救われなかったりする。
 だけど、子供のためのミステリ文学賞は対象年齢を児童文学に絞っているから、人間社会に確かに存在するどうしようもない澱みや毒の部分を流し込まれることはない。
 だから、昔から大好きだった。
 時代は日々進歩し、その世界に存在する謎も、どんどんと先に進んでいく。ミステリーのジャンルは目まぐるしい。過去作を踏襲したトリック、新しい技術を逆手に取ったギミック。謎は足を止めることはない。
 その中で過去の名作は、不動の輝きを放っていたり、ミステリを好む人間が踏まえておくべき基礎教養になって、トリックの足場を作っていたり、今の時代にそぐわなくなって、見向きもされなくなったりしている。
 時代が経つと褪せていく謎もあれば、時代を経ても輝きを失わない謎もある。
 私は時代を経ても輝きを失わない一番大切な場所に、ルチェ・ド・ガバガバァーナの短編集を置いている。児童文学好きに言えば、当たり前に知っている、だけど本を読まない人には、馴染みのない名前。
 海外文学だし、それに短編集は映像作品とか漫画化、アニメ化のようなメディアミックスをしづらいから、文字作品を好まない層になかなか染みていかない。古い作品だから、時代相応の描写というのもわかりにくいのかも。ショートショートにはシャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロみたいなシリーズのシンボルにできるようなわかりやすいアイコンも出てこない。
 それでも短い文章の中に仕込まれているトリックとそれが明かされたときのカタルシス、心の重苦しいものを残さない気持ちがいいストーリー。そういう作品が与えてくれた思い出が、胸の中にキラキラと星のように残っている。
 だから、子供のためのミステリ文学を受賞した作品といえば、いまだに彼の名前が上がる。少なくとも、私は上げる。短いし、読みやすいし、いいよ。好きなところから呼んでいい。好きな話だけ読めばいいの。
 読書って、そういうのでいい。
 私はそこから繋がる児童文学ミステリーの流れの、一番先端にいつか自分の名前を載せたい。
 隣というには、だいぶ遠いけど。その星の隣に、新しい光の粒を灯したい。
 ミステリーのジャンルは目まぐるしい。新しいトリック、新しい時代、新しい謎に人は飢えている。
 私はその最先端に追いつこうと、全速力で走っている。