ウッウ
2026-02-28 23:43:23
2288文字
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廻あざ小話

「めちゃくちゃロジカルに話す人に急にキスしたら〜」というXでバズってたポストのやつ


――というのも、ネット発祥の怪談は相当数あります。2000年代に急速に拡散し、映画化の影響で一般層にまで波及。SNS時代に入ってからは、リミナルスペースやバックルームのような海外発のものも広く認知され――

留まることを知らない勢いは、まさに水を得た魚のようだ。
廻屋は前のめりに、生き生きと語り続けている。
ちらりと時計を見遣れば、かれこれ三十分近く経っていた。
最初は戸惑いながら相槌を打っていたあざみも、今や視線はすっかり宙を彷徨っている。
話の内容は右から左へと流れていく一方だ。

――特にバックルームは、階層構造が面白いんです。レベルごとに環境や危険度が異なるために――

同じソファに腰掛けたまま、あざみは早口で畳み掛ける彼の横顔をぼんやりと眺めた。
中性的で整った顔立ち。だが、忙しなく動く薄い唇が、妙に目を引く。
骨ばった指に、思いのほか広い肩。細い身体のあちこちに、ふと男性らしさを感じさせた。
――今、あの唇に触れたら、どうなるのだろう。
そんな邪な考えが、不意に胸の奥から湧き上がる。
驚くだろうか。
笑ってくれるだろうか。
それとも……彼からも、キスしてくれるだろうか。
頬がじわりと熱を帯びる。
なんだか頭がぼうっとして、彼の声はますます耳を素通りしていった。

――最近はこうした異界に迷い込む系統の都市伝説が非常に多い。昔は人面犬や口裂け女のように怪異そのものに遭遇する話が主流でしたが……噂の出回り方が変わってきた影響で――

楽しげに語りながら、廻屋がこちらを向く。
その唇を正面から見た瞬間、あざみは思わず顔を寄せた。
ちゅ、と。柔らかな感触。
気がつけば、唇を重ねていた。

……あ」

離れてから、はっと我に返る。
しまった。完全に無意識だった。

…………

先ほどまで勢いよく語っていた廻屋の口が、ぴたりと止まる。
無表情のまま、ほんのわずかに目を見開いている。
驚きと困惑と、わずかな訝しさが入り混じった、廻屋にしては珍しい、隙のある顔だった。

…………えっと……

あざみは気まずげに視線を泳がせる。
言い訳の余地もない。同意も得ず、口付けしてしまったのだから。
彼はしばし押し黙った後、ふう、と小さく息をついた。
そして、

……話の腰を折らないでください。まだ途中ですよ」

淡々と、そう言った。

………………はい……
……どこまで話しましたか。ネットで都市伝説が出回るようになってから、噂の出処は随分と追いやすくなりました。しかし、口頭で伝承されていくものも独特の味があって――

何事もなかったかのように、語りは再開された。
あざみはぽかんと口を開けたまま、固まる。
まさか、キスしても止まらないとは思わなかった。
せめて少しくらいは動揺するだろうと思ったのに。
膝の上で所在なさげに組んだ自分の指を、ぼんやりと見下ろす。
少しだけ、面白くない。
あざみは小さくため息をついた。

――そうして都市伝説は姿かたちを変えど、構造はほとんど同じままに受け継がれていくんです。いかがでしたか?なかなか、面白い話でしょう」
……ふぇ?」

語り始めてから、小一時間後。
廻屋はようやく口を閉じた。
半分意識を飛ばしていたあざみは、間の抜けた声を零す。
廻屋は満足気な様子で、こちらを見つめていた。
慌ててこくこくと頷くと、彼の瞳がすう、と細められる。

「では、次の調査の際はこのことを意識していただけると、より楽しめるかと」
「は……はぁ……分かりました……?」

今まで調査を楽しんだことなど、一度もないのだが――あざみはよく理解せぬまま、曖昧な返事をする。
廻屋は「Good」と、優しく微笑んだ。
そのまま彼の指先がするりと伸び、あざみの頬に触れる。
ひやりとした感触に、心臓が小さく跳ねた。

――では、お待たせしました」
「えっ……ん、むぅっ!?」

不意に視界が暗くなったかと思うと、唇が重なる。
状況を呑み込む間もなく、隙間から舌が潜り込んできた。
それは蛇のようにぬるりと侵入し、あざみの口内をまさぐる。

「んぅッ!?ふ、ぁ……っ!んんっ……!」

反射的に身を引こうとする。
だが腰を強く抱き寄せられ、後頭部を押さえられれば、あっという間に逃げ場を失った。
肉厚の熱が口内を満たし、小さな舌を絡め取る。
吸い上げられた途端、全身から力が抜けていった。

「あ……っ、ふ…………ッ♡ ん、みゅ……♡」

体勢が崩れ、ずるりとソファへ倒れ込む。
唇は離れぬまま、覆い被さる重みに身動きが取れない。
あとはただ、蹂躙されるだけ。

「んぅ……っ!♡ う、ぁ……♡ ッ、は……!」

酸素を奪われ、視界がぐらりと揺れ始めた頃。
そっと、唇が離れた。
滲む視界の先で、廻屋が静かにこちらを見下ろしている。
その瞳の奥には、隠しきれぬ情欲の影。
呼吸が浅く、乱れる。

「あ……♡ せん、た、ちょ…………

重なった下腹部には、確かな硬さが伝わっていた。
衣服越しでも分かる熱の高さに、ごくりと喉が鳴る。

……こうしてほしかったのでしょう?」

低く、意地悪な声。
違うのに。ただ、なんとなく。ほんの好奇心でキスしただけなのに。
だが、反論の言葉は喉の奥で詰まる。このまま首を縦に振れば、何をされるかは明白だからだ。
腰をゆっくりと撫で上げる手つき。
その指先に、身体の芯が素直に反応してしまう。
あざみは恥じらいに瞼を伏せ――ほんのわずかに、頷いた。