たくとろ
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ワンライ「傘」

1h20min
アンブレラスカイで少し考えてみたけど、浮かばなかったので王道を行きます

 船の入り口の方で足音がした。きっとリコが帰ってきたんだろうと、ロイは入り口に向かう。
「リコおかえりー……って!? どうしたの!?」
 ロイの目の前に立っていたのは、ずぶ濡れのリコだった。頭から靴までびっしょりで、いつものお団子も崩れてしまっている。マスカーニャたちはボールに入れて帰ってきたようだ。
「ただいま……雨が強くて……
「でもリコ、行くとき傘持ってたよね?」
「お店の傘立てに刺してたら、持ってかれちゃったみたい……
「そっか……でも、連絡してくれたら迎えに行ったのに」
「お店出た時はそんなに強くなかったから走れば大丈夫かなって思って」
「無茶しちゃダメだよ。とりあえずタオル取ってくるね」
 ロイは駆け足で洗面所に向かい、ついでにラウドボーンに声をかけて一緒に戻ってきた。
 リコはパーカーを脱いで、近くにあったバケツの上で軽く絞っていた。隣でグレンアルマがリコの体に熱を送っている。
「お待たせ。はいタオル」
「ありがとう……へっくちゅ」
「大丈夫?」
「うん。ちょっと冷えただけだよ」
「お風呂入ったほうがいいね。沸かしてくるから、ラウドボーン、グレンアルマと一緒にリコのこと暖めてあげて」
 そう言い残すと、ロイはまた駆け足でその場を後にした。残されたラウドボーンは穏やかなリズムで歌声を響かせて暖かい音波を送り出す。リコは笑顔でラウドボーンにお礼を言った。
 しばらくしてロイが呼びにきたので、リコはお風呂に入った。浴槽にはリコのお気に入りの入浴剤が入っていた。
 


 それから数日、一人で買い出しに来ていたロイがお店を出ると、ざーざーと雨が降り注いでいた。
「予報は晴れだったのに……タイカイデン、行ける?」
 ロイが聞くと、タイカイデンは翼を広げて自信に満ちた顔を見せた。
 そして彼らは飛行船に向かって飛び立った……
「ロイ!? タイカイデンも!? もしかしてこの雨の中飛んできたの!?」
「へへ、タイカイデンが行けそうだったからつい……
「クァーイ!」
 タイカイデンは声を上げると、翼を羽ばたかせて水を払った。水飛沫がリコとロイにも飛ぶ。少し苦笑いを浮かべた後、リコはロイの方を向いた。
「もう……傘無いなら呼んでくれたら……
 そこまで言って顔を合わせた二人はくふふと笑った。この間と立場が逆だ。
 笑い終えたリコは洗面所に向かい、タオルを取って戻ってきた。すると、リコはロイの姿を見て悲鳴をあげた。
「きゃあ!? ロ、ロイ!? なんで上全部脱いでるの……!?」
「え、だって濡れちゃったし……っていうか上くらい海で見てるでしょ?」
「水着と普段着とじゃ違うの……と、とりあえず拭かなきゃ!」
「わわっ!? リコ、僕自分で拭け……
「いいから!!」
 リコは目を瞑り、ロイの体から目を逸らしてわしゃわしゃとロイの頭を拭く。
 強引なようで、触れ方は優しい。
 そういえば昔かあちゃんやとうちゃんにこんな感じで拭かれたっけ……
 幼い記憶を思い出しながら、ロイはリコにされるがまま体を預けた。



 それからしばらく経った。
 リコとロイは一緒にショッピングモールに買い出しにやってきた。必要なものを買い揃えてから少しお茶して、二人はモールを出たのだが……
「雨、すごいね……
「リコは傘持ってきた?」
「今日は予報見てなくて……ロイは?」
「折りたたみ持ってきたよ。一緒に入ろっか」
「ありがとう」
 ロイが折り畳み傘を開いて持ち上げると、リコはロイの傘の下に入った。今日はお互い濡れずに帰れそうだ。
 しかし傘とは言っても折り畳み傘。コンパクトさが売りであり、ロイが持っているのも最低限の小さな傘だ。二人で入るには少し狭く、普通の傘よりもぐっと近い距離で、互いの肩が触れ合っていた。
 歩幅は自然と合う。しかし二人は会話を交わさない。何かを口にしたら、その瞬間に心臓が弾けてしまうような予感がして。
 飛行船が見えてきた頃、雨は少しずつ弱まって、空は青くなってきていたが、二人はそれに気づかない。
 頭の中は、他のことでいっぱいいっぱいで。小さな傘になんとか収まる体。その体に収まりきらないような強い想いを互いに向けていた。