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2026-02-28 21:36:10
4013文字
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燭鶴「一枚上手」
燭鶴版深夜の創作60分一本勝負 お題「かえす」←「やりかえす」という解釈でお題をお借りしています。
光忠くんより一枚上手のちょっかいをかける鶴さんに一枚上手にやり返したい光忠くんの一枚上手をいく鶴さん(以下エンドレス)みたいな話です。本丸内のことに捏造あり。
余談だけど光忠くんが鶴さんに「つ〜るさん」と呼びかけるときのテンションは某花男の「ま〜きの」のテンションだと思っています。伝わってほしい。
「光坊、!」
肩を叩かれて呼ばれたので光忠が振り返ると、頬に何かが、ぎゅむ、とやわらかく刺さった。呼びかけてきた鶴丸の人差し指である。振り返ったところを狙って頬に指を突き刺されたのだ。
「っはは!きみは簡単に引っかかってくれるからかわいい!すまんな、用事はない、これがやりたかっただけなんだ」
目論見が成功して機嫌良さそうに笑っている恋人を微笑ましく思いつつ、光忠は苦笑した。
「鶴さん、それ仕掛けるのはまってるねぇ」
「光坊を引っかけるのが楽しいのさ。きみが一番引っかかる」
「本当にね。なんで僕、毎回引っかかっちゃうのかな。間抜けなのかも」
「いやいや、俺がきみの一枚上手なんだ。なんてな、光坊は素直なんじゃないか?良いことだぜ」
鶴丸は大人びた顔で
――
いや実際に年上なのだが
――
もっともらしくそう言って、引っかかってくれるのは嬉しい、とも言った。
「伽羅坊なんかはもう俺が後ろから呼びかけても反応してくれないからな。正面からでないと」
「あはは
……
、ちょっかいをかけすぎた代償だね」
光忠は肩をすくめる鶴丸を見て笑った。確かに、大倶利伽羅は一度警戒したら二度とこのような悪戯に引っかかってくれないかもしれない。
「というわけで、俺は内番に行く!またあとでな」
気が済んだらしい鶴丸は片手をひらりと振って去っていった。本当に用事はなく、ただただ光忠にちょっかいをかけたかっただけらしい。かわいらしい人。
呼びかけられて振り返った光忠の頬を鶴丸が人差し指で刺す、というやりとりが行われた回数はもう数知れない。鶴丸が言うとおり、光忠は毎回律儀に全部引っかかっている。
一日に連続でこの悪戯を仕掛けられたときは、さすがにちょっと考えて肩を叩かれた反対側から振り返ってみることもあるのだが、そういうときの鶴丸はなぜか先回りして反対側に人差し指を待機させているので結果は同じになる。
彼自身が言うとおり、彼のほうが光忠より一枚上手なのかもしれない。
何回引っかかっても光忠は鶴丸の呼びかけに振り返るつもりでいる
――
かわいい恋人に声をかけられたら必ず振り返りたいものだ
――
し、光忠を引っかけたときの彼が楽しそうなので特に問題も不満もないのだけれど、たまに、何か自分からもやり返して驚かせてみたい、という気持ちになることがある。それが今日だった。
たまには、光忠も一枚上手になってみたいのだ。
と、いうことで光忠は考えた。まったく同じことをやり返すのでは面白みがないだろう。光忠の頭の中の「鶴丸国永」も「驚きには変化が必要だ」と主張してくる。光忠もその意見に賛成なので、何か違うことをしてみたい。
考える、考える。
何か、鶴さんを驚かせられるような、愛のある、悪戯を、
……
。
そうやって一日中考えていたのだが、夕食を終えても光忠には良い案が思い浮かばなかった。
うーん、悪戯の才能は自分にはないのかも
……
と内心で苦笑しながら部屋に戻ろうとした光忠は、視線の先に鶴丸の姿があるのを見つけた。どうやら、張り出されている来月の当番表を確認しているらしい。こちらの気配には気づいていないみたいだった。
せっかく気づかれていないようだから、面白みはなくても鶴丸と同じやり方でちょっかいをかけてみようと思って、光忠はそっと彼の斜め後ろに近づいた。とんとん、とその肩を叩く。
「つーるさん」
「お?光坊、」
光忠は肩を叩いた瞬間こそは、いつも鶴丸がしてくるように人差し指を振り向いた彼の頬に突き刺すつもりだった。のだが、振り向いて目が合った瞬間の鶴丸がなんだかとても無防備で、そして同時になんだか嬉しそうだったから、かわいいと思った光忠は指を頬に突き刺す代わりに彼の唇へ、そのまま衝動的に口づけた。
唇を重ねて、一秒、二秒。光忠は鶴丸の体温を唇で感じながら、これはこれで案外驚いてもらえるかもな、と考えた。あるいは、嬉しそうにしてくれるかも。なぜって、光忠が口づけるとき、彼はいつも嬉しそうだから。
だから、それらの反応を予想して、しばらくの口づけののちに光忠は唇を離したのだが、目の前の鶴丸の反応は光忠が予想したどれとも違っていた。
「
……
、
――
、!、?、?!、?」
目を丸くしている彼は、その点だけで言えば驚いているようだったけれど、それだけではなく、耳まで赤面して言葉が出てこなくなっている。白い肌が綺麗に赤く染まっていた。とても照れているらしい。
「え、っと、鶴さん、あ、あれ
……
??」
驚かれたり面白がられたりする反応は予想していたけれど、こんなに照れられると思っていなかったので、光忠のほうも混乱してしまった。なんだか急に自分が気障で恥ずかしいことをしたような気になり、慌てる。
「あっ!えっと、なんか、ごめん、!びっくりした
……
、よ、ね」
「
……
、
……
おど、ろ、いた」
未だ頬を染めたままの鶴丸はぽつりと言って、何かを迷うように視線をさまよわせてから、言葉を続けた。
「な、んで、俺がキスされたいって分かったんだ」
「
……
、え?」
「そんな顔を、してたか
……
?」
困ったように視線を逸らす鶴丸を見つめながら光忠は、彼が振り返った瞬間の表情を思い返した。確かにかわいい顔をしていた。
もしかして、キス待ち顔だったのかもしれない、
……
?
そう思った光忠は頷いて見せることにした。まぁ、あの瞬間はキス待ち顔とは分からず、ただかわいくて瞬間的に光忠が口づけたくなっただけだったのだけれど。彼がそういう顔をしていたということにしておく。
「うん、そういう顔、してた」
「?!?」
訊いてきたのは鶴丸のほうなのに、光忠に肯定された彼はさらに動揺した表情を見せた。かわいい。
「そんなわけないだろう、!」
「そう、かな?でも鶴さんはとにかくかわいい顔してたよ」
「
……
、
……
」
鶴丸は納得していないような、引き続き照れているような微妙な表情で後頭部の髪を片手で乱している。
「というか鶴さんはそもそも、
……
僕のこと考えてた
――
、の?」
仮にキスをされたいと思っていたとして、そう思うに至るには何か光忠のことを考えていたから、というのが自然な流れだ。だから気になって光忠が尋ねたら、彼は曖昧に頷いた。
「
……
、まぁ
――
、光坊と出かけられる日がないかと思って当番表を見ていた
……
、から、な」
「えっ、そうだったんだ」
光忠はぱっと破顔した。要するにデートの予定を考えてくれていたというだ。いつでも光忠はエスコートしたタイプではあるけれど、とはいえお誘いを受けるのはいつでも喜ばしい。
「それできみの気配がしたから、その瞬間に、その
――
」
どうもキスをされたくなったのだ、ということらしい。
確かに、相手を想っているとき、愛しい気持ちになるものだと思う。光忠が現れて呼びかけたのがそうやって愛しく想うタイミングだったから、彼は口づけられたくなったのだろう。
光忠も振り返った鶴丸を愛しいと思ってキスをしたくなったから、とても心が通じあっているなと思って、嬉しい。
「ふふ、かわいいね、鶴さん。僕も鶴さんが振り返った瞬間にキスしたくなったから、僕たち、相思相愛だよ」
「きみってそういう気恥ずかしいことをさらっと言うよな」
「そうかなぁ」
鶴丸が微妙な表情をしているのは呆れているというよりは照れているのだと分かっているので、光忠は気にせずに微笑んだ。
「でも、どう?僕、いつも鶴さんにほっぺを突き刺されてばっかりだから、何かやり返してみたいと思ったんだけど
……
、さっきのは僕が一枚上手だった、でしょう?」
「
……
、まぁ、結果的に、な。驚きは、したが、」
少しだけ悔しそうな表情で
――
負けず嫌いの子供のようでかわいらしい
――
呟いた鶴丸はしばらく何かを考えてから不意に、するり、と片手でこちらの頬を撫でた。
「だが
――
、そうやって驚かせるだけで、さっきみたいに少しだけ口づけるだけで光坊は満足なのか?相思相愛というなら、もっといちゃいちゃしたいときみは思わないのかい?」
「
……
、!」
彼の言葉の意図することがなんとなく察せられた光忠が返事をする前に、鶴丸は続けた。
「これはお誘いさ、光坊。風呂を終えたら俺の部屋においで、キスの続きをしよう、とびきりのを期待していいぜ」
少し上目でこちらをうかがいながら誘惑的に目を細めた鶴丸の表情にどきどきしてしまって、光忠は今度は自分が淡く赤面するのを感じた。照れた光忠の反応に彼は満足そうにしている。
「はは、良い反応だ。きみが俺にやり返してみるというなら、それを俺はさらにやり返してやろう。一枚上手の光坊の、さらに一枚上手をいく」
「あはは
……
、鶴さんにはやっぱり敵わないかも、ね」
光忠が困ったように微笑んだら、鶴丸は得意げに口角を上げて光忠の両頬を両手の人差し指で挟むように突き刺した。仕返しらしい。
「なら、またあとで、部屋でな」
そう言ってひらりと手を振って去って行く鶴丸には、振り返ったところに口づけた瞬間の照れや動揺のようなものはもうなくて、あの時の鶴さんはせっかくかわいかったのにな、と光忠は少し残念に思った。
しかし、こうして余裕のある一枚上手な様子の彼もまた別の愛しさがあって、やっぱり光忠にとってはかわいいことには違いない。
光忠も部屋に戻りながら、このあと夜にまた何か恋人の一枚上手をいけるだろうか、と考えた。せっかくだから、一枚上手な自分を見せたい。そのまた一枚上手をいかれるかもしれないけれど。
でもそうやって互いをかわいがりあうのが、相思相愛ということだと思って、光忠は微笑んだのだった。
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