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ウサギ
2026-02-28 20:20:33
2147文字
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ひとりごと
ルビが寝込んでた時、ベッド横に椅子を持ってきて心配そうにしているチェシアレ。
クリスマスの夜、内緒だよと微笑みかけながら、ルビと二人きりで出かけて嬉しそうにしているチェシアレ。
疑いようもなくいいお兄ちゃんで、その実少しその枠からはみ出しているチェシアレの姿が本当に本当に本当に好きすぎたので書きました。雰囲気です。
短いです。チェシルビです。
「ねえ兄さん。クリスマスの夜に二人でこっそり出かけない?」
「
……
二人で?」
「うん。みんなには内緒で」
肌寒い日だった。雪が舞う中、ルビはにこにこと悪戯っぽく笑っていた。二人きりで過ごす時はいつもこうだった。明るくて無邪気で、春の日差しのような顔をして笑うのだ。チェシアレ兄さんと呼ぶ声が少し甘くて、それがまるで子猫の鳴き声のように聞こえて、それがたまらなく愛おしかった。
愛おしくて大事で堪らなくて、だからチェシアレも、いつも彼女と同じように微笑み返していた。目が眩むほど幸福で、そのくせ妹が白い雪に溶けてしまいそうな気がして、細くて小さな手をぎゅっと掴んだのをよく覚えている。
「僕は構わないけど
……
」
込み上げる愛おしさとは裏腹の、少しばかり格好つけた歯切れの悪い返事を返す。いつもそうだった。真っ直ぐでてらいのないルビの言葉が幸せで仕方ないのに、同じように気持ちを返すことがどうしても照れ臭かった。
世界で一番かっこいい兄と言われたあの日からずっと、いつか幻滅されやしないかとはらはらしているのだ。そんな弱さを見せたくなくて強がってみせている。悪癖だとわかってはいたが、そんなこと関係ないと言わんばかりにルビがきらきら笑うから。ついその優しさに甘えてしまうのだ。
「やったあ! 私ね、あのきらきらした広場の灯りを近くで見てみたかったの!」
この時だってそうだった。チェシアレの葛藤も虚勢も全て関係ないと振り切って、ルビは明るく眩しく、幸せそうに笑っていた。まるで自分以上に幸せな人間は他にいないと言わんばかりの顔をしていた。
「そうか。それくらいのことだったら、僕がいくらでも付き合うよ」
「ありがとう。チェシアレ兄さん大好き!」
しがみつくように抱きついてきた小さくて温かなぬくもりが、これ以上ないくらい愛おしかった。
全部全部、覚えているのに。こんなにも確かな記憶として、脳裏に刻まれているというのに。
「
……
ルビは大袈裟だな」
「大袈裟なんかじゃないわ。私、思ってるよりもずーっとずーっと好きなのよ、チェシアレ兄さんのことが」
「僕もだよ。
……
僕もお前が一番大事だ。世界で一番、どんなものよりも」
あの時発した言葉の一つも、ルビのとろけるような笑顔も全部、昨日のことのように思い出せるのに。
「ルビ
……
」
思い出の中から意識をすっと浮上させたチェシアレは、ベッドの上で横たわり荒い呼吸を繰り返す妹の手を握った。額には汗が浮かんでいるのに、繋いだ手はひんやりと冷え切っている。
ルビが寝込んでから、もう半月近くが経とうとしていた。一向に熱が下がらず、目を覚ます気配もなく、ただひたすら苦しそうに喘ぐ妹の姿。目を覆いたくなるような痛々しい姿を無力に見つめるだけの営みが、もうすっかりチェシアレにとっての日常となっていた。
どうしてだろう。どうして彼女がこんな目に遭わなければならないのだろうか。
「
……
外は少し寒くなったよ。僕のほうは特に変わりはないけど、エンツォはそろそろ初雪が降るんじゃないかって大騒ぎしていた」
出会った時は大人たちに虐げられていた。ようやく幸せにしてやれると思ったら、今度は政治の道具にされた。それでもなんとかこの家に戻って来られたと思ったら、今度は原因不明の熱病。どうしてこんなにも彼女ばかりが苦しまなければならないのだろう。
「クリスマスが来たら、約束した通り二人きりで出かけよう。
……
父さんは反対するだろうけど、そんなことは関係ない。責任は全部、僕が取ればいい。だからお前はなにも心配しなくていいんだ。なにも。僕が全部どうにかする。だから
……
」
一度考え出すと止まらなかった。
「ルビ。
……
僕のルビ。もう十分眠っただろ。そろそろ目を覚ましてくれないか? 僕はお前の声が、聞きたいんだ」
どうしてルビなんだ。どうして。どうして、どうしてどうして。
同じ疑問が何度も何度も浮かんで消える。どうしてルビばかりが苦しまなければならないんだ。どうして。どうして僕が望むものはいつも。
答えのない問いを繰り返すことほど無益なことはないとわかっているはずなのに、それでも思考を止められなかった。考えていないと気が狂ってしまいそうだった。
「
……
それとも、神様ってやつに祈ってみようか。お前が目を覚ますように、って」
聖職者として失格だなと自嘲しながらも、思わず口にした言葉を否定する気にはなれなかった。神の教えを説きながらも、その実一度も神を信じたことなどなかったのだから、何を今更という話なのだ。
チェシアレはため息をついて、それからそっとルビの頬を撫でた。手のひらに伝わる温度はやはり熱っぽく、彼女の体が正常ではないことを何より雄弁に物語っている。
「
……
お前がいないと、僕は」
情けないとわかっていたのに、それでも彼女を失うことが怖くて怖くてたまらなかった。約束にしがみついて縋り付いていなければ、到底立っていられないほどに。
ルビ。吐息混じりの声で名を呼ぶ。お前が目を覚ましたら、もう少しだけ僕も素直になるよ。同じ気持ちで好きだと返すから。だから。
「ルビ。僕のルビ。お願いだから僕を」
一人にしないでくれ。
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