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ながみね
2026-02-28 18:53:19
8821文字
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ロクスロート、とある研究棟の館長室にて
fgo。生前レフ教授がいる別時空で、ぐだや偽典さん達がお茶する話。
『2015年の時計塔』の設定と展開を踏まえています。レフと言いつつ現在担当人格しかでてません。
「なるほど。カルデア、ねえ
……
」
穏やかな昼下がり。落ち着いた調度品でまとめられた館長室で、この部屋の主は困ったように呟いた。
「たしかに天体科のロードがそんな事業を進めているという話は聞いたことがある。
だがこちらの──、君たちの言うところの並行世界か。ここではそれほど大規模なものではないよ。アニムスフィアの金欠ぶりはよく知られているし」
男はいかにも魔術師然とした格好をしていて、それはこの研究棟や、研究者ばかりだというこの街の様子とも違和感なく馴染んでいる。
年代物の長椅子に腰掛け、長い足をゆったりと組む姿は様になっていた。
けれど、その馴染みぶりにかえって違和感を覚えてしまう。なにしろ記憶にあるのは現代的なカルデアの施設や、魔神柱うごめく時間神殿での姿だったので。
「聞いているかい?」
「はっ、すみません聞いてます!」
ミスター・フラウロス──レフ教授と同じ顔に注意されて、藤丸はあわてて姿勢を正した。彼はその様子を咎めるでもなく苦笑する。
「そう見つめられると流石に照れるな。君たちの世界の私は一体なにをしでかしたんだい?」
「それは
……
」
どう説明しようかと迷い、マシュと目を交わす。ちょうどその時タイミングよくノックの音が響いた。
「館長、お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
すこし待っていてくれと言い置いて、館長自身が扉へ向かう。今日は秘書が早上がりだからと言っていたけれど、肩書きの割に何でも自分でこなす派らしい。働き者だ。
『人払いだ、馬鹿め。少しは警戒しろ』
ああー、そういう。
霊体化している同行者のツッコミに無言で頷く。
本人が席を外した隙に、先輩、と隣のマシュが囁いてきた。ひそひそと囁き声で返す。
「うん。マシュ、どう思う?」
「やっぱりレフ教授にしか見えません。ただ、御使として目覚めている段階かまでは判断がつかず
……
」
「うーん、そうだよね。そっちはどう思う?」
『ただの人間だろう、あれは』
プリテンダーはあっさり断言した。ややこしい事情はあるものの、ほぼ本人がそう言うならそれで間違いないだろう。
今回も例のごとくレイシフト直後にトラブルに巻き込まれ、たまたま通りがかった彼に庇われてここまで着いてきてしまった。
その姿に思うことがなくはないものの、態度は友好的だし、正直なところ味方になってくれるなら助かる。
『あれはあれで厄介だから油断するなよ』
「え? それってどういう
……
」
聞き出す前に本人が戻ってきたので、内緒話はここまでだった。
「待たせたね、話の続きに戻ろう。さて、どこまで話したんだったか」
そう言いながらお茶の準備を進めていく。手伝おうとしたマシュが不思議そうに尋ねた。
「あの、ミスター。失礼ですが一人分多いのではありませんか?」
「ん?」
ティーカップは4客。この場の人数は3名。フラウロス氏は寛大に微笑み、残る一人へ呼びかけた。
「そうだね、せっかくだからそこの君も一緒にどうだい」
「
……
嫌味なやり口だ。おおかた未来予測で分かっていたのだろう」
勝手に姿を現したのは偽典ソロモンだった。いつもにも増して不機嫌そうで、驚く藤丸を視線だけで黙らせた。
「気を悪くさせたかな? それはすまなかった。
私も、本当に君がいるのか確信があったわけではないんだ」
その顔からすっと笑みが消える。冷たいわけではないが、感情を交えずに対象を観察する研究者の目だった。
「ゴーストライナーにお目にかかるのは初めてだよ。ずいぶんと古い時代の存在のようだ。
ところで、どうにも赤の他人とは思えないのだけれど、歓迎する前に改めて君たちの用向きを伺ってもいいかな?」
「貴様に用があって来たわけではない。
そこの藤丸の言った通り、はぐれた連中を回収して帰るだけだ。自意識過剰はやめてもらおうか」
頭の上で繰り広げられる会話がなんだかとっても刺々しい。さすがに割って入ろうと藤丸が口を開いたところで、フラウロス氏とまともに目が合った。
「マスターの君。彼、あんなこと言ってるけど?」
「そうです! 本当にただの迷子回収です!」
反射的に正直に答えてしまった。ふだん応対が柔らかい人の真顔ってなんか怖い。
偽典がため息をついて横から補足した。
「言いたくはないが、仮に貴様が標的であれば接触の方法はもう少し工夫している。
うかつに騒動を起こした挙句、あちらの名で呼びかけて助けられるなど、そんな無様は見せないさ」
「ふむ
……
、まあそれもそうか」
彼はひとつ頷くと、ちょっと眉根を下げて微笑んだ。
「わるいね。最近厄介な案件を抱えていて、あちらの彼が先方の使い魔かと疑ってしまった。
杞憂で済んでよかったよ」
「そうですね
……
」
どっと疲れた気がする。
突然の展開にかたまっていたマシュも、ようやく緊張が解けたようでぎこちなく尋ねた。
「あの、もしかしてミスターは何か危ない目にあっているのでは?
私たちにできることはあるでしょうか」
しかしフラウロス氏は笑って首を横に振った。ティーポットを持ち上げて姿勢良くカップへお茶を注いでいく。
「私の心配は無用だよ、お嬢さん。これでも魔術師の端くれだ。自分の面倒ぐらい自分でみれる。
だが、手を貸してくれると言うならそちらのクッキーの皿を頼めるかな」
「はい。うけたまりました」
仕事を頼まれたマシュはなんだか張り切っている。その光景が微笑ましくて、偽典にこっそり念話を送った。
『ソロモン的にはどう思う? あれ』
『オレに振るな。何の話だ、何の』
怒られてしまった。下手に踏み込むとまずそうなのでそっとしておこう。
ローテーブルの上はあっという間に整えられて、藤丸の前にも「どうぞ」と紅茶のカップが置かれる。礼を言ってソーサーごと持ち上げると、ふわりと湯気が香った。
「
……
あ、おいしい」
「そう? 気に入ってもらえて何よりだ。
それにしても躊躇なくいくね、君」
フラウロス氏は自分もカップを傾けながら、ちょっと呆れ気味に言った。
「べつに毒など入れてはいないが、魔術師の根城で出されたものを疑いもなく口にするのはおすすめしないよ」
「うっ。いや、でもオレは大体の毒きかないし」
クッキーへと伸ばしかけた手が怯む。もう協力してくれるものと思って油断していた。言い訳がましく説明すると、彼は素直に驚いてくれた。
「ほう、それはすごい。
ならばなおさら有利なカードとして伏せておいた方がいい。君たち、これから魔術師だらけの街を調査するんだろう」
「はい
……
」
ぐうの音も出ない正論だった。ライナス師匠に時計塔の魔術師しぐさをもっとよく聞いておけばよかったかもしれない。
「ははは、まあ警戒するに越したことはないという話だよ。
このあたりは時計塔の中でも権勢欲の薄い連中が多いが、倫理観の乏しい魔術師であることには変わりないからね」
そんなエリアにお住まいの魔術師は気さくに笑い、カップをソーサーへ戻した。
「とはいえ行方しれずの君たちの仲間を放っておくのも危険だな。
いいよ、情報提供くらいなら協力しよう」
「! やった、ありがとうございます!」
マシュと顔を合わせて小さくガッツポーズする。
フラウロス氏は紙とペンをもってくると、簡単な地図を書き出した。
「ごらん、我々が今いるのはここだ。
情報を集めたいのならこの辺りの通りへ行くといい。宿や食堂も多い。こちらのエリアには近づかない方がいいかな、とくに夜は」
のぞきこむ藤丸たちに地図のあちこちを示し、さらさらとメモを書き込んでいく。クセは強いが几帳面そうな字だった。
こちらからの質問には、口頭で答えつつ地図にも追記してくれる。おかげでこの辺りの全体像と次にやるべきことがはっきりしてきた。
「あいにく聞き込みの方面では私は力になれないが、役に立ちそうな者には心当たりがある。あとで一筆書いておこう」
「それは大変ありがたいです。
ですが、あの、どうしてこの場所も“危険”のマークがついているのでしよう?」
マシュが指さしたのは、今まさに話をしている現在地だった。フラウロス氏の研究棟。近づいてはいけない印としてバツのマークがついている。
館長である彼の眼差しがすっと冷えた。
「危険だからだよ。
先ほども言ったように、私は私で厄介ごとを抱えていてね。君たちを巻き込みたくはない」
「それは
……
」
何か言いかけたマシュを、フラウロス氏は軽く手を上げて制した。
「この件については手出し無用だ。
いいかい、もし今後、私の姿を見かけることがあっても声をかけてはいけない。知らんふりをして通り過ぎることだ」
不穏な響きを感じて藤丸はマシュと顔を合わせた。
ここまで協力してくれて、いまさら体良く追い払おうとするだろうか。
「なぜ、と聞いてもいいですか」
藤丸の質問に、氏がまともに答える義理はない。
しかし適当にはぐらかしたとしても、二人が“うっかり”接触しかねないという懸念がまさったようだった。
「
……
詳しいことは言えないが、きっとその私は君たちのことが分からない。危害を加えてくる可能性もある。
目をつけられないのが一番だよ」
歯切れ悪く、自分のことなのにまるで他人のような言い方をする。
嫌な予感がふくらんでいく。外見は何も変わらずに、カルデアのレフ教授の中身は魔神柱にすり替わっていた。誰にも気づかれないまま。
「そう、見た目は同じでも中身は別人と考えた方がいい。だから
……
」
「だめです」
マシュが立ち上がり、張り詰めた声で唐突に話を遮った。
虚をつかれてフラウロス氏はマシュを見上げる。まさか大人しそうな彼女にいきなり否定されるとは思っていなかったのだろう。
「え?」
「だ、だめです、それはいけません。ミスター、どうか考え直してください」
お願いですからと迫る必死さを無碍にもできないようで、こちらに目でヘルプを求めてくる。すかさず藤丸も加勢した。
「オレもよくないと思います」
「いやあのね」
困った顔の彼をなんとか説得しようと、二人してフラウロス氏の座る椅子へ詰め寄る。
「諦めないでください。まだきっと方法はあるはずです」
「そうですよ、一緒に考えましょう。
魔術のことならオレ達にも専門家がついてるし! なんなら今ここにも
……
」
「そこまでだ。お前達いい加減にしろ」
言いかけたところでその専門家からストップがかかった。
偽典ソロモンは一番離れた席にいて、それまで我関せずとばかりに静かに紅茶を飲んでいた。今も積極的に話に参加するつもりはないらしく、視線は手元のカップに落としたままで淡々と告げる。
「その男が言っているのは、お前達が危惧しているような話ではない。むしろ逆だ」
「逆
……
?」
「世界を灼かせないための手立て。好都合だから放っておけ」
それはつまり、魔神柱にはならないということだろうか。慌ててレフ教授、もといフラウロス氏の顔をうかがうと、彼は感情を排した目でじっと偽典を見ていた。
言葉の意味を吟味し、真実に辿り着くのにそう時間はかからない。
そして、それがこの世界の彼にとって何を意味するのかを藤丸は遅まきながら理解した。
「──フラウロスさん、あの」
「いや、いいよ。大体わかった。
つまり、そちらの世界の“私”はしくじったんだね?」
分かりきった事実を確認する、何気ない口調。
その通りだ。カルデアのレフ教授は魔神の因子に目覚め、人理焼却の引き金を引いた。
けれどそれは目の前のフラウロス氏には関係がない。知らせる必要もなかったのに、と藤丸は下唇をかんだ。
フラウロス氏はそんな藤丸の様子を見て、大きく息をつく。
「まいったね。そこまで知っていた君たちに隠し事なんて、間抜けもいいところだ」
取り繕っていた秘密をひとつ明かして、氏は椅子の背に体重を預ける。その目元に疲れがにじんでいることに藤丸は今更気がついた。
「たしかに我が一族には、私の代まで脈々と受け継がれてきた冠位指定のオーダーがある。
──そのせいで君たちには迷惑をかけたようだ。謝って済むことではないが、すまなかったね」
「いえ、それは、あなたのせいじゃないです。
……
レフ教授だって、巻き込まれた一人ですから」
「そう? そこは見解の相違かな」
フラウロス氏はそれ以上は深入りせず、偽典の方へ声をかけた。
「君が何者なのかは聞かない方がよさそうだ。
私は起こりえない未来も、あったかもしれない過去にも興味はない。現在の私のやるべきことは変わらないからね」
「
……
知っている。貴様はそうだろうとも」
それはいつになく苦々しい返答に聞こえた。やはり視線を合わそうとしない偽典に対し、フラウロス氏の方はかえって柔らかくほほえんだ。
「ああ、そんな顔をしないでくれ。君に哀れまれる筋合いはないよ」
赦しのようにも、突き放すようにも聞こえるその言葉の意味を、うまく理解できるわけではない。きっと二人の間だけで通じる内容だろう。
藤丸は口を挟まずに会話の順番が回ってくるのを待っていた。フラウロス氏は手品の種明かしでもするように、何もない両の手のひらをこちらに示す。
「まあ、そういうわけだ。
私は私に天命を与えた何者かの思惑に従う気はない。失敗するつもりもないから、そこは安心してほしい」
そう請け合うフラウロス氏の言葉に、マシュが「よかった」と安堵の息をつく。
「本当に良かったです。勘違いで取り乱してしまってすみませんでした。
ですが、具体的にはどうするのですか?
冠位指定は血に刻まれた呪いのようなもの、と認識しているのですが」
「それは秘密さ」
むしろ楽しそうに、魔術師は人差し指を口元にあててはぐらかす。
「誰がどこで聞いているともしれないからね。もしどうしても知りたくなったら、全てが終わった後にそこの彼に聞くといい」
話を向けられた偽典は、うんざりした顔で「聞くなよ」とだけ言った。口に出すのも憚られるえげつない方法なのかもしれない。
「わかりました。オレのサーヴァントが文句つけないってことは成功が見込める方法なんだろうし、あなたを信じます」
「うん、助かるよ」
フラウロス氏はあっさりと頷き、その話はそこまでとなった。
ひと段落ついて研究棟を辞する時には、はやくも夕暮れが近づいていた。
この後の段取りと、明日以降はフラウロス氏へ接触しないという取り決めを改めて確認して、それでも名残り惜しさを感じてしまう。
「ご協力、本当にありがとうございました。
だけど残念です。貴方とはもっと話をしたかった」
「すこしタイミングが悪かったね。こればかりは仕方ない」
フラウロス氏の方はさばさばとしたもので、むしろ今後のことが気になるようだった。
「繰り返しになるが、本当に気をつけなさい。
知った顔だからといってついていったり、お菓子に釣られて騙されるんじゃないよ」
「分かってますって! さすがにオレもそこまで子どもじゃないですから」
「そうかい? ならいいけれど」
どこまでが冗談か分からない口調で、ポケットに手を突っ込んで笑っている。まったくこの人は。
「
……
大丈夫だとは思いますけど、もし助けが必要になったら呼んでくださいね。まだしばらくはこの近くにいると思うので」
「気遣いはありがたいが、その気持ちだけ頂いておこうかな」
君たちも頑張ってね、と右手を差し出されて、藤丸は驚いた。
「魔術師のひとって握手するんですか?!」
「するよ。そりゃ人によるけど」
脳裏にカドックの顔が高速でよぎり、ためらう間に手は引っ込められてしまった。
「ああ、用心するのは良いことだ。無理して付き合うことはない」
「無理じゃないのでもう一回チャンスください」
「ええ
……
?」
大丈夫かこの子という視線を感じながら、今度こそがっちり右手をつかまえる。ひんやりとして指の長い、大きな手だった。
「会えてよかったです。またいつか、別の機会に」
その時はまた別の世界の別人かもしれないけれど、希望を込めてそう願う。フラウロス氏はそれには答えず、短く激励の言葉を贈った。
「君たちの健闘を祈るよ」
二人が握手を交わす様子をマシュはそばで見守っていた。いや、そわそわしながら順番を待っていた。
「あの。もしかまわなければ、私も最後に握手よろしいでしょうか」
「もちろん、よろこんで」
差し出された手をマシュは大切に両手で包み込む。
予想外の行動だったようでフラウロス氏の肩が一瞬強張るが、結局そのままマシュの好きにさせてくれた。
「ありがとうございます。ミスターも、どうかお元気で」
顔を上げて、精一杯の笑顔を見せるマシュに、フラウロス氏は何か問いたげに口を開いた。
「君は
……
」
「はい?」
けれどその先は続かず、彼は微笑んでかぶりを振った。
「いや、よしておこう。それは私の領分ではない。
君たちが無事に家に帰れるよう願っているよ」
■おまけ ダメ出し1
「いや、ちょっと待ってくれ。
君たちの世界の私は裏切り者だったんだろう? つまり君たち、そんなのと同じ顔をした怪しい人間にほいほい着いてきたってことかい?」
「まあ、そうですけど
……
」
端的にまとめるとそうなる。
信じられないという顔のフラウロス氏に、藤丸は慌てて説明を追加した。
「たしかにレフ教授はみんなを裏切ったし何度も殺そうとしてきましたけど、それだけじゃないっていうか。
オレたちだって何十回と倒して素材もらったし、色々あって、そう本当に色々あったんですけど、ここで説明していいのかなこれ
……
」
わやわやの説明に、かえってフラウロス氏からの信頼度が急降下していく感じがする。
儀典ソロモンからの視線も痛い。そもそもこっちのフラウロスへの好感度も判断に影響していなくはないけれど、本人に知られたら確実に説教コースなので黙っておく。
「いや、とにかく!
当然警戒はしてました。また裏切られるかもしれないし。
でも、貴方ならきっと大丈夫じゃないかって、今度こそ信じられるかもと思ったんです」
魔神の因子に目覚める前でも後でも、ちゃんと話をしたかった。
「
……
あのね、信じたいから信じるなんて、本当によくないよ」
「忌々しいが同感だ」
だめだった。普通に怒られた。
■おまけ ダメ出し2
そっちの彼が近くにいると存在がひきずられそうな感じがするね、長期間だとたぶんキツい、霊体化してても影響かんじるし、という内容をミスターがぼやいたとき。
「えっ、じゃあもしかして初めて会った時も、なんか自分にとっての厄ネタがいるな~って分かってたんですか」
「そりゃそうだよ」
「危ないと知ってて、ここまで連れてきてくれた?」
「ああ」
あっさり認めたフラウロス氏に、藤丸は全力でツッコんだ。
「ダメじゃないですか!!」
先ほどの意趣返しではないが、ただの人間の魔術師である彼にとって、英霊の相手はどう考えても荷が重い。もし本当にゲーティアの手先だったらどうするつもりだったのか。
しかしフラウロス氏はけろりとした顔で言った。
「ダメじゃないよ」
「えっ」
「もし本当に私にとっての“厄ネタ”であれば、対決は避けられない。
それなら当然、勝算が一番高い時に仕掛けるさ。
君たちは着いたばかりで右も左もわからない様子だっただろう? 私の方は短期間に大幅な戦力増強は見込めないし、時間をおくほど不利になる。
そういうわけで短期決戦を狙ったんだ」
ロジカルに命を狙われていた。
急に背筋が寒くなり、何も言えずマシュと一緒に黙り込む。そんな藤丸に「だから警戒しろと言っただろ」とか「もう仕掛けは解除したから大丈夫さ」とか二人が好き勝手に追い討ちかけてくる。
藤丸は両手で顔を覆った。
「フラウロスさんが思ったより殺意高めな人だった!」
「心外だなあ、このぐらいは当然だよ。
いつどこで恨みを買って狙われるか分からない人種だからね、私たちは」
のんびりとお茶を飲みながら物騒なことを言っている。
「どうだい、少しは警戒心を持つ気になってもらえたかな?」
「はい。ていうか思い知りました。反省します
……
」
ひとまずうちに来るかい。そう言って親切に誘ってくれた時にはもう暗殺の算段がついていたのだろう。はああ、と重たいため息をついてしまう。
さすがに見かねたのか、フラウロス氏はすこし言葉を和らげた。
「すこし脅かしすぎたかな。
素直さは君たちの美点だとおもうよ。ただ、時と場合によっては命取りになる。ここではもう少し気をつけた方がいいだろうね」
「うう、フォローありがとうございます」
まだしおしおの藤丸に苦笑して、彼は窓の外、どこか遠くへ目をやる。
「まあ、助けた動機に打算があったことは否定しないが、べつにそればかりだったわけじゃない」
どういうことかと顔を上げた藤丸に、フラウロス氏は少しきまり悪そうに打ち明けた。
「そちらではどうか知らないが、私はもっぱらフラウロスの名前で通しているんだ。フルネームを知っている者はそう多くない。
レフの名を知る君たちを見捨てるのは忍びなかった、というのも本当さ」
「ミスター・フラウロス
……
!」
マシュの声が明るくはずむ。
なんとなく良い話な雰囲気に流れていったので、『もう仕掛けは解除したから』あたりの詳細は結局聞きそびれてしまった。
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