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幸希(ユキ)
2026-02-28 17:35:02
2679文字
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土佐弁と私の出身地の方言がいろいろ出てきます。
「主、これほかってええやつか?」
「え、あぁもういらないそれ。いいよ。」
「終わったもんくらい片付けんと。」
「ごめんて。」
報告提出が済んで、もうとっくに終わっている研修概要資料。捨てるの忘れてたな。むっちゃんからの小言を聞き流し、そこまで考えてからはたと気付く。
(さっき土佐弁じゃなかったな。)
「ほかる」。これは土佐弁じゃなくて私の出身地の方言だ。「捨てる」と言いたい時に使うのだけど、土佐弁なら「ふてる」だ。
たまにむっちゃんは私の方言を使う。といっても頻度自体はものすごく少ない。普段の会話で聞く方が珍しい。私が出さないように話してるから、覚える機会が限られるっていうのもある。あるとすれば年に数回ある実家の帰省くらいだろう。
(にしたってよく覚えてるな。)
好きだからとはいえ、棲みかでもない土地の方言をわざわざ覚えて使っている私が言えた筋合いではないが。
土佐弁は語感が好きだ。語尾や言い方が丸みを帯びていてとても可愛い。「ほにほに」とか「まけまけ」とか、繰り返し言うような表現の仕方をするのも好ましい。加えて「やき」や「にゃあ(厳密にはねゃ)」。あんな語尾あるのか反則だろ、と毎回思う。ぶっちゃけた事言えばむっちゃんがそれを使う度に「か゛わ゛い゛い゛ぃぃぃぃぃぃ!!!!」と思ってる。心の中で。口に出せたものではない自覚はある。
(まぁそれはそれとして
…
)
対して私の方言は言葉尻がかなりキツイ。なんなら喋り口調の時点でキツイ。男だろうが女だろうが「~しろよ」みたいな話し方をするから、慣れてない人からすると印象としてよろしくない。方言萌えなんて言葉があるが、うちのところは絶対当てはまらないやつだ。どこに萌えを見出だせと言うのだろう。そう思うくらいには可愛げのない方言をしてる。
(比較的可愛らしいのは「めめる」くらいか。)
ちなみに「めめる」は「食べさせる」だ。
「ねぇむっちゃん。」
「どういた?」
「むっちゃんたまに私のとこの方言使うよね。」
「
…
使っちょった?」
「?うん。」
「
……
やまった。」
「やまった」。「しまった」の意味。何かバレたらまずい事なのか?それが顔に出てたようで、困った顔になるむっちゃん。
「おまさん、前に自分くの方言はキツイき使うな言うちょったろう?」
「言ったね。」
「けんど、わしどうしてもおまさんとこの方言覚えとうて、こっそり練習しちょったがよ。」
「なんでまたそんな事。」
「覚えたら一緒に帰省した時にもうちくといろいろ出来るじゃろ?」
帰省に付いてきた時、家族の話してる事がいつも微妙に分からず、私の後を追ってくる事が多いむっちゃん。場合によっては通訳がいる。それがどうにも不便だったらしい。
「内緒にしなくても良かったのに。」
「主を驚かせたかったがよ。」
「努力するねぇ。」
よしよし、と頭を撫でれば嬉しそうな顔になるむっちゃん。こういうとこわんこだよな。
「それにの。」
「ん?」
「おまさんはわしの土佐弁が好きじゃち言うて覚えゆうろ?」
「そうね。可愛いもん土佐弁。」
「わしもおまさんとこの方言好きなんじゃ。」
「え?あんな男も女も差がないくらいキッツイ言い方してるのに?」
愚弟との喧嘩を見てるから、本来の私の語気の荒さは知ってるはず。本当に可愛げの欠片もないのよ。
「わしのと、おまさんの。時々似ぃちゅう言葉があるじゃろ?」
「“ねき”とか?」
「そうそう!“ずつない”もそうじゃの。」
「でもあれ意味合い違うよね?私のとこは“邪魔”とか“鬱陶しい”だもん。」
「土佐やと“辛い”じゃな。」
「“邪魔”だけでスポット当てたら、土佐弁だと“まぎとろしい”だもんね。」
「おまさんほんまによう覚えたねゃ。」
「好きこそものの上手なれ、よ。むっちゃんの話す土佐弁が好きだから分かるようになりたかった。」
そう言えば、むっちゃんは私の手を握り、はにかみながら話す。
「土佐藩初代藩主の山内一豊公は尾張の方の出身で、奥方の見性院様はおまさんの故郷の出身ちいう説がある。家系図も残っちゅうしの。
元々土佐弁がいつからあったかはわしも詳しゅうは知らん。けんど、独自に育ったこの言葉に、おまさんの故郷と近い言葉がある。一豊公が来た事で伝わった言葉やとしたら、おまさんとの繋がりにもなる。思わんところで縁があったと思うと、覚えとうなってしまったんじゃ。」
もしほんまにそうやったとしたら、運命にしてしもうてもえいろう?そう言って笑うむっちゃん。「まぁバレてしもうたけんど」と恥ずかしそうにしてるけど、やばい頭が『むっちゃん可愛い』としか認識しなくなってきてる。
要は私との共通性を見出だして、それが運命であればいいと思って覚えてたって事でしょ?不便さの解消もあったけど、私を驚かせようともしてて、それでこっそり勉強してたって事だよね?健気か?可愛いが過ぎるぞこの野郎。
「ねぇ。」
「ん?」
「可愛いね。」
「何がじゃ?」
「むっちゃんが。」
「わし?」
「うん。大好き。可愛い。」
「可愛いかのう。」
「可愛くてかっこよくて健気な私の恋刀。一等愛しい旦那さん。」
「急にデレるやか。」
「急な供給浴びて私の感情爆発してる。」
可愛いと大好き以外に何を言えと。健気?いじらしい?それも結局のところ行きつくのは「可愛い」でしかない。
「私のかわええ刀。こんな好きになるとかねっか思わんかったに、なぁんで想うようになったやろ。ほっとに分からん。ふんべたないわぁ。」
「ん?その“かわええ”は“可愛い”の方なが?それとも“可哀想”の方かえ?“ねっか”はまだ分からんぜよ。」
「あはは!ニュアンスで読まれるかと思ったけど全然だね。」
「ヒントないがか?」
「やーだ。教えてもいいけど知った時の楽しみ半減するじゃん。」
「おおの
…
。」
いつか調べて分かるようになった時、この意味が分かればいい。私も君の方言を知って、意味がちゃんと分かるようになった時は本当に嬉しかった。正しく想いが分かる事がどれだけ嬉しいか。
「びっとでもダメかえ。」
「ダメー。」
「めったに聞けんき骨が折れるのう
…
。」
「次帰った時多めに方言出すようにするから。」
「優しいんじゃかいじくそなんじゃか
…
。」
苦笑するむっちゃんだけど、琥珀の目は楽しそうに輝いていた。
「そのうちマスターしちゃるきに。」
「楽しみにしてる。」
お互いの言葉が馴染むのも悪くないよね。
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