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みがきにしん
2026-02-28 11:58:56
8093文字
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或る悪辣な大金持ちの話
オーナー解釈話です。闘士たちの話題はほとんど出てきません。
何をどうしてアルカディアはヘビー級で開示されたあの状況になったのか?というのを延々考えて書きました。
至天の座アルカディアおよび旧アレクサンドリア王国・新生アレクサンドリア連王国に関する妄想と幻覚と解釈が詰まっています。
『かつてこの国には、よこしまな心を持つ大金持ちがおりました』
『大金持ちはその有り余る富を使って人々を楽しませておりましたが』
『ある時からその邪悪さを露わにし始めました』
『なぜなら、大金持ちは飽いていたからです』
『代わり映えのないこの国に、景色に、毎日に、すっかり飽き飽きしてしまっていたのでした』
『だから大金持ちは、新しい娯楽を作ることにしました』
『
――
どんな犠牲を払っても』
私は演劇が好きだ。
代わり映えのない雷雲の下、障壁に囲まれたこの国であっても、創造物の翼はいつだって見たことのない景色の中へ連れ出してくれる。
あったかもしれない可能性も、見たことのない太陽の熱さも、古い図鑑の中にしかいない動物たちも、空想物語の中にしかない青空も、遙かな未来の光景も、限りなく広く青いと聞く海も、想像の上だけの美食も、かつて先祖達がいたという滅びた祖国も
――
物語の中ならば確かに存在し、鑑賞者にそっと寄り添ってくれる。鮮やかで美しい一時の夢を見せてくれる。
歓喜、激怒、懊悩、恋慕、落胆、緊張、敵意、羞恥、幸福、希望、愛情、熱狂
――
色とりどりの感情が胸の中に咲き、日常を打ち壊し、退屈を遠ざけてくれる。
障壁に囲まれたこの国には、元からどこかに拭いきれない閉塞感があった。そしてそれはある時『外』から人々と彼らの暮らしていた土地が突然現れたことによって更に強まってしまった。
『外』から来た人々の多くは、自分たちがつい先日まで自由に行き来していた『外』のことを忘れることも、振り払うこともできなかった。そしてそれはかつてほとんどの人が諦めた『外』という場のことを聞いた、障壁内の人々も同じだった。
――
エレクトロープ技術の進歩によって、かつてに比べ生活は非常に安定した。労働のほとんどは機械兵が代替し、衣食住に不足はなく、死は遠ざけられ、どんな人であってもまず生きていける程度の社会保障が整備されている。
それでも、あったはずだった景色、あったはずだった生活、あったはずだった自由、あったはずだった幸福、それらを一瞬でも考えない人は少ないに違いない。
そしてそういった時、私は胸が塞ぐような感覚を覚える。障壁の中で生まれ、育ち、この国に愛着を持った私でもそうなるのだから、きっと他にはもっと苦しむ人がいるだろう。
それでも私たちは、『外』に出ることは叶わない。ただ障壁の中で暮らし、日々を重ね、そして来たる日には記憶を雲の上に預ける以外にはない。
だから私は、先祖の作ったアルカディアを再興した。
私が作るこの娯楽が、この国に生きる人々の間に漂う鬱屈を、安寧の底に揺蕩う不安を、いつの間にか傍に寄り添う薄ら寒い虚無を、胸を塞ぐような行き場のなさを、僅かな時間でも取り払うものであってほしいと思っていた。
そして私が演劇を愛したように、アルカディアもまた人々から愛されてほしかった。
『そして大金持ちは大きな劇場を作りました。中では日々見世物が行われています』
『けれどただの見世物ではありません』
『それは人形同士の闘いでした。何もかもに飽いた大金持ちは、血湧き肉躍る闘いこそが最も人を刺激するのだと知っていたのです』
『けれどそれも、すぐに飽きてしまいました。それらは所詮、人形同士の闘いだからです』
最初は魂の再現体同士の闘技ショーだった。間近で見れる、人の形をした者たちの闘いはたちまち話題を呼び、人気を博した。
だが、血も骨もない彼らはダメージを負っても怪我という形では表に出ない。耐えきれなくなった時には、再現が保てなくなり姿が消失する。
だから魂のストックによる死の回避に慣れ親しんだ人々は、それではすぐに満足できなくなった。魂の再現体は見た目や動きこそ生前の人間のそれだが、やはり再現体でしかない。本物の闘いではない、刺激が足らないと判断されたのだ。
順調だったチケットの売れ行きは徐々に鈍った。スポンサードしてくれる企業も少しずつ減った。アルカディアから出て行くものは増え、借り入れる額ばかりが膨らむ。
私は悩んだ。これでは駄目だ。この国の人の閉塞感を打ち払うにはまだ刺激も興奮も足りない。こんなものでは、人に活力を与えるなど夢のまた夢だ。これではアルカディアは再び潰えてしまう。私の夢も先祖の思いも頓挫してしまう。
そんな時だった。とある軍人に、魔物の魂の利用を勧められたのは。
『悪賢い大金持ちは考えました。闘いというテーマは悪くない。それをやるのが人形だからつまらないのだ』
『もっともっと刺激溢れるものでなくては!』
ゾラージャ直下の部隊に所属するその軍人は、魂の再現体を闘わせるという初期のコンセプトに共感し、アルカディアが保持する、かつての所属闘士たちの魂が回収されないように軍やオリジェニクスに掛け合ってくれた恩人でもあった。
だが、今考えればそれも、アルカディアに恩を売るためだけの行動だったのかもしれない。かつての闘士たちの魂はそれなりの数存在したが、それら全てを収容したところで、オリジェニクスに保管され民に供給される魂の数からすれば、誤差レベルの量でしかない。
たかがしれた数の魂を見逃すだけで、サンプル数の足りない実証実験の舞台が増やせるのならば、軍からすればきっと安いものだったのだろう。
だが愚かなことに私は、その時それに気付くことはなかった。
事実、アルカディアの前にも魔物の魂は様々な場所に供給されていた。それらは駆除人のような、未だに全てを機械兵に任せることができないにも関わらず、危険度の高い仕事に従事する場合に提供されており、いずれの例も目覚ましい成果を上げていた。
駆除人の場合、駆除率は上昇して治安は改善し、死亡率が低下したことで駆除人たちが必要とする魂の量もまた減り、さらに精神的余裕が現れたことで退職率が下がり、駆除という職務全体でのタスク管理や処理も容易になった。
これまでに加えて魔物の魂を使用するだけ。その制御はレギュレーターが一貫して行うから、新たな操作はほぼ必要ない。使用に際して、魔物の性質と個人の資質のかみ合いこそ存在するものの、特に問題になりそうな副作用も見られない
――
。
そしてこの「素晴らしい成果」は大々的に発表されていた。だからこそ、能力だけに留まらない魔物の魂の利用を勧められた時に、抵抗感が少なかった。
もちろん、その技術に全く疑念を抱いていなかった訳ではない。何せ武王ゾラージャは、どんな日も常に国民のそばにいた理王とは違いやはり距離があった。
それでもまだ信じていた。王という国民の庇護者のことを。エレクトロープがもたらす革新を。これまで数多く提供されたそれらが私たちの暮らしを良くしてきたように、魔物の魂のそれもまたそうなのだと、無邪気に。
いや
――
今となっては何もかもがつまらぬ言い訳に過ぎない。
私は軍人から行われた提案を飲み、魔物の魂の提供を受けた。それだけが事実なのだから。
『大金持ちは魔物に変える魔法を、何も知らない若者たちに使うことにしました』
『魔物になった若者たちを闘わせることにしたのです』
『大きく強大な力を得た若者たちは、大金持ちの指示のまま闘いました』
『その闘いはとにかく派手で人目を引き、毎日のように違うドラマが生まれます』
『例えその魔法に大きな問題があるとしても』
『大金持ちは大満足でした』
結論から言えば、魔物の魂を使用し肉体を変異させた闘士たちによるショーは、大衆に熱狂的に迎えられた。
もちろん、失敗や困難がなかったわけではない。魔物の魂を使用する闘いに耐えきれずに古いリングが壊れ、大急ぎでエレクトロープ製の特注リングに変更する必要があったり(借入額が見たことのないものになり、さすがに一瞬気が遠くなった)、再現体による闘技ショーのファンだった人たちが「再現体による試合も残してください」と署名を送ってきたり(受け取り、少しの間興行も続けたが、やはり採算が取れずに終わった)、あることないことを下世話なメディアに書き立てられたり
…
本当に様々なことがあった。
けれど、魔物同士の力のぶつかり合いはこれ以上ないほど派手で刺激的だったし、注入する魂とそれを行使する闘士たちの対戦カードによって毎回異なるドラマが生まれた。
その上、魂による蘇生で「死」それ自体は避けられる。強大な力のぶつかり合いにより、血が舞い、骨が折れ、肉が千切れ、あるいは身体の一部が無残に潰れたとしても、闘士たちは決して死にはしない。誰もが安心して見れる、しかしこれ以上なく刺激的な
死闘
ショー
の誕生だった。
闘士の多くが若者であったこともまた功を奏した。若きスターたちに大衆はすぐに魅了され、個々人にそれぞれのファンが付いた。
これは正直なところ意図してのことではなかった。魔物の魂を使用することにある程度慣れており、かつ新たな仕事
――
人前に出て顔を晒し、姿を変異させて闘う
――
闘士の誘いに乗るのは若者しかいなかったというだけであったので。
ある程度以上キャリアがある人は危険を冒してまでわざわざその仕事を離れる理由などなかったし、何よりアルカディアという娯楽が一時傾きかけていたのは周知の事実だった。下手を打てば約束した給与の支払いさえ怪しい、そんな場にわざわざ転職していいと考えるような大人はまず居なかった。
しかし、そんな伸るか反るかの賭けに乗ってもいいと、私の語るアルカディアという場に夢を見てもいいと頷いた若者たちというのは、とにかく興行に前向きでチャレンジ精神が旺盛だった。
そして何より、私もまた抱えていた閉塞感を私より、そしておそらくは殆どの大人より、ずっと強く感じていた。皆、苦しんでいたのだろう。この国の狭さ、この国の息苦しさ、この国の閉塞感に。若いからこそ鋭敏にそれらを感じ取り、ゆっくりと心を磨り減らしながら、しかし逃れることもできずに。
だからこそ、闘士となった若者たちはリングに立ち、スポットライトを浴び、魔物に近い姿に変化して、大衆の、そして自分自身の閉塞感を振り払うかのように日々闘った。それを見た観客はひとときの間日々の中の不安を忘れ、興奮し、大声を上げ、手を振り上げて、闘士たちに声援を送る。
そこには、私が何より見たかった景色があった。誰もが障壁の中におり、この国から逃れることはできないという事実さえも忘れそうな熱狂があった。闘士も観客も、アルカディアという場で、共に渦を作り周囲を巻き込み、火傷しそうなほどの熱を共有した。
そして、試合を終えた闘士たちは、勝った者は輝くような笑顔や喜びを携え、負けた者は悔しさを滲ませたり拗ねたような顔で私の執務室へやってくる。
若い彼らのその愛おしさときたら、私はいつだって彼らを甘やかさないように自分を律さなければならなかった。私と彼らはあくまで雇用関係であり、それ以上でもそれ以下でもないのだと、自分に日々言い聞かさなければならないほどに。
私は夢以上のかけがえのないものを得た。作り上げたアルカディアという場、その上で輝く闘士たち、その全てが私の幸福の形をしていた。
――
だから、気付かなかった。その幸福が何を犠牲にしていたのか。
『そう、人を魔物に変える魔法には大きな問題がありました』
『繰り返し魔物になると、魔物のそれに魂が蝕まれ、最後には死んでしまうのです』
魔物の魂を使用しての試合が軌道に乗ったことで、雇うことのできる闘士も増えた。最初期に雇った闘士たちによって、若者が抱える鬱屈を理解できた私は、ストレスやフラストレーションを抱えていそうな子に積極的に声を掛けた。
不良や厄介者とされて周囲から距離を置かれていた子たちもいた。カリスマがあり多くの羨望を集めていた子たちもいた。年齢にそぐわないような聡明さや実力を持て余した子たちも、あるいは生活に追い詰められた子たちもいた。しかし闘士になることを決めたどの若者も、何かしらの思いを抱えていた。
その若者たちが闘士となり、リングの上で輝き、歓声を浴び、それに相応しいだけの収入を得、時に自らのアイデンティティさえも確立していく様子を、私はずっと見ていた。アルカディアを再興した当初は思ってもみなかった望外の喜びだった。
けれどそれは元より、他者から借り受けた技術によって得たもの。取り立ては突然やってきた。
最も試合に精力的に出ていた闘士の一人が、ある日体調を崩し休んだことが切っ掛けだった。
心配になり住んでいる部屋まで訪ねれば、彼は衰弱しているというのにひどく恐縮し、覚束ない足でベッドから起き上がろうとした。それをどうにか押し戻し話を聞けば、体調が良くない自覚はずっと前からあり、それを押して試合に出ていたのだという。
それは目眩から始まり、肉体の感覚がズレていくような不調が続き、段々と身体が思うように動かなくなり、そして内側の
――
何か大切なものが膿んで腐るような実感が最近は強く、もうほとんど何もできないほどなのだと。
そんな症状など見たことも聞いたこともない。私はひとまず、懇意にしている病院に彼を連れて行き、全身を入念に検査して貰った。しかし、肉体が衰弱していること以外は何も分からない。原因はおろか、それが病なのかさえも。
ひとまず、彼は入院することになった。
それが幸福の取り立ての始まりだった。
『けれど悪辣な大金持ちは気にしませんでした』
『若者は他にもいるのですから』
私は信頼できる医師の複数人にコンタクトを取り、症状を伝え、考えうる病を調査して貰い、闘士たちの検査も繰り返した。しかし、何が起きているのかは一向に分からなかった。類似した病も報告されていない。
それだというのに、一人、また一人と目眩を訴える闘士が増えていく。
では何が起こっている? なぜ闘士たちだけがこのような症状に悩まされなければならない? なぜ同じ場所にいるはずの私や他のスタッフは誰一人として同じ症状が出ない? 闘士たちだけがなぜこんな目に
――
一つの可能性に行き着いて、私は目を見開き、震える手で彼らのプロフィールを呼び出した。種族も性別も生活様式もバラバラの彼らの共通項は僅かしかない。それは闘士であること、そして闘士になってからの期間だった。
入院している彼は言った。大切なものが膿んで腐っているのだ、と。けれど、内臓に異常はなく、肉体が衰弱している以外の問題はなかった。
では何が膿んでいるのか。答えは一つしかない。
急ぎオリジェニクスの研究員に連絡を取った。そして今後のさらなる寄付を盾に、魔物の魂を使用して肉体を変異させる技術について、分かる限りの情報提供をするよう迫った。
結果、提供された軍部の資料の中に示されていたのは『魂蝕症』の文字と、その症状の羅列。目眩、肉体感覚のズレ、肉体の衰弱、それらは、人の魂が注入する魔物の魂に影響され、ゆっくりと魂が腐敗していくことによって引き起こされるのだという。そして、その病の存在は、あの軍人に魔物の魂の利用を勧められた日よりもずっと前に判明していた。
奥歯を強く噛みしめた。私のアルカディアを実験場に選んだ軍部も、自分の愚かさも、どちらも許せなかった。
――
ああ。闘士たちにはなんと説明したらよいのだろう。君たちの病は私の責任だと言うだけならば簡単だ。だが、闘士たちはリングに立つことを生きがいとしている子もまた多かった。そんな子たちに、大きな虚ろを抱えながらもスポットライトを浴びることでどうにか生きている子たちに、「リングを降りろ」と私は言うのか。私自身が、多くの子をこの道に誘ったというのに!
闘士たち一人一人の顔が頭に浮かび、掠れた喘鳴が漏れた。自身の罪深さに押しつぶされそうで、報告書が表示された端末を縋るように握った。
端末には僅かにノイズが走ったが、それで何かが変わるわけもなかった。
だが、いくら悔いたところで病は治らない。
私はオリジェニクスの研究者たちに寄付増額の約束をし、引き続き資料を提供するよう、また治療法の研究をするように依頼した。更に腕の良い医師を雇い入れ、アルカディアの医療施設を拡張し、魂蝕症となった子が入院し、また手の施しようがなくなった後は、コールドスリープさせられる場所も確保した。
幸いにも(これが幸いと言えるのだろうか?)それらが迅速に、そして十分にできるだけの蓄えがアルカディアにはあった。闘士たちが文字通りその命を削って得た人気によって、とうにアルカディアはこの国の国民的娯楽となっていた。かつての私が願ったとおり、多くの人から愛され、熱狂を生み、心の支えにしている。闘士たちの命と魂を犠牲にすることで!
私は乾いた笑いを漏らす。何が愛だ、何が熱狂だ、何が空虚を埋めるだ、このアルカディアの全ては、若者たちの、あの子たちの命を削り取って作られているというのに!
――
それでも悔しいことに、興行を止めることはできなかった。軍部は今もアルカディアを実験場として監視していると考えていい。今、魔物の魂を使用することを止めれば、すぐにでも何かしらの(それも国としての強権を以て)介入が入るだろう。そうなった時、ただの一市民である私では、闘士たちを守り切れない。
だからできたことと言えば、闘士たちの使用する魔物の魂にチューニングを行い、その強さを調整して魂蝕症の進行を抑えることと、どうしても試合回数の多くなる統一王者に関しては「どの魔物の魂も使用してよい」というルールにすることで、負荷の高い魔物の魂を使用しない機会を設けることだった。
全ての対策を軍部に嗅ぎつけられていなかったなどとは思わない。しかし、幸いにも決定的な疑惑を向けられることはないまま、オリジェニクスからその連絡は来た。
人が生まれつき持つ再生因子と、それを強化する薬。それは何の因果か、先祖のいたリンドブルムで研究されていたのだという。あなたは元を辿ればリンドブルムの民だと聞いた、何か知らないか? そのような言葉で締められたメッセージを見ながら、私はゆるゆると顔を上げる。思い当たるどころではなく、おそらく再生因子の研究が始まったその理由を、私は知っている。
『もっともっと刺激的なショーを!』
『大金持ちはとうとう、自分にも魔法を掛けることにしました』
もうほとんど帰ることのなかった自宅の、最も奥まった部屋。往時は家長の私室だったというそこに、「それ」はずっと安置されていた。
リンドブルム。先祖たちの故国と同じ名前の、魔物の卵。伝え聞く話によれば、その魔物は無限とも思えるほどの再生能力を持ち、決して倒れることはなかったのだという。そして遙か昔の先祖たちはその魔物を拝し、どうやってか制御して国を守ることで貴族となったのだと。時代が下り、技術大国となった国がその蛇の力を不要とするようになっても、私の一族だけはずっとその蛇を守り伝えてきたのだと。
私は卵にそっと触れた。幼い頃、父の膝の上からそうした時のように、やはりほんのりと温かい。
先祖たちが何を思い、同じ名を持つ国から卵を持ち出したのかはもはや分からない。世界を巻き込む大戦の混乱の中でそれがどれほど困難であったのかも、もう想像するしかない。
だが、これが運命というものなのだろうか?
私は卵を抱きしめる。もしかすると先祖たちもそうしてきたように、祈りを込めて。
「リンドブルムよ、どうか
……
」
私の子たちを助けておくれ。
『化け物になった悪辣な大金持ちは劇場の奥に潜み、じっと見ています』
『自らの作り上げた娯楽を、その中に囲った若者たちを』
『そうして今日もいつも通りに、劇場の幕は上がりました
……
』
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