Hizuki
2026-02-28 10:55:35
1540文字
Public あんスタ[零薫他]
 

※予報はあくまで予報です

【あんスタ】零薫。帰り道で雪に見舞われた零の話。こんなに降るなんて聞いてない。



『今日の午後は雪がちらつくところがあるかもしれません』

今朝星奏館を出る時に、共有ルームで付いていたテレビから聞こえてきた気象予報士の言葉だ。強い寒気が流れ込んでくるため、雪が降る可能性がある、と。
午後の仕事を終えて外に出ると、ひどく冷え込んでいて雪が降ってもおかしくないような気温だった。ポケットに手を入れ、ぶるりと身体を震わせた。歩き始めて少しすると、ふと冷たいものが顔に触れた。雨かと思ったが、どうやらそうではないらしい。自身のコートの袖に白いそれがふわりと舞い降りてきた。

「予報通りじゃのう」

誰に聞かせるでもない独り言は、袖に付いた雪の粒と同じように寒空の中に消えていく。日中ではあまり目立たないものの、これが夜であれば夜闇の中に白が映えるのだろう。そんなことを考えながら歩いていると、少しずつ空の様子がおかしくなってきた。灰色の雪雲はその色を強め、降ってくる雪の粒は大きくなり、勢いを増してきている。

嘘じゃろ」

これはもう『ちらつく』という範囲を超えているのではないか。いつの間にか風も吹き出し、それに合わせて雪は斜めに吹き付けている。大げさに言えば、吹雪いている、という状態だった。顔に当たる雪の量も格段に増えている。あとはもう星奏館まで帰るだけとはいえ、まだ道のりの半分ほどだ。おまけに赤信号が自身の足を止めさせる。大通りの歩車分離式の信号で、変わるまでの時間を示す赤いライトは全て点灯している。もうしばらくはこの雪に晒されることになるのかと、思わず溜め息を吐いた。

「うわ、零くん頭真っ白じゃん」

不意に顔に触れる冷たいものが途切れたかと思うと、聞き慣れたハスキーな声が耳に届いた。声が聞こえた方に顔を向けると、そこにはもちろん薫くんが立っていた。

「傘は?」
持っておらん」

薫くんの手には折り畳み傘があった。普段から持ち歩いているものだろう、薫くんの鞄の中で見かけたことのあるものだった。

ちらつくと言っておったし、すぐ止むと思ったんじゃもん」
「まぁ雨じゃないからまだマシだよね」

溶けてしまえば同じ水ではあるものの、冷えた大気の中だからこそ白い姿を保っている。薫くんと顔を合わせたこともあって、この寒さの中に独りでいるのは限界だった。

薫くん、我輩はもう駄目じゃ

雪の中で全てを諦める時のような台詞を吐きながら、薫くんの肩に頭を寄せる。乗っていたらしい雪がはらりと落ちるのが見えた。

「はいはい、何かあったかいもの買お?」

自身の言葉をそう軽く流すと、ぽんぽんと軽く背中を叩かれた。きっといつもの困り笑顔を浮かべているのだろう。頭を離して目を合わせると、「ね?」と幼い子供に言い聞かせるような声と共に笑いかけてくれた。

買う」

小声で返事をすると、薫くんの手は自身の頭の上に伸びた。雑に動かされた手は、どうやらまだ残っている雪を払ってくれたらしかった。崩れた髪型を直すように今度は丁寧に撫でられる。

「ん、これでよし」

満足そうに薫くんがそう言うのと同時に、信号が赤から青に変わったことを知らせる音が鳴り始めた。待っていた人々が一斉に動き出す。もちろん、自分達も。傘を持っていない方の薫くんの腕に自分の腕を絡めた。そして、手はそのままコートのポケットに突っ込んで隣を陣取る。傘の位置を変えてくれたらしい。傘の下に入っているおかげで、顔は雪に触れなくなった。そういえば雪も多少穏やかになったような気がする。薫くんが少しばかり動きにくそうにしているのは申し訳ないとも思うが、今はこのままにさせてもらうことにする。行き先は薫くんに任せることにして、雪が舞う中を並んで歩き出した。