ortensia
2026-02-28 09:35:30
1219文字
Public 傭リ
 

母に手紙を書く傭の傭リ


 別に傭兵が、リッパーにその場面を見られることを、避けているというわけではないとは、リッパーも思った。寧ろ人には見られないようにするのが普通だろう、手紙を書くところなんて。けれど一度見掛けた時に、リッパーは本人から聞いていた。月に一度、傭兵は母宛の手紙を出していた。
 リッパーは、傭兵本人もそうだがその家系も識字出来るのか、と思ったものだ。
 その程度のことは、その程度のことだから、リッパーは忘れていた。傭兵が手紙を書いている場面に出会したから、記憶が蘇ったのだ。
 そして今度は思った、まだそんなことを続けていたのか。
 リッパーとて師と手紙の遣り取りはする。しかし、月に一度、とか、決まって、とか、そんなものはない。
 当然リッパーと師は親子ではないが、親子ではそういう「縛り」があるものなのだろうか、と思う。リッパーには分からなかった。
 それでもやや否定的な認識を抱いて、傭兵に言った。リッパーの潜在意識によるものか、それ以降に身に付けた常識的考えによるものか、自分では判断出来ない事柄だ。
「おまえ、お母様にそういう脅しを掛けられているのですか?」
 がたんと大きな音が立った。傭兵だ。みじろぎで椅子が大きく動いたのだ。
「どうしてそんなことを言う?」
 傭兵は表面上で冷静な顔を取り繕ったようだった。しかし質問を質問で返されたリッパーは、そうは思わない。顎に手を遣り、仕方なく自分が先に答えてやる。
「月に一度、必ず月に一度です。別に手紙なんて、月に二度三度、好きに出したら良い。なのに、決まって月に一度。用事が立て込む時は次の月の分までしたためる。」
 傭兵は黙っている。傭兵が何も言わないので、それを見留めたリッパーは、最後まで言ってやる。
「分かっているんですか?おまえは自分がやりたくもないことを、小賢しい真似をしてまでやっているということでしょう?」
 傭兵は今にもリッパーに殴り掛かりそうな目をしていたが、それ以外はそうではなかった。
 リッパーには傭兵の立場なんて分からない。それを二人も分かっている上だ。だからそれを指摘することには互いに意味がないし、本意でもない。腹を割って話せば分かる、というものでもない。勿論、腹を裂いたとて。
 しかしこれは、そもそも傭兵が自分でも分からないのだということを浮き彫りにしただけだった。
 それでも傭兵は、そうしなければならない。傭兵はどっかりと椅子に座り直した。
……脅されているとか、別にそういうんじゃない。」
 傭兵が静かに言うので、リッパーはそれ以上言うことはない。
「そ。なら良いんです。」
 リッパーは満足してそう頷いた。
「おまえははるばるロンドンまでやって来たのに、それでもまだ縛りがあるのですね。」
 そう言ったリッパー自身が、ならばここを出れば何かから解放されるのかと言うと、それはリッパーにも分からなかった。彼はただくるくると踊るだけだ。


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