望月 鏡翠
2026-02-27 23:50:30
876文字
Public 日課
 

#2014 さよならの準備をしよう

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔

 この街の人たちの気分は、なんとなくだけどよくわかる。うっすらとした夢に沈んで現実から目を逸らして生きていると、人ってこんな風に見えるらしい。
 そして全員がこういうタイプだと、人の社会ってたぶん回らなくなるんだなというのもよくわかった。ここはあくまで塔の中だからうまく行っているだけだ。
 街全体が眠っている。正しく、言葉通りの意味で。
 この街はかなりしっくりくる。もしかしたら、ここの出身だったんじゃないかと思うくらい。それでも、寝るときは相変わらず自分の部屋に戻っていた。
 まだ花が残っていて、なんとなく名残惜しかったのだ。
 愚者の街でもらった花は、長持ちしなかった。一週間経って、執拗の街に移動する頃には、萎れていた。萎れて塔の階層を跨いだことも影響していたのかなと考えたりもしたけれど、服や食べ物はそのままだ。
 単純に、手入れがダメだったのかもしれない。
 でも萎れても枯れて茶色くなったわけではない。花びらは落ちてしまったものがあるけれど、まだ色も残っている。捨てるタイミングが掴めないのだ。
 花って枯れたら燃えるゴミになるらしい。
 そのタイミングをいつにするのか、まだ決めていなくて、それを残して街に寝に行くのはなんか綺麗じゃなくなったものを、じゃあもう興味ないって置き去りにするみたいで、できていない。
 あんなに大事にしてたのに、なんか切ないよね。
 例えば眠ったら、夢の中にはいつまでも枯れない綺麗な花があるのかもしれない。現実にもカサカサになった色褪せない花とか造花とかあるけど、ああいうのも生の花が部屋にあるのと同じような嬉しい感じをくれるのかな。
 街に入ってしばらくして、花もそのままにしておくと水が腐ったりして臭うという、よく考えれば当たり前のことを教えてもらってようやく決心がついた。
「そろそろお花片付けるね」
 津鞠さんに一声かけて、花とはお別れをした。
 執拗の街に素敵なインテリアでもあったら、もらってこようかな。部屋の中にテンションが上がるものがあったまま、最後まで過ごせたら嬉しいから。