望月 鏡翠
2026-02-27 22:44:43
914文字
Public 日課
 

#2013 愚者→執拗

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔

 人に愛されるって、いいね。
 この街の人のことやっぱり好きだよ。主さんのことも好き。気さくで、今までの人よりも一番、話しやすかった。友達にこういうタイプの明るい人がいると、場が盛り上がるから助かる。
 でも仲良くはできそうだけど、その祝福は必要ないかもな。
 必要ないっていうのは、なんか申し訳ないから、本人には言えないけど。優しい人のことは傷つけたくないよな。悪い人だから傷つけていいってことでもないけど。
 人生に、愛が足りないと思ったことはない。
 家族がいる。彼らには愛されていた。気恥ずかしいけど、今でもまだ愛してくれている。困ったことがあったら、いつだって相談に乗ってくれるだろう。
 一緒にバカやって、将来のことを心配してくれる友達がいた。ライブがあれば一緒に出かける相手もいた。
 好きになってくれる恋人もいた。
 今は、バイト仲間ともうまくやれている。
 もっとたくさんの人に愛されるってなったら、ちょっと困るかもな。放って置いて欲しいって思うことも多いし。人に興味を向けられるって楽しいことばかりでもないからさ。
 だからやっぱり、ここじゃない他のところの方が向いているんだと思う。
 お花をくれてありがとう。この街の人たちにもありがとうと行って置いて。新しい好きなものができた。
 これだけもらって先に行きます。
 エントランスの階層が移動するのを見守った。
 次が一番最後の街。
 なんとなく旅行を楽しむみたいな気持ちで最後まで来てしまったけど、あと一週間で終わるんだ。
 え、もう一ヶ月近く経つってこと? 早くない?
 ものすごく短かったような気もするけど、現実で生きていた時間のことが、遠い遠い昔のことのようにも思えてくる。奇跡も魔法も現実にはない。都合のいい夢だって思っていたけれど、実際のところ死んだあとに生き返る奇跡は本当にあったらしい。
 そんなことを考えていたら、目の前に本当の夢の街が現れた。
 そうだったらいいなって思ってるだけで、本当に夢や魔法があるわけではない。そんなシニカルな現実を突きつけながら。
 塔の主は風邪を引いた子供が飲まされる見たいな、甘い甘い薬の匂いがした。