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hacosf6
2026-02-27 21:14:24
8623文字
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ジプ←スバのおはなし(冒頭)
webオンリー目指して書く予定のやつです
Do not reupload/use my art for any purposes, including for AI.
毒が宝石か
「なんッ
……
で靡かへんねんアイツ。このオレがこんだけしとるっちゅうのに」
「カラスバさん、ワイン零れますよ」
「
……
おん、悪いけど預かっとってくれるか」
「口寂しくなったら言ってください。新しいものをお持ちしますよ」
ガクガクガクと苛立ちに揺れる脚が、手の中のグラスまできっちり揺らしとったらしい。隣に立つ姐さんにコソリと指摘され、脚を組み換え飲みさしを手離した。
視線の先ではオニゴーリとクチートが睨み合い、若い衆の掛け声に合わせ技を繰り出していく。鉄骨をも噛み砕く大顎がオニゴーリへと牙を剥き、氷に包まれた岩肌がガリリと削り取られた。しかしオニゴーリは怯みも見せず、ガパリと大口を開け、氷を纏う空気を一気に噴き出した。
誰もが砂かぶり席(今なら雪かぶり席っちゅうのが正解やな)で接戦を見守る中、オレは行司役に釘付けになっていた。太い腕を組み双方を見やるジプソは、目まぐるしく変わる戦況に眉ひとつ動かさず、勝負の行く末を見守っとる。いくら事務所が広いとは言え、室内で行われるポケモンバトルは、逃げ場が狭いせいで屋内よりも危険が伴う。右往左往する若い衆に囲まれながら、ジプソはそこにどっしりと構えとった。
——
抜けるような青空が眩しい春の今日、サビ組は結成五周年を迎えた。例年であれば組全体で飲み会をする程度だが、今回ばかりはと組全体を上げ、小規模な式典を執り行った。ある程度の無礼講を経て、今や若い衆たちの力試しの真っ最中や。勝ち抜いたヤツらには、オレから『お小遣い』を贈呈する予定や。そうマイクを取り宣言をすれば、ノリのいい若い衆は一瞬にして目の色を変えた。
そんなやから、そりゃもうオレだって楽しんどる。部下たちが今日に向けて切磋琢磨しとるのも知っとるし、コイツらの実力をこんな間近で味わえるっちゅうのは、ボス冥利に尽きるってモンや。やのに今イライラと膝を揺すっとるのは、また別の問題があるせいや。隣に立つ姐さんは飛んできた床の破片を手で弾くと、「事務所潰れませんかね、物理的に」とどこか他人事のように呟いた。
「ちょっと床やら壁やらが削れるくらいなら想定内や。せっかくの祝い事なんやし、少しくらいハメ外さんとな」
倒れたオニゴーリに続き、繰り出されたアーボックが鋭い牙を剥いた。ビュンと振り回された尾っぽが最前列の部下たちを巻き込み、吹っ飛ばされながら騒いどるのが見える。そんな中でも、オレの右腕はたじろぐことなく構えとる。ガックリとクチートが膝を着いたのを見届け、ジプソは片手を上げた。
「勝者、Bチーム!」
「よっしゃあ!!勝ち抜けだあ!!」
「優勝目前だぞ!!やるぞお前らァ!!」
勝利に舞い上がる若い衆たちを一瞥し、鋼色の瞳がこちらを見た。分かりやすく、心臓が跳ね上がる。ジプソの顔なんて、文字通り飽きるほど見とるっちゅうのに今更やろ、と自分でも思う。冷静を装いながら、ひらひらと左手を振ってみせる。ジプソはニッと笑うと、続く試合の準備に取り掛かった。
「やっぱアレやな、アイツ男前やん」
ぽつりと呟くと、前髪の乱れを直していた姐さんが曖昧に首を捻った。
「まあ
……
そう、なんですかねえ?私は見飽きてしまって何も思いませんが。カラスバさんってデブせ
……
ン゛ンッ、大きい男性がタイプなんですか?」
「コラッ。ジプソはデブやないで、プロレスラー体型なだけや。
……
まあ、どうなんやろなあ。オレ、アイツ以外好きになったことあらへんし、好きなタイプとかよぉ分からんのや」
そう返すと、姐さんはソワソワと身を屈めグッと握りこぶしを作った。
「それ、それ、そういうのがイイんですよ!その『特別』って気持ちを全面に出していけば、あのジプソさんでもグラッときちゃいますって」
「ほんまあ?っちゅうても、日頃からオレなりに出しとるつもりなんやけどなあ」
姐さんは、ジプソのことをよぉ知っとる。ジプソが悪ガキたちを束ねていた頃からの付き合いというんやから、十数年ものの腐れ縁ってやつなんやろう。初めはオレのことを決して認めようとしなかった姐さんやったけど、今ではどんなことでも話せる相談相手になっとる。
近頃姐さんと話す内容のほとんどが、サビ組の元ボスにして現ナンバーツー、オレの右腕であるジプソについてや。とは言え、件の大男がいつでもくっ付いてまわりよるから、ふたりきりで話せるタイミングはそう多くない。今日ばかりはいい機会やと、組内対抗バトルマッチが始まってから、こそこそと耳打ちの距離で相談を進めとる。ドリュウズが放つヘドロばくだんが炸裂し、弾けた毒が頬をほんのりと掠った。
「最近はどんなアプローチをなさったんですか?」
「結構やってんで。こないだなんか香水新しくしとったから、ええ匂いやねって褒めたったんよ。そしたら、『カラスバさまの香りに合わせました』っちゅうて。なんやよう分からんのやけど、とりあえずおおきにって言うといたわ」
そう言えば、姐さんは肩を縮こませ、「うわあ」と呟いた。
「なんでそれで付き合ってないんですか。香水のかおりを合わせるだなんて、そこらへんのカップルでもやらないことですよ」
「それはアイツが筋金入りの右腕やからちゃう?一緒におる時間長いし、お客さんを不快にさせんよう、気配りしとるだけやと思うで」
「ええ
……
絶対それだけじゃないと思いますけど」
そう引き気味の姐さんには悪いけど、やっぱり、あのジプソがオレに対し何かを思っとるとはさっぱり考えられん。アイツはオレをサビ組のトップに据えてからというもの、その献身っぷりに磨きをかけ、素人だったオレを立派なボスとして育て上げた。この三年間片時も離れずにいるジプソは、オレがどんな態度を取ろうと常に一定で、まさに鋼のごとく整った姿であり続けてきた。
いや、マジで。ホンッマ、全然、なんッの攻撃も通らんねんアイツ。
「前言った、目の色褒めるやつってやりました?」
「やったわ。8秒どころじゃないくらい見詰めたったけど、特に何も変わらんかったで」
「酔ったふりして
……
は、この間の飲み会でやってましたね」
「せや、恥を忍んでな。相撲するで!って抱き着いたら普通に転がされてもて、そんまま酒取り上げられてしもたわ」
こうやってオレは事あるごとに、ジプソへとモーションをかけよる。じっくりと見詰め合うのはもちろんのこと、タイミングを見計らってできる限りの触れ合いを試みとる。さすがに言葉にして伝えるまではしとらんけど、オレの一挙手一投足を間近で見とるジプソなら、オマエがオレの特別やってことはすぐに伝わると思う。
それでも何の変化もないのなら
——
ジプソにとってオレは、サビ組のボスである以上でも以下でもないっちゅうことや。
「なあ姐さん」
「はい」
「なんやジプソの弱み知らんか?付き合いの長い姐さんなら、弱みのひとつやふたつ知っとるんちゃうん?」
「脅して恋仲になるって無理があると思いますけどね。それに
——
今のジプソさんの弱みとして浮かぶのは、カラスバさんひとりですよ」
「オレぇ?どういうことやソレ」
最後の勝負が決まり、優勝はバトルロワイアル常連のDチームが勝ち取ったようや。そして、ここからが組内バトルマッチの目玉になる。線を引いたバトルコートの真ん中に進み出るのは、ジプソひとり。その向かいでは、優勝チームの強者たち三名がそれぞれボールを手に構えとる。
「最後は、わたくしと一対三の試合です。この勝負に勝てば、カラスバさまからご褒美があるようですね」
ゴツゴツとした強面がこちらを見、コクリと頷いた。どっしりと構えるその姿からは、気迫と呼べそうなオーラがはっきりと立ち昇っとる。鋼色の瞳が、目の前に立つ若い衆に向き直る。大きな手が銀色のボールを取り出すと、胸元に握り朗々と宣言した。
「カラスバさまのポケットマネーは、わたくしが守り抜きますよ!」
光と共に現れた巨大な鉄の連なりと、大振りの顎が堂々と電光を返す。てつへびポケモン、ハガネールが咆哮を上げると同時に、優勝者たちは次々と手持ちを繰り出した。
鋼と鋼がぶつかり合い、毒が舞い散り、地響きが見守る者すべてを震わせる。一対三の大混戦を見せるその真っ只中で、不敵な笑みを浮かべ相棒へと指示を出すその姿に、オレはしっかりと見惚れていた。
「なあ、カッコええやろ。オレの右腕」
「
……
まあ、そうですね。さすがに同意します」
鏡のように輝きを返すエアームドが、ジプソのキーストーンと呼応し黒い殻に包まれる。砕け散るその中から姿を現したメガエアームドが、金色の身体を震わせ、高らかに声を上げた。目にも止まらぬ速さで飛び回り、衝撃波で三体のポケモンを吹き飛ばすと、鋭いツメが恐ろしいほどにヌラリと輝いた。ジプソは相棒の名を呼び、パチンと太い指を鳴らす。
「力を貸してください、エアームド!カラスバさまに、わたくしの雄姿を見せたいのです!」
ああ。こういうんやから、諦めきれへんのよなあ。圧倒されるように、腰かける椅子の背凭れに身を委ねた。最高のタイミングで差し出されたグラスを受け取り、柔らかな炭酸を上らせるカクテルを傾ける。パルフェ・タムール。ニオイスミレが香るこのリキュールは、その昔媚薬として重宝されていたらしい。話していたのは他でもない。オレのために闘うと豪語する、あの大男やった。
つづく
-----
↓は書き直す前の文章です
文字書きという生き物は、こうやって作品を形にしていくんですね(ふしぎ発見)
「香水変えたんか。なんや男らしさマシマシやね」
ヤヤコマたちの歌声を聞きながら、運転席に身を押し込める右腕を見上げる。ジプソは「ええ」と頷きながらシートベルトを装着し、昇り始めた朝日を受け頬を光らせている。
「今までのものも気に入っていたのですが、年齢を考えると、これくらい落ち着いた方が無難かと思いまして」
「ええと思うで。んー、バニラは分かるんやけど、他はよう分からんわ。なんや嗅いだことある匂いなんやけどなあ」
「タバコリーフがメインですね。他にはドライフルーツやスパイスなど、老練とした男性をイメージした香りだそうです」
「ふうん、カッコええやん」
いつもならば少し窓を開けて、澄んだ早朝の空気を車内に取り込むのがオレのルーティンや。でも今日ばかりは新たな香りを楽しみたくて、扉に凭れたまま、前を見据えるジプソを観察した。オレのセーフハウスから事務所まで、車でおよそ45分。その間、ざっくりとニュースに目を通し、今日の予定を聞いた。日によっては面倒な客とのやり取りが続くハズレの日もあるが、今日ばかりはその心配はなさそうや。
「式典は10時からです。みな楽しみにしてますよ」
「オレの挨拶はもうええやろ。そんなことより、はよ無礼講で楽しむ方がみんな嬉しいんちゃうん」
「そんなことございません、誰もがカラスバさまのお言葉を待っています」
「そうは言われてもなあ、オレは雇われ組長みたいなモンやし」
ミアレの街が近づくにつれ、緑が少なくなり、市内を取り囲む環状道路が見えてくる。放射状に伸びる道路が集中する先には、背の高いプリズムタワーがそびえ立つ
——
はずやけど、ここ数年は外壁に囲まれ、それ自体がミアレのシンボル代理を務めとる。
ジプソがサビ組を立ち上げ、今日で丸5年。元々ボスをやっていたジプソに懇願され、腹を括ってその座を譲り受けたのが3年前。正直なところ、いまだになんでオレがサビ組のボスをやってんのかと不思議に思う瞬間がある。朝目が覚めた瞬間、オレは一体誰なんやと混乱することだってある。けれども。
「わたくしが唯一惚れ込んだのが、カラスバさま、貴方なんです。サビ組のボス、ミアレを救うお方として、これ以上の人はいません。どうかこれからも、わたくしたちを導いてくださいね、ボス」
元サビ組のボス、現ナンバーツーは、何があろうとオレを手離す気はないらしい。才覚が云々、と妙に饒舌になるコイツを見ていると、胸の内側がもぞもぞしてくる。くすぐったい話は要らん言うとるやろ。払うように手を振ると、ジプソはにんまりと口角を上げ、「今日もよろしくお願いします」と地に足のつく低声で呟いた。
創立5周年式典(とは言っても身内だけのこじんまりしたモン)は、手下たちが叫ぶ気合の籠った「押忍!」の声で締めくくられた。そのままズラリと並べられたケータリングを好き好きに堪能し、あとは夜遅くまで続く無礼講や。
「カラスバさま、飲んでますか!?このカクテルすっごく美味いっすよ、ぱっと見毒みたいな色してますけど!」
「バカだねえ、カラスバさまは赤ワインがお好きなんだよ。カラスバさま、年代物のワインの準備もあります。おつまみもすぐに持ってきますよ」
「カラスバさま~!ジプソさんとの出会いってどんなだったんです!?ジプソさんがカラスバさま連れてきた時、おれ腰が抜けるくらいビックリしましたよ!」
小規模の飲み会はちょこちょこ開いとるけど、漏れなく全員参加の無礼講は今日が初めてや。祝いの席ともあって、いつもの遠慮をすっぱりと捨てきり、誰もがぽわぽわと浮かれ切っとる。次々と押し付けられるグラスや皿を受け取って、少しはゆっくりさせんかい!と凄んでみせる。一拍の後ドッと笑いが沸き、会場に満ちるアルコール濃度がまたひとつ上昇した。
あかん、ちょっと飲み過ぎた。あれやこれやと美味い酒を口にしてたら、固形物を食べるのを忘れてしまっとった。会場の隅に据えられた椅子に腰掛け、盛り上がる部下たちを見渡す。ジプソはどこにおるんや。と探すまでもなく、人だかりの真ん中を見ればすぐに見つかった。手にしたボトルを指差し何やら解説をしているようで、時折感嘆入り混じる相槌が響いてくる。
「カラスバさん、お水です」
「おん、おおきに」
ぼうっとその小山のような姿を眺めていると、冷えたグラスがさっと差し出された。傍に立つのは、ジプソが組を立ち上げた当初から所属している、最古参の姐さんや。ぽっと出のオレをボスだと認めるのに苦労しただろうに、今ではジプソとオレのふたりを、きっちりとサポートしてくれとる。
「こんな大きな式典が開かれるとは、夢にも思いませんでしたよ」
「オレも同意見や。どれもこれも、みんながキッチリ仕事してくれてるからやで」
視線の先、ジプソは何やら周囲を見回たし、オレの顔を見てアッと目を見開いた。押し寄せる部下たちを掻き分けこちらに来ようと奮闘しているが、群がるヤツらにあの巨体が押し戻されていく。来んでええて、ゆっくり楽しみぃ。ひらひらと払うように手を振ると、ジプソは広い肩を落とし小さく頭を下げた。
「カラスバさん、最近はどうなんですか」
「
……
聞いてくれはる?」
「もちろんです」
「ほな、一瞬だけ待っとってな」
ちょいちょいと音声係の部下を手で呼んで、マイクを借りる。キィーン、と鳴るハウリングが収まるのを待ってば、部下たちが小さくどよめいた。
『ええ感じに盛り上がっとるなあ。そろそろ、オマエたちの相棒も暴れたくなっとるとちゃうか?』
おお、とどよめきに興奮が重なり、会場の熱気がムンムンと増していく。
『ほな!こっから会場半分に割ってチーム分けすんで!こっちはペンドラーチーム、反対側はエアームドチームや。話し合いで10人ずつ選出して、2対2のプレイマッチを始めるで。勝った方のチームが、最後にジプソと闘えるっちゅー寸法や!』
「マジ!?ジプソさんと闘れんの?!」
「絶対闘りてえ!オレ今日のために特訓積んだんだぜ!!」
『ジプソに勝てたら、オレのポケットマネーからお小遣い出したるで!全員、全力できばるんやで!』
「お、おおお~~!!」
ドッと会場がヒートアップしたのを見届け、これでよろしと腰掛けていた椅子に戻る。姐さんはちょっと呆れたように笑いながら、さすがですね、と飲みかけのワインに口をつけた。
「わたしもジプソさんとバトルがしたかったです」
「近く機会作ったるさかい。ほな、話聞いてもろてもええ?」
「ぜひ聞かせてください」
誰がチームの代表となるか、誰がジプソに挑むかを争って、あちらこちらでじゃんけん大会が開催されとる。まるでお遊戯会のような会場の隅っこで、オレは姐さんにコソコソと耳打ちをする。話す内容は、他でもない
——
ジプソのことや。元サビ組のボス、そして現ナンバーツーとの付き合いが最も長い姐さんにだけ、オレはこの相談を持ち掛けるようにしとる。
「こないだは、目の色褒めたりしたんよ。見詰める時間が長いとイイとか、そういう話があるらしいやん?」
「正しくは、『8秒見詰め合うと恋愛感情が芽生える』って噂ですね」
「そうなん、それなら結構いい線いっとったんやけどなあ。でも結局なんの変わりもなしや。というか、アイツいつでもオレの顔見とるしなあ」
「うーん、それなら別のアプローチが必要なのかもしれませんね
……
他に変わったことはありませんか」
じゃんけんの大合唱が落ち着くと、ドタバタとケータリングが下げられ、部屋の真ん中にフィールドが設けられた。ずらりと並ぶのは、ガラの悪い笑みを浮かべた、血の気の多い若い衆。中には、バトルゾーンでブイブイ言わせとる手練れもゴロゴロおる。ジプソがマイクを握り、初戦の開始を合図した。
「ああ、香水変えたんやな、って話を今朝したくらいやなあ。アプローチの仕方って全然分からんわ。変なヤツには好かれるのに、本命には色目使っても響いとらんよ」
「いやぁ、絶対そんなことないと思いますけどねえ
……
。それに、香りの変化に気付けるって、かなりポイント高いと思いますよ」
「ほんまぁ?キショいと思われたらどないしよって、言うの一瞬ためらってしもたわ」
ポケモンたちがぶつかり合う度、激しく空気が震え、時に毒が舞い上がる。応援に熱が入る部下たちが振り上げる拳の向こう、ジプソとまた目が合った。グッと親指を立てて見せると、強面がコクリと頷く。ジャケットの下に匿っていた水に口をつけ、ジプソを見詰めたまま姐さんに顔を寄せた。
「姐さんは、ジプソの弱み握ってないん?」
「昔なら色々あった気はしますが。あーでも
……
一貫してカラスバさんだと思いますよ」
「おん?何が」
「弱みが、です。ご不在の時も、カラスバさんの話ばっかりですよ」
「ほんまにぃ?それタマタマなんちゃうん」
日頃の特訓の成果を出せるとあって、組内のバトルマッチは眩しいほどに盛り上がっとる。飛んできた床の欠片を手で払い、修繕費を頭の隅で計算する。まあ、今日は無礼講や。事務所壊さん程度やったら、どんだけ遊んでもええ。
「特に口止めもされてませんし、同僚たちも知ってることなのでお話しちゃいますが」
「?おん」
「ジプソさんが相棒たちを見詰めるのは、カラスバさんの毒に魅了されすぎないよう、気を引き締めるためだそうです」
「
……
どういうことや?ってかそれ、ジプソ本人が言うてたん?」
「そうですよ。ここにいる殆どの人間が知っています」
「
……
ほーん、そりゃ結構やな」
なんやその、オレの毒ってなんやねん。そりゃビジネスが上手くいくよう、敵を作らんよう立ち回るのがオレの戦略や。とはいえ、オレの手持ちがどくタイプが多いからって、オレ自身に毒があるワケやない。オレの毒に魅了されすぎひんよう気を引き締めとる?よお言うで。それはつまり、オレがどう動こうと、今後アイツが振り向くことはないっちゅー意味やんか。
「ってことは脈なしってことやな」
ふぅーっ、と肺の奥底から溜め息が漏れる。視線の先には、部下たちの死闘を見据えるジプソのゴツい姿がある。間近でポケモン同士がぶつかり合おうと、たじろぐことのないどっしりとした構え。男前やで、やっぱり。そう思いながらも、ゆさゆさと貧乏ゆすりが発動する。
「いやいや!カラスバさん、逆ですって!」
「逆?どういう意味や」
「ジプソさんが精神統一をしなきゃならないのは、カラスバさんの毒が効いてるからですよ!そうじゃなきゃ、相棒たちを見て、気を引き締める必要なんてないじゃないですか」
汗を浮かべ、両手を振る姐さんを見上げる。ほんまにそうやろか。いくら声をかけ身を近付けようと、ジプソの態度が変わることは一切ない。
「ジプソがオレを気に掛けるのは、アイツがオレの右腕やからに他ならんと思うんやけどなあ」
そこまで話したところで、勝負がついたようや。勝ったのはペンドラーチーム。そして、最後に打ち破るべき巨大な壁が、のしのしとフィールドへと進み出る。
「カラスバさまのポケットマネーは、わたくしが死守いたしますよ」
ジプソが大きな拳を握り固め、ニッと笑みを作った。先陣を切るのは、てつへびポケモンのハガネール。頑丈な顎をもつその姿形が、その主人とよく似ているように思う。連なる鋼の体表面積が、堂々と電光を返した。地響きと共に歓声の上がるその闘いを、オレは背もたれに身を任せ見守った。
つづく
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