饂飩粉
2026-02-27 20:18:11
13268文字
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リバースカード

ブルーロックの二子一揮の夢小説です。
遊戯王カードの話を結構しています

「四〇枚のデッキから五枚のカードを引いた時、三枚入ったカードを一枚以上引く確率がどれくらいかご存知ですか?」
「急に数学の話すんなし」
「およそ33.8%です。では三枚入っているカードをサーチできるカードがさらにもう三枚入っていた場合はわかりますか?」
「え、単純に二倍……なわけないよな」
「57.7%です」
「なんで?」
「二枚以上引く確率が鈍化するからですよ。つまり何が言いたいかというと、そのテーマで使用しないと話にならないフィールド魔法と、代表的なサーチカードである『テラフォーミング』を三積みしても——現在は制限カードですが——ざっくり二試合に一回はいずれかのカードも初手に来ないということです」
……?」
…………勝率を上げるためには、1ターン目にフィールド魔法を手札に持って来れない場合のサブプランも考えるべきだという話です」
「例えば何よ?」
「他のサーチ手段や、フィールド魔法がなくても戦える選択肢を持つってことです」
「でも貸してくれたデッキはフィールド魔法ないじゃん」
「あくまで例えばの話ですよ。お貸ししたオルターガイストならマルチフェイカーやメリュシークになると思います」
「トラップ使うとこのキモいシャンデリアみたいな方が出せて、コイツの効果でキモい人魚みたいな方出すんだっけ?」
「違います。自分のトラップで始動するならマルチフェイカーでリクルートするのはシルキタスの方が機会が多いですよ」
「は、わかんな」
「シルキタスでマルチフェイカーを手札に戻しつつ相手のカードをバウンスすることで牽制できます」
「待って、ちょっと待って。もっかい最初からお願い。何をどういう順番で出すの?」
「カードを出す順番や展開の仕方は相手の出方によるので、覚えるべきは出す順番ではなくカード一枚一枚がどんな効果を持っているか、主にどんな用途で用いるかだと思います。僕が話したのもあくまで典型的な動きなので、場合によってはマルチフェイカーからメリュシークをリクルートする動きや、それ以外のモンスターを選択するのが正しい場合もあります」
「ごめん最初の方に何言ってたか思い出せない」
——双子の弟さんとの決闘(デュエル)に、まぐれではなく実力で勝ちたいんですよね」
…………勝ちてぇ。勝ちてぇよ。アイツを言い訳できないくらいボッコボコにして、涙目になってるのを見てほくそ笑みてぇ」
「ではその執念を糧に覚えてください。自分のデッキだけじゃなく相手が使うカードや戦略も」

 そう、あたしは誓った。
 小遣い三ヶ月分を賭けた双子の弟との決闘(デュエル)に、絶対に勝つと。
 そのために、あたしの学校で一番カードゲーム強そうな同級生、二子一輝に教えを請うた——最近覚えた言い回し——のだから。

———

一週間前——

 あたしはイラついてた。
 どれくらいイラついてたかっていうと、自販機が入れた10円玉をスルーして釣り銭口から吐き出しただけで蹴り飛ばすくらい。
 友達の前であんましイライラするのも良くないけど、ぼっちの昼休みは余計に考え事が頭の中を激しく動き回る。頭の中を内側から突き破ろうとしてくる感じ。マジで突き破られたらヤバそうだから、どうにかして解決方法を見つけたり、落ち着かせたり、別のことで発散させなきゃいけない。ソシャゲのガチャはさっき大外れしたから余計にストレス溜まった。
 そんなことよりも、このままじゃまずいことになる。あたしの小遣いのピンチだ。今になってあんな発破かけたことへの後悔が溜まり始めてる。
 ああ〜クッソでも高校入学して露骨に親の態度が変わって弟の野郎天狗になりやがった。同じ中学に通ってた頃まではなんとなくあたしの方が上だった。双子とはいえ姉だったし、学校での顔の広さや、成績に関してもいい勝負だったと思う。
 それを、受験が全てを変えた。弟は県内有数の超進学校に特待生の待遇で推薦入学を果たしたのだから。一方のあたしは近所の高校の中では一番マトモな勿忘草学園に普通入学。それでも中学時代の同級生の進路の中ではかなりいい方だったけど、弟だけは群を抜いていた。おまけに特待生。私立だけど学費免除。親も鼻高々。小遣いめちゃアップ。あたしが週三のバイトで稼ぐ給料を優に越えてる。スマホも最新機種に乗り換え。パソコンまで買ってもらってたけど、代わりにそれまで共用だったパソコンがあたし専用になったからこれは不問。
 そりゃまあ、親からしてみれば学費まるっと免除されてるんだからその分弟の待遇を良くするのは当然かもしれないけど。それにしたって露骨過ぎてむかつきがおさまらない。中学の時は同じオタクたちと集まってカードゲームとかばっかりしてて、何なら今もやってる!
 そんなストレスが爆発して弟と口論したのが昨日のこと。そっから流れで小遣いをかけたカードゲーム勝負を一ヶ月後にすることになった。
 勉強ではもう負けてる。ならせめて、弟の得意分野で完全勝利を決めて姉の威厳を取り戻したい。ついでに小遣い賭けて、あわよくば新しいスマホと服を買いたい。でもそのためには弟に遊戯王カードで勝たなきゃいけない。昔はアニメとか観てたけど、実際のカードゲームはもっと複雑らしい。ちょっと調べたけど意味わかんなかったし、強いのってブルーアイズとかブラックマジシャンとかなんじゃないの? 環境デッキの回し方動画みたいなの見ても、まず何言ってるかがわかんない。とりあえず千円くらいでデッキが買えるらしいけど、それで勝てんのかもわかんない。
 やばい、このままだとノー勉のままテスト受けるような状態になりそう。予習復習がいかに大事なのかは受験勉強を経た今嫌というほどわかる。でも受験勉強は大体何をすればいいのかが参考書や過去問に書かれていた。問題はいつそれに手をつけるかってことだけ。でも遊戯王はその参考書すら見つからない。公式サイトに書かれてるゲームの流れはまだしも、カードに書かれている効果は何が何だかマジでわからん。具体的に何がどう強いのかわからん。強いとされる大体のカードには何個も効果が書いてあるし、初動とか妨害とかは公式の言い回しじゃなさそう。大会で好成績を残した人の記事とか読んでも略語ばっかりでイミフ。親の世代から見たあたし達ってもしかしてこんな感じ?
 顔を上げて、空を仰ぐ——つもりだったけど、視界に入ったのは廊下の天井だった。考え事しながら歩いていたから、いつの間にか校舎に入っていたらしい。窓を見てわかったけど、あたし階段も上ってた。いつのまに? 普段使う教室ではなく、選択科目用の部屋とか準備室やら何やらが色々ある棟だ。ほとんどの部屋は施錠されているから、休み時間中は人気がない。他の生徒達の喧騒が遠くの方に聞こえる。スマホを見ると友達から「今どこ?」って連絡来てたけど、今は返事できる気分じゃなかった。
 放課後にカードショップでも覗いてみるかとも思ったけど、行ったことのないカードショップには「臭い」という先入観しかない。いやこれ完全に偏見なんだけど。弟はカードゲーマーだけど別に臭くねえし。
 本当にどうすればいいかわかんないまま、時間だけが過ぎていく。
——ドロー」
「!?」
 今、誰かがドローって言った気がする。
 通り過ぎようとした空き教室からだ。確か机や椅子の倉庫代わりになってるところ。横開きの扉には磨りガラスがついていて、中の様子は見れない。電気もついて無さそうだけど、外の明るささえあれば困らないはずだ。普段入ることはまずないから意識してなかったけど、鍵が掛かってないのか?
 磨りガラス越しに教室の中から自分の姿が映らないようにして、聞き耳を立ててみる。
——ターンエンドです」
 今度はターンエンドって言った!
 意を決して扉を開ける。
 教室の中に、男子が三人。多分同じ一年。
 彼らのうち二人が向かい合って地べたに腰掛けている。二人の間には、間違いなくカードが並んでいる! 絶対決闘(デュエル)中だあれは!
 そしてもう一人は、その様子を立って真横から観察していた。小柄で、前髪で目元が全く見えない。
「遊戯王!」
 思わず叫ぶ。
 戦っていた一人が手元のカードを隠そうとする手が止まった。
 カードは全て何かのキャラクターイラストが描かれたスリーブに入っていて、なんのカードかはわからなかった。頼む遊戯王であってくれ。
……入部希望、でしょうか?」
 立っていた一人が、独り言みたいに言った。決闘していた二人みたくあたしの登場に驚いてるのか、それとも全く動じてないのか、髪の毛で顔の上半分が隠れているから全然わからない。

———

 目元が前髪で隠れてる生徒は、二子一揮って名前で、同学年で隣のクラスだ。ニコちんって呼んでいいかと聞いたら、結構本気で嫌がられたので二子って呼ぶことにした。
 他の二人も自己紹介してくれたんだけど、声がボソボソしていてあんまし聞き取れなかった。田中とか田島とか田宮とかそんな感じだった気がする。名前似てて余計にわかんない。
——つまり双子の弟さんを決闘で負かして不快な思いをさせ、優越感に浸った上にお小遣いも奪いたいということですね?」
 あたしがどうしても遊戯王のことを教えて欲しい理由を話し終えたところで、二子が言った。たまに相槌打ってくれるから、つい色々話しちゃった。しかもちゃんと聞いてくれてるし。
「改めてそう言われるとあたしがめっちゃ悪者みたいだけど否定はしない」
「始める動機としては十分だと思います。カードゲームは楽しそうだからという理由で始めたとしても、どこかで"勝ちたい"という気持ちが湧いてくるものなので。あなたは最初からその気持ちを備えている」
……つまり才能があるってこと?」
「そこまでは言ってません」
「あんだとォ?」
 冗談で凄んだつもりなのに、二子以外の二人がめっちゃビビってる。面白いと思っちゃったけど、これ以上からかうのは今後のことも考えるとやめた方がよさげかも。
「とにかく、今日はもう時間がないし初心者用のデッキも持ってきてないので、明日またきてください」
「放課後じゃダメなの? あたし今日バイトないからヒマなんだけど」
「僕らは部活があるので放課後はほぼ空いてません」
 二子がお手上げといった風に肩をすくめる。
「部活? ——待って、何部か当てるわ…………パソコン部!」
「そんな部活動うちの学校にありませんよ」
「じゃあ……囲碁部か美術部か天文部か漫研みたいなの」
「違います」
「はあー? ヒント」
「運動部です」
「じゃあ卓球じゃん」
「違います」
「正解は?」
「サッカー部です。三人とも」
…………
…………
 あたしはその場にいた三人のことをもう一度よく観察した。三人とも中肉中背で、色白で、猫背気味。二子なんて目元隠れてるし、卓球以外のスポーツやってる風にはとても見えない。これは全部偏見だけど
「嘘つくんじゃねーよ!」
「嘘じゃないですよ」
「じゃあ今日放課後お前らサッカーすんだな? 見に行くかんな?」
「構いませんよ」
 二子の表情は全く読めない。嘘ついてるのか、本当のことを言っているのか。なんか呆れられてるような気もするけど、あたしもここまで来たら後に引けない。
 いやでも、さすがにサッカー部は嘘でしょ。

———

 二子達、マジでサッカー部だった。
「昨日は疑ってホントゴメン」
 空き教室に入って早々、あたしは頭を下げた。昨日の放課後、サッカー部の部員として練習している三人を見て、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。人を見た目で判断したんだなって。
「図々しいのはわかってんだけど、遊戯王教えてください」
 頭を下げたまま、懇願する。あとは土下座するくらいしか思いつかない。
「別に気にしてないですよ。ですが、カードゲームにおいては駆け引きや読み合いで相手を上回る必要があります。昨日のような態度では勝てませんよ」
「早速もう勝つための勉強が始まってる?」
 二子が手招きするので、あたしは教室の中心にできた島(机を四つ寄せ集めたやつ)に向かう。まるでこれから四人で給食でも食べようかって格好だけど、机の上に広がってるのは遊戯王カードだ。あたしがこれから弟をぶちのめすために学ばなきゃいけないものだ。
「例えばこのトリケライナーというカードは、相手が召喚・特殊召喚した回数をトリガーにして手札から特殊召喚できるカードです。今の環境ではほとんど見かけることはありませんが、当時世界大会で台風の目の一角となったカードです。このカードの存在を知られていなければ奇襲性が増し、知られていれば駆け引きが生まれます」
「ゴメン他の二人は頷いてっけどさ、あたしには何が何だかサッパリなんだけど」
 そこで二子はハッとしたように見えた。初めて動揺したように見えたけど、じっと見てないとわっかんないな。
「すみません、カードゲーマーは——というより僕はこういう時つい口数が……こんな話よりまずやってみて感覚を知ってもらった方がいいですよね」
 あたしの向かい側にいる二子がデッキケースを一つ渡してくれた。中にはデッキと呼ばれるカードの束が詰まっている。スリーブに入っていて、枚数が多いはずのトランプの束よりずっと分厚い。
「まずはデッキをシャッフルして、右手側に置きます」
「おう——え何そのやり方」
 あたしはトランプと同じ感覚でデッキの真ん中あたりから縦方向に束を抜き取って上に重ねていくのに対し、二子は二つに分けた束を交互に重なるようにして横方向に合体させている。まるで二本の櫛を噛み合わせるみたいに。
「いわゆる横入れです。あなたのやり方だとカードが混ざるのに時間がかかるので、最近はこういうやり方が広く採用されています」
「へえ〜」
 その後あたしも真似してやってみたけどカードをこぼしたので諦めた。
「これで五枚引いて手札にするんでしょ?」
「その通りです」
「よっしゃあたしのターン、ドロー!」
「先攻はドローできません」
「は? 遊戯はドローしてるじゃん」
「武藤遊戯はご存知なんですね。あの頃からルールが変わったんですよ。先攻1ターン目はドローできません」
「なんで?」
「簡単に言うとカードゲームは先攻側が有利なんですよ。その均衡を保つための調整です」
「なんで先攻が有利なの?」
「プレイしてみればわかります」
 二子の言った通りだった。
 遊戯王って、先攻が有利だ。例えばお互いのターンでモンスターを一体ずつ出していくと、先攻だけが常に一体多い数で攻撃できる。レベルが高いモンスターも先に出せる。罠カードも先に伏せとくことができる。あと先攻はとりあえず好き勝手にできるけど、後攻はそれに合わせて動かなきゃ行けない。ネプリーグのファイブボンバーも最初に答える人が一番答えやすいのと同じかも。何度かプレイしてると、特に先攻が最初のターンに好き勝手動けることがいかに有利かってところが特に気になってくる。
「なあ、マジで先攻有利すぎね?」
 痺れを切らして、あたしは聞いてみた。
「どうして、そう思われますか?」
 二子はそういう質問が来るのを、なんか予想してたみたいだった。
「だって、後攻は先攻1ターン目の行動を見てることしかできないし。後攻は先攻が出してきたカードを警戒しないといけないじゃん。最初にめっちゃ強いカード出されたら逆転なんか無理っしょ」
「確かに、あなたの言う通り先攻1ターン目の相手の展開に何も干渉できなければ遊戯王カードゲームは先攻を取ったプレイヤーが勝つゲームになっていたでしょうね」
「だとしたらジャンケンで勝つ方法探した方がマシだな」
「でも、干渉する方法があります」
 二子は当然みたいに言う。もしかしてここまで計算ずくか?
「マジ? どうやって?」
「いわゆる手札誘発と呼ばれる類のカードです」
 そういって二子はさっきまで使っていたデッキとは別のデッキから何枚かのカードを見せてきた。ほとんどはモンスターのカードだ。全部漫画の女の子みたいなイラスト描かれてる。カードのテキストはめっちゃ長くて目が滑る。
「このカードが、手札誘発?」
「はい、相手のターンでも手札から捨てることで発動できる効果を持ったカードです」
「なんそれ。そういうのあるならあたしが勝てた試合もあったっしょ!」
 あたしが愚痴ると、二子はそういう質問が来ることも知ってたみたいに、小さく笑った。
「物事には順序があります。最初から手札誘発のカードを説明しても、使いこなすのは難しいですよ。これらのカードについては今度説明します」
……
 確かに、カードの効果を見てもパッと見ではよくわかんないのは事実だった。でもあたしの質問が全部二子の予想通りだったみたいな感じになってるのはちょっと悔しい。
……ちなみにこの手札誘発のカードの中で二子が一番好きなのどれ?」
……この浮幽さくらですかね」
 二子が指さしたのは、裾がボロボロになった着物姿で大きな鎌を持ったおさげ髪の少女が描かれたカードだった。
「ふーん、こういう子が好きなんだ」
「なっ——僕はイラストアドの話ではなくカードパワーの話をしてるんですよ!」
 慌てちゃって。そんな様子が見られて、ちょっと溜飲が下がる。イラストアドってのがちょっとわかんないけどイラストに関することなんだろな。遊戯王に関しては実際先生みたいなものだし、元々クールに振る舞ってるけど、同い年なんだよな。
 そう考えた時、心の中の、今の今までそこに存在しているなんて気づかなかった部屋の明かりのスイッチが押されたような気がした。それが何を意味してるのか、あたしにもよくわからない。ふーんこんな部屋あったんだ、何に使おうかな、ぐらいの感覚。

 思い返せば、二子のことを意識するようになったのは、ここが始まりだった。

———

「なあ、このサイドデッキ?に入ってる『天声の服従』ってカードなんだけどさ。これって『ライオウ』いたら手札に加えることって選べんの?」
「選べません。なのでその場合は特殊召喚されることになります」
……なるほどわかったわ。相手のデッキがわかった2戦目からデッキに入れるカードってことね?」
「その通りです」
「もっと褒めな」
「すごい天才ですね。もう絶対勝てますよ」
「心込めろ」
「自分の心に嘘はつけません」
「ほぉー、なら決闘であたしが勝ったら心を込めて褒めな」
……望むところです」

———

「ヴェーラー強いじゃん。最初から入れとこーぜ。イケメンだし」
「ヴェーラーは強力な妨害ですが発動タイミングがメインフェイズに限定されています。シズクのエンド時効果を防ごうとしてメイン終了時に打っても、別ルートで再展開される可能性もあります」
「なんで? メインフェイズ終わる瞬間に使えば次はもうバトルっしょ?」
「相手ターン中にあなたが優先権を行使しメインフェイズにヴェーラーを打った後、一連の処理が終わった後は再度優先権が相手に移ります。なので相手ターン中に永続効果やメイン以外で発動する効果の予防としてヴェーラーを打った場合、一度相手が次のフェイズへの移行を宣言していたとしても強制的にメインフェイズが終わるわけではありません。」
「すご、めっちゃ早口」
「厳密には細かく手順が分かれていますが、実際のデュエルシーンではフェイズを終了し次のステップに移る宣言することは、優先権を破棄することとイコールです。そこで優先権が移ったプレイヤーがカードや能力の発動をした場合、フェイズ移行の条件となる"お互いのプレイヤーが優先権を破棄する"は満たされていないので——
「ごめん、まず優先権って何?」
……失礼しました。そこから説明します。ちなみにエフェクト・ヴェーラーは女性説が有力です」
「は? 好きなように解釈させろし」
……はい」

———

「初手エンゲージは止め得です。二枚目のエンゲージが来ても、それは相手に使わせたも同然ですから」
「でも二枚目きたら墓地に魔法三枚溜まるのリーチだぜ? 裏目ってね?」
「一番アドを取られるのはボーナス条件を満たしたエンゲージなので、ボーナス無しで二枚処理できたと思いましょう。その後に出てくるカガリを通さないように意識して」
「じゃあカガリ止められなさそうならエンゲージにも妨害打たない方がいい?」
「そこは駆け引きなので臨機応変に対応しなければなりません。打ち得と言ったのは、初手にエンゲージを打つということは、もちろん相手が伺いを立ててる場合もありますが、手札にそれ以外の初動がない可能性が考えられるからです。止めることでのリスクとリターンを天秤にかけるイメージです」
「ギャンブルみてーだな」
「弟さんとの決闘はお小遣いを賭けているのであなた達がすることはギャンブルと何も違わなくないですか」
…………そりゃそーだったわ」

———

「二子はさあ、なんでオルターガイストみたいなデッキが好きなの?」
「え、僕オルターガイストが好きだなんて言いましたっけ?」
「好きじゃなかったら勧めたりしなくない?」
「双子の弟さんが『閃刀姫』を使うだろうと伺ったので、少なくとも互角に戦えるテーマとして選んだつもりです」
「でも絶対好きでしょ。こういう、相手を妨害する系のカード」
……確かに、嫌いではないです。相手との読み合いに勝った実感が得やすいというのもあります」
…………二子ってサッカー部だとフォワード、だっけ?」
「ええ」
「ふーん……
「なんですかその反応」
「いや、相手に合わせて対応を変えるのって、どちらかと言うと防御寄りの思考っていうか、なんかそんな感じがするなって。だって二子、手札誘発で展開止めるのめっちゃ好きっしょ?」
……まあ、否定はしません」

 その時の二子は、多分驚いてたと思う。目元が隠れてたけど、そう見えた。

———

 弟との決闘が、明日の夜に迫っている。
 あたし達は空き教室の机を四つ合体させたフィールドで、ひたすらデッキを回していた。確率やテクニック、カードに関する話題はほどほどに、あとはひたすら自分のデッキを手や思考に馴染ませることが必要だ。
 あたしを相手に二子達三人が代わる代わる決闘し、残り二人は観戦に回る。勝っても負けても感想戦をして、対戦相手交代。
 そのうち、二子以外の二人がカドショの大会に出るとかで中抜けした。
「田所と田﨑、ありがとな! 明日勝ったら昼食奢る!」
 名前も完璧に覚えたし。二人には感謝しかない。
「二子は、あとどれくらい残れそ?」
「僕も、あと一時間が限界です。明日は早起きなので」
「そうなん? 普通に学校じゃなくて?」
 明日はただの平日だし、サッカー部が試合なら田所と田﨑だって何かあるはずだ。
 二子の態度は、なんかやけによそよそしかった。
——明日は、学校休むつもりです」
「え、なんで!?」
 思いがけない返事に、デッキからシルキタスを探す手が止まった。思考も止まる。シルキタスは二枚にして誘発増やそうとか考えてたのに。
「最後の追い上げ、付き合ってくれねーの?」
……すみません」
 わざとらしく拗ねてみたのに、二子は軽く頭を下げるだけだった。普段なら「決闘でも同じ態度を取るとマナーが悪いと思われますよ」と嗜めてきそうなものなのに。
……理由とか、聞いてもいい感じ?」
 あんまし見つめると二子は嫌がるので、シルキタスを探すのを再開した。存外早く見つかったので、とりあえず特殊召喚しておく。マルチフェイカーの効果だから守備表示。
 その後デッキをシャッフルして、カットしてもらおうと二子に差し出す。
 二子はデッキを三つの束に分けて、分けた時とは異なる順番で重ねた——カットというやつだ。
「明日は、東京に行きます」
 二子はプレイマットの上にあたしのデッキを滑らせながら、言った。
……?」
 思いがけない言葉だった。
……ごめん、話が読めない。まさか引越しとかじゃないよね?」
「違います。それはないです。絶対に」
 やけに強い否定だなと思ったけど、気にしないことにする。とりあえず引越しじゃないことは一安心。
「説明するより、これを見てもらった方が早いですね」
 二子は立ち上がって、鞄から一枚のプリントを手に持って戻ってきた。
 受け取って内容に目を通してみる。
「ええっと、『二子一輝様 強化指定選手に選出されました』……
 それは日本フットボール連合からの、ストライカー養成プロジェクトへの招待状だった。しかし具体的に何をするのかなどは一切書かれていない。
「なんかこれ、ちょっち怪しくね?」
 それが一読した感想だった。もっともらしいことが書かれてはいるものの、興味があるならとにかく来いという書きっぷりには相手——この場合は二子への敬意が感じられない。しかも日本フットボール連合が公式に発表するまではこの招集の、件は他言無用とまで書いてある。東京に呼んで、胡散臭いセミナーの後に教材でも買わされるんじゃないか?
 しかし、二子は首を横に振った。
「一応、日本フットボール連合の公式HPの問い合わせ先に電話しました。詳細は教えていただけませんでしたが、招待状を送ったのは事実だということでした」
「そっか…………
 二子が何も考えずにこんな話に飛びつくわけがないことは知っていた。
 それでもあたしは、この話が眉唾なんじゃないかって思ってる。いや、本当はそうであって欲しいと願っているだけなのかもしれない。
 何故なら——
「明日東京行くんならさ、二子も今日は帰った方がいいって。準備とかあるっしょ?」
 あたしは展開途中のカード達を片付ける。フィールド上のカードも、手札も、墓地も、除外されたカードも、全部デッキに戻す。
「いえ、荷造りはもうほとんど終わってるので……
「集合時間朝じゃん。ここ長野だぞ? いいから早めに寝ときなって」
「勝手に決めつけないでくださいよ!」
 プレイマットを丸めようとしたあたしの手を、二子が止めた。瞬間、二子はハッとした様子で手を引っ込めた。
……すみません」
 何がすみませんだよ、謝ってばっかりだな。
 だけど、謝らせるような態度ばかり取ってるあたしもあたしだ。心がモヤモヤする。このモヤモヤが、喜怒哀楽で言ったらどれなのかが自分でもわからなくて、もどかしい。
 こういう時は、考えてても仕方ない。
——わかった、決闘で決めよ」
 あたしは半分くらいまで丸めたプレイマットを広げ直して、デッキをシャッフルする。
「二子が勝ったら今日は解散。あたしが勝ったらもうちょっとだけ残る」
……え? いや、話の流れ的に逆じゃないですか? 僕はまだ残れると言っているんだから、僕が勝ったら残るべきじゃないですか?」
 くそ、勘がいいな。
 いいじゃないかちょっとくらい、あんたの気持ち、確かめようとしたってさ。
「うるせー。いいから、本気出せよ」
 決闘も、サッカーも、本気でやってほしい。
 シャッフルしたデッキを二子に手渡す。
……わかりました」
 二子も自分のデッキをシャッフルし、こちらに渡してきた。
 互いのデッキをシャッフルしたら、自分のデッキを右側に置く。
「先攻は、さっきの決闘と同じでいいよな?」
「はい。先攻どうぞ」
 デッキからカードを五枚引いて手札とする。まずはこの五枚から、頭の中で戦略を組み立てる。
 そして、開始の宣言——
「「決闘(デュエル)!」」



 6ターン目に、あたしは負けた。

———

 互いに荷物を片付けて、後は教室を出るだけ。
 明日は二子に会えない。ただそれだけのことなのに、胸がざわざわしている。
 落ちかけた日の光が差し込んで、空き教室は橙色に染まっている。あたしと二子の影が、出入口の扉まで伸びていた。
……
……
 あたしが動かないでいるのはあたしの意思だからわかるけど、二子も隣に立ったまま動かないのはなんでだろう。ってか、同じくらいの身長かと思ってたけど、そんなことないな。二子の方が身長あんじゃん。
 そんな二子の横顔を見てると、胸がキュッとする。心臓にシュシュを通した感覚。
 ——明日会えないだけで、こんなにも寂しいなんて。
 二子は所在なさげにしている。口下手な方ではないけど、自分から話しかけに行くのが苦手な方なのかもしれない。
 誰に対してもそうなの?
 それとも相手に寄るの?
 それを聞いてどうなる。わかんない。だからあたしも、なんか聞けない。多分お互いに、お互いが動き出すのを待ってる。先攻も後攻もわかんなくなって、今何フェイズなのかも曖昧にしている。放課後の校舎ってフィールド魔法も発動している。絵に描いたようないい感じの雰囲気に、あたしも呑まれてる。呑まれたなら、いっそ勢いに任せるのもありかもしれない。
 いや、だめだ。雰囲気に流されるのもなんか癪だし、相手が何構えてるかわからないのにお祈り攻撃するほど、絶望的な盤面じゃない。

 ——ってかそもそもあたし、本当に二子のこと好きになったの?

 そう思った瞬間、自分の顔が耳まで真っ赤になったのがわかった。体の中が沸騰して熱い血がブワッと駆け巡る。二子が楽しそうに遊戯王カードの説明するところや、カードを丁寧に扱う手捌き、たまに見学していたサッカー部の練習でゴールが決まった時に小さくガッツポーズしていた瞬間、あたしの事情を聞いてこの場に迎え入れてくれたこと、ルールを丁寧に教えてくれたこと、チャラい連中と違って友達としての距離感を保ってくれたこと。うーわ自分のことながら好きだなこれは。確実に。
 今日、このままで終わりたくない。だからって今すぐにでも関係を進めたいわけじゃない。
 あと一歩、いやあと一手だけ、展開したい。
 あたしは、小さく息を吸った。
……優先権」
……はい?」
 二子が聞き返してくるけど、あたしは構わず続ける。
「優先権、二子にあるよ。なんもないの? 終了?」
「いや、いきなりそんなこと言われても、ええっと……
 二子は口元に手を当てながら何かを考えている。
 私の影だけが、左右にゆらゆらと揺れる。もどかしくてたまらない。
 二子が大きく息を吸った。意を決したように、あたしの方に向き直る。テーブルやカードを挟まずに対面したのは、これが初めてかもしれない。
……正直、かなり楽しかったです。あなたに遊戯王を教えるのは。新規プレイヤーが増えるのって、こんなに嬉しいことなんですね」
「お、おお」
「ですが、あなたの目的はもうすぐ果たされようとしている。そうなれば僕たちと遊戯王することもなくなるのかと思うと、その……少し、寂しいです」
…………いや、やめるとは、言ってねえし」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「こ、こちらこそ?」
……
……
……あ、僕のターンは終了です」
「は?」
「あなたのターン、です」
……ねえ、今顔赤いっしょ」
「赤くないですよ」
「絶対赤い……あたしもだけど」
「えっ」
「ちゃんと、こっち見て」
「はい……
「ねえ、あたし二子に一度も決闘勝ってないよね」
……はい」
「だからさ、次あたしが勝ったらさ——

 ——あたしと付き合ってよ。

「前髪、ヘアバンで留めさせて」
「は——え!?」
「だって絶対見してくれねーじゃん。いいっしょ? 勝ったら」
…………わかりました。その代わり、絶対負けません」
「言ったな? 約束だかんな? 明日休んで忘れるとかなしだから!」

 ——あたしのバカ。意気地なし。

「よーし、約束も取り付けたし、そろそろ帰るね!」
 あたしは誤魔化すように、逃げるようにして、教室から出た。校則無視して廊下を走りながら、ちょっとだけ泣いた。



 その日から、二子は学校に戻ってこなかった。
 ストライカー養成プロジェクト、青い監獄(ブルーロック)に参加することになったと知ったのは、1週間くらい経った後のことだ。
 あたしはまだ、二子に決闘の結果を教えられていない。二子の気持ちも確かめられていない。
 二子はあたしのこと、どう思ってんだろ。

 全てのカードは、まだ伏せられたままだ。