fedge
2026-02-27 20:13:21
2883文字
Public カピオロ
 

ああ゙っ!?夜神さまっ!?番外編『○○○○しないと出られない部屋』

2026.2.23に開催されたCC福岡63にて無料配布した閉じ込められたカピオロの話です。
拙著『ああ゙っ!?夜神さまっ!?-御都合ワールドって便利だねっ-』の番外編ではありますが、一応単品でも読めると思います。

通販はこちら→ https://batwing-brume.booth.pm/items/7937394

――無機質な部屋に閉じ込められた隊長とオロルン。手分けして四方を調べたが、継ぎ目のない真っ白な壁に囲まれていること以外何もわからない。
 その時だった。何もなくまっさらだった前面の壁に、突如として文字が浮かんできた。
 時を同じくしてピシリと床の一部に筋が入り、唸るような音とともに下から何かがせりあがる。四辺形のそれが天井まで辿り着けば、そこには石柱に支えられた天蓋のついた――ベッドがあった。

「これは……? えっと、セックスしないと出られない部屋……?」

 オロルンが浮かび上がった文字に目を凝らして読み上げ、本当にその文言で間違いがないか疑うようにしぱしぱと瞬きをしている。隊長も同じく文字へと視線を向け、一際深い溜息を吐いて額に手を当てた。
 生えてきたベッドには、遠目から見ても質のよさそうな寝具が備えられている。オロルンがそっとそれに近づいて触れてみれば、つるりとした心地よい肌触りが手に伝わった。

「隊長、来てくれ。立派なベッドだ」
「見ればわかる。……あまり不用心に触れるな、罠かもしれないだろう」
「うっ……その可能性を失念していた。申し訳ない。だが手触りがいいのは事実だ、君も触ってみたらわかると思う」

 オロルンはそう言うや否や、隊長の元へとたたたと駆け戻ると、彼の手を取りぐいと引き寄せた。されるがままにベッドへと連れられて行った隊長は、否応なしにその手触りを確認させられる。

「ほう……確かに上質なものを使っているようだ」

 その反応を見てオロルンはにこりと笑い、そのままぽすんとベッドに腰かけた。臀部を寝具に預けるとやさしい弾力に包み込まれ、成人男性の重さで少しばかりベッドが沈む。

「ほら、君も」

 腰かけて視線が低くなったオロルンが、ぽんぽんと自身の横を叩いて隊長に促してくる。上目遣いで見上げられ、薄く開いた唇にはどことなく色香が感じられた。
 隊長は一瞬動きを止め、小さく首を振ってこほんと一つ小さな咳をした。

……誘っているのか?」
「ああ。横に座ってくれ、立ったままだと疲れるだろ」
「座……承知した」

 ベッドはかなり頑丈な作りであるようで、軋むことなく二人分の重さを受け止めている。

「座り心地もいいな、このベッドならいい夢が見られそうだ……っと、すまない。君は……今は眠れるようになったのか?」

 ふにふにとベッドを掌で押していたオロルンはそう零すと、ハッとした顔で隊長を見た。失言してしまったのではと焦っている様子で、耳が小刻みにぴるぴると震えている。

「入眠まではだいぶ掛かるが、妨げられることは無くなった」
……よかった、眠れるようになったんだな」

 その返事を受けてオロルンは落ち着いたようで、耳の震えが止まった。見えないはずの仮面の下の双眸を捉えて、にこりとほほえみかけてくる。

「そうだ、君のことについていろいろ聞かせてもらえないだろうか。もちろん、嫌だったら話さなくていい。もしそうなら、君が眠ってから僕が経験してきたことを話そう」
……構わない。何が聞きたい」


 それからしばらく、取り留めもない話をした。好きなものだの、嫌いなものだの。以前は全く自分のことを語らなかった隊長から聞くそれらの事柄は、ひどく新鮮だった。それでも故国やファデュイでのことはあまり話題に出したくないのか殆ど語ることはなかったが、彼個人のことについてはいくらかぽつぽつと教えてくれた。
 代わりというわけではないが、オロルンからもいろいろと話をした。少し前にフォンテーヌへ行った話だったり、のびのびリゾートで手伝いをしたことだったり。ぽつりぽつりとゆっくり交わされていく会話は、二人の間にゆったりとした優しい空気を生み出していた。


 どれくらい、そうしていたのだろうか。話題もそろそろ尽き始めた頃合いで、オロルンが急に立ち上がり、ベッドへ上がり込んだ。長身を寝台に横たえると、全身でその弾力を味わうようにころころと転がる。ベッド自体は大人が二人か三人寝られそうなほどに広く、オロルンが転がってもまだ余裕があった。

……ほかの方法を探すべきだろう。お前のためにも早くここから出るべきだが、負担を強いるわけにはいかない」

 いよいよメッセージの指示に従おうとしているのかと思いきや、オロルンはきょとんとした顔で隊長を見上げている。

「まだするつもりはない。でも、君はしたいのか……? それなら協力する」
……
「セックスしないと出られない、ということは出たくなったらすればいい。僕は……もう少しこうやって君と話がしていたいから、まだ出なくていいと思っている。君は……どうだ?」

 この空間では不思議なことに喉も乾かないし、おなかも空かないんだと笑う。オロルンの不完全な魂を案じていた隊長だったが、何度確認してもゆらぎは感じられず健康そのもののようだ。

……俺も、するつもりはないな」

 隊長は口端を少し上げると、自身も同じように寝台に横になったのだった。


* * * * *


「これじゃ、二人が部屋から出ようとしないわ。……あと一押しができないと厳しいわね」

 うーんうーんと唸りながら、夜神は作戦を練り直す。二人を同じ空間に閉じ込めて、ド定番の部屋に入れて結果を演算しようとしたものの、隊長とオロルンを仮定したシミュレーションは何回やり直しても致そうとしない。

「やっぱりいきなりは厳しかったかしら? もっと接触を増やして……いっそ、強制的に……

夜神がブツブツとつぶやきながら何かを書き記していたその時。誰もいないはずの書棚の裏から、かわいらしい鳴き声が聞こえた。
その声の主は大きな水色の耳を揺らしながら、きゅうきゅうと困ったように鳴いている。

「あら? あなたがここに来るのは、まだだいぶ先よ?」

 そこには魂ではない、生身のイクトミ仔竜がいた。その子の手には純朴そうな少女と見目麗しい男性が描かれた表紙の本が握られている。気になった夜神はそれを手に取り、パラパラと流し見た。

……! これよ、これが良いわ。これにしましょう。どこで見つけたの?やっぱりこういう類の本といえば、あの謎煙の主の少女かしら」

 興奮気味の夜神が仔竜に尋ねる。ややその様子に引いている仔竜が首をかしげるが、それを気にもかけずに夜神はシトラリの姿を映し見る。

『お酒良し、つまみ良し、あとは届くのを待つだけね。……あら、棚に入れていたはずの一巻が無いわ、ドコにやったのかしら。まあいいわ! おさらいのために三巻を読み返しましょ』

 所有している本が見当たらないと言っていたが、きっとこれだろう。そっとシトラリの背後に視線を移して内容を覗けば、どうやら遊園地という場所でのデートを取り付ける話のようだ。夜神はなにか思いついた様子で、いまだ首をかしげているイクトミ仔竜へと優しく語りかけた。


「あなたをお家まで帰してあげるわね。その代わりに――