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toko-honey
2026-02-28 06:00:00
4451文字
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結んでほどけて7【繋がる】
レオン×タクミ。タクミの髪をきっかけにレオンがタクミに惹かれていくお話の最終話。ハッピーエンドです。
Japanese Only
#leokumiweek2026
レオンは自室のテーブルの上で本をめくった。外はもう暗い。
「やっぱり載っていないか
……
」
レオンが読んでいるのは白夜王国の文化を紹介している本だった。昼間にタクミと一緒に資料館に行ったときに見つけ、白夜の哲学書と一緒に借りてきたものだ。
調べているのは白夜王国における「友達から始める」の意味だった。このフレーズに白夜特有の意味が含まれているかどうかを調べていた。だが本の中には見つからない。どうやら慣用句やことわざなどではなく、そのままの意味しかないようだった。
これは先日森の中でタクミと話したときに、彼がレオンに伝えた言葉だった。
レオンはあのとき、タクミに素直な自分の想いを伝えた。
「きっかけは、髪を下ろした君の姿を見たことだったんだ。それ以来、暇さえあれば君を探すようになった。そのうちに君自身のことも気になるようになったんだ。今では誰よりも大事に思っている」
そう言うと、タクミは頬を染めて「僕のことをそんな風に思ってくれるなんて
……
、嬉しいよ。ありがとう、レオン王子」と微笑んだ。どう見ても脈ありな反応だった。
それですんなり恋人になってくれるのかと思いきや、そうではなかった。
タクミは腕を組み、大真面目にこう言った。
「でもそれで急に恋人同士になるっていうのは早すぎるんじゃないかと思うんだ。ほら、僕らの仲ってずっと険悪だっただろう? もう少しお互いのことを知った方がいいと思うから、まずは友達から始めないか」
それを聞いてレオンはうなずくしかなかった。本音では、恋人同士になってからお互いを知るのと何が違うんだと思っていたが黙っていた。タクミは人一倍気難しいのだ。下手に反対してへそを曲げられては困る。
それで友達としてチェスを教えたり将棋を教えられたりしながら数日間過ごし、今日は二人で仲良く資料館に行った。そこでこの本を見つけたときに、ひょっとして「友達から始める」というのは白夜風の断り文句なのではないかとの疑惑が浮かび、調べてみたのだった。
結果、言葉どおりの意味しかなかった。逆に、交際を申し込むときの奥ゆかしい言い方なのかもしれないとほんの少し思いもしたが、その可能性も消えた。
ひとまず、タクミが本当に友達から始めたいと提案してきたのだということはわかった。次に気になるのは、いったいどの辺りから恋人にクラスチェンジするのかということだ。
タイミングはできる限り早いほうがよかった。
何しろタクミは魅力的なのだ。こちらが友達止まりでぐずぐずしている内に、どこの馬の骨ともわからない輩に横からかっさらわれないとも限らない。そうなる前に恋人となり、その地位を盤石にしておかなければならなかった。
何かいい策はないだろうかとパラパラと本をめくっていると、そのうちの一つの章がレオンの目に止まった。この章の内容がいつか役に立つ日が来るかもしれない。レオンは姿勢をただすと、その章を熟読し始めた。
翌日の夜、当番を終えたタクミがレオンの部屋に遊びに来た。ソファに隣り合って座り、布の小袋をレオンに差し出してくる。
「レオン王子、これをあげるよ」
「これは?」
「お守り袋だよ」
レオンはお守り袋を受け取った。手のひらに乗るくらいのサイズで四角い形をしており、上には飾り紐と吊すための紐がついている。
「次の出撃ではいよいよ透魔王と戦うだろ? どんな相手かはわからないけれど、手強いことには違いないと思うんだ。それで、あんたが無事でいるように、身に付けておいて欲しくてさ」
お守りと聞いて、白夜文化の本の内容を思い出す。お守りとは、光竜に自分の健康や安全を願う目的で身に付けるもので、庶民の間にも幅広く浸透しているものだと書かれてあった。
「ありがとう、タクミ王子。これって、僕のことを心配してくれているってことだよね」
「それはそうだよ。だって、レオン王子は僕の、と、友達だし」
タクミは少し動揺しながら言った。動揺するような要素はなさそうに思えるが、タクミにとっては友達も貴重な存在なのだろう。
「きっと無事に帰って来られるさ。もちろんタクミ王子もね」
レオンは手の中のお守り袋を見つめた。布地の青色と紫色は、法衣の色とブリュンヒルデの色に似ている。
「君って出撃前にはこういうものを配るんだね。いいアイデアだと思うよ。他には誰にあげたの」
「
……
だけだよ」
「えっ?」
聞き返すと、タクミはぽっと頬を赤らめた。
「レオン王子だけだって言ったんだよ。他にあげる相手なんていないよ。お守りを作ったのだって初めてだし」
「これってタクミ王子が作ったの?」
「そうだよ。ちょっと失敗しちゃったけど」
レオンはお守り袋を眺めた。よく見ると、縫い目が粗い箇所がある。縫い物が得意というわけではないだろうに、タクミはレオンのために作ってくれたのだ。
「すごく嬉しい。大切にするよ」
布地の色もレオンに合うように選んだのだろう。タクミの心遣いに胸が温かくなった。
「ところでさ、これって中には何が入っているの?」
「あっ、待って
…
!」
お守り袋の中身について、本に何と書いてあったかは忘れてしまった。軽い好奇心で袋を開けようとすると、タクミがあわてた様子で手を伸ばしてきた。
「もしかして、開けてはだめなものだった?」
「いやその、開けてもいいんだ。開けてもいいんだけど、見られるのはちょっと、どうかなって」
「変なものでも入れたの?」
「変なものは入れて、ない
…
、と思う」
「なら開けてもいいよね」
レオンがお守り袋を開けると、小さな白い紙が折りたたまれて入っていた。取り出して開いてみると、短い毛を細い糸で束ねたものが出てくる。髪の毛の束だった。見覚えのある薄い色をしている。
「これって
…
」
「僕の髪の毛だよ」
タクミは顔の横に垂れた髪の毛をいじりながら言った。
「ここの髪の毛を少し切って入れたんだ。白夜では、光竜に連なる王族の髪には神秘的な力が宿っているって言われているから、お守りの中に入れるのにちょうどいいと思って。ほら、御利益がありそうだろ? レオン王子は僕の髪のこと褒めてくれたし、喜んでくれるんじゃないかなって」
レオンは紙片を丁寧に折りたたんだ。そっとお守り袋の中に戻す。
「とても嬉しいよ、タクミ王子」
「本当に? 気持ち悪くない?」
「気持ち悪いわけがないじゃないか。このお守りがあれば、絶対に無事に帰れるに違いないって思えてきたよ」
レオンがそう言うと、タクミは「よかった」と安心した顔になった。
レオンは改めてお守り袋を眺めた。自然と口元が緩む。
タクミがレオンのために作った、世界でたったひとつのお守りだ。レオンを魅了するタクミの髪の毛まで入っている。これを作っている間、タクミはずっと自分のことを考えてくれていたのだろう。そう思うと、言いようのないくらい胸がいっぱいになった。
「それでさ、ひとつ頼みがあるんだけど」
タクミが遠慮がちに言った。
「レオン王子の髪の毛を、少しもらえないかな。僕も、お守りとして持っておきたいんだ」
タクミはお守り袋を服の中からもう一つ取り出した。レオンに渡してきたのと同じものだ。お守り袋は世界でたったひとつではなくて、二人のおそろいの品だった。
すでにいっぱいになっていたレオンの胸が破裂しそうになる。
夜中に部屋を訪れて、頬を染めながらおそろいのお守り袋を渡して来て、その上持っておきたいから髪の毛が欲しいだなんて、本当に友達同士でするようなことなのだろうか。
とてもそうは思えなかった。断言してもいい。これは、恋人同士ですることだ。
少し前まで、手負いの獣もかくやといわんばかりの警戒心を見せていたのに、仲良くなったらこんな風にかわいい面を見せてくるなんてずるいと思った。こんなことをされたら、ますます彼のことを好きになるに決まっている。
「いいよ、僕の髪をあげる。その代わり、僕のお願いも聞いてくれるよね?」
レオンはタクミの手を取って引き寄せた。互いの手に持ったお守り袋が触れ合い、タクミの目が大きく見開かれる。その瞳をまっすぐ見つめながらレオンは言った。
「タクミ王子、僕のために、毎日味噌汁を作ってくれないか」
いつか言おうと思っていた、白夜文化の本で知った一節だ。本には、白夜で求婚の際によく使われるセリフだと書いてあった。昨日読んだときには、いつかふさわしい機会が訪れるまで温めようと思っていたのだが、今がまさにそのふさわしい機会だと思った。
タクミは一瞬固まり、その後、驚いた顔になった。
「えええええ! 何言ってるんだよ! それ、意味わかって言ってる?」
「もちろんだよ、本で読んだからね。タクミ王子、僕と結婚して欲しい」
タクミは何と返事をしていいかわからないようだった。もごもごと、「でも」と「だって」を繰り返す。
「で、でも、いきなり結婚だなんて。まずは友達から始めようって言ったじゃないか」
「もう友達の期間は終わりだよ」
「だって、まだ少ししか経っていないし、もうちょっと待ってからでも」
「待てない。だって君、僕のこと好きだろう?」
詰め寄ると、タクミの顔がみるみるうちに真っ赤になった。しばらくしてから首がぎこちなく縦に動く。
「う
……
、うん
…
」
「じゃあ何も問題ないね」
「いや、でも、あんたの気が変わったらどうするんだよ。一時の気の迷いかもしれないじゃないか」
「そんなことを考えていたの? 失礼だね、僕のは気の迷いなんかじゃないよ。何なら闇竜に誓ってもいい。僕はずっと君だけを愛しているよ」
そこまで言うと、タクミはさすがに観念したようだった。きちんと座り直し、レオンの手を握り返しながら言った。
「それなら、僕だって、レオン王子の作るスープを毎日食べたい」
「お安いご用だよ」
レオンはさらに手を引いてタクミを抱き寄せた。タクミは少しの間戸惑っている様子だったが、次第にレオンの方へと身体を預けてきた。
「これって、婚約したってこと?」
「そうだよ。絶対に生きて帰ろうね」
タクミの額にキスを落とす。
透魔王がどんな存在なのか不安がないわけではないが、おそろいのお守りさえあれば、何も心配することはないと思えた。きっとすべてがうまくいく。
「よし、そうと決まれば、さっそくタクミ王子のために髪を切ろう」
「待って、ちゃんと準備しないと!」
レオンが近くにあった適当なナイフを持って立ち上がると、タクミがあわてて止めてきた。
相談した結果、切った跡が不自然にならないように、耳のすぐ後ろの髪の毛を切ることになった。
毛先を濡らして細い毛束を作り、タクミが慎重に糸で結ぶ。耳のすぐ横でタクミの手が動いているのがくすぐったくてレオンがくすくす笑うと、それにつられてタクミも笑った。
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