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toko-honey
2026-02-27 18:22:33
3631文字
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結んでほどけて6【切る】
レオン×タクミ。タクミの髪をきっかけにレオンがタクミに惹かれていくお話の第6話。1日1話の連載で全7話です。
Japanese Only
#leokumiweek2026
タクミが髪を切ると聞いて、レオンは当番を終えるや否や宿舎に駆け戻った。タクミの部屋の扉をノックする。
「タクミ王子! タクミ王子! いないの!?」
何度かノックをするが返事がない。どうしようかとおろおろしていると、ゼロが近付いてきた。
「タクミ王子なら先ほど臣下を連れて歩いているのを見ましたよ」
「どこに行った?」
「拠点の外れのほうだったと思いますが」
「それを早く言え!」
レオンが当番中の錬成屋にわざわざやって来て、「タクミ王子が髪を切るそうですよ。そりゃあもうばっさりと」と情報を持ってきたのはゼロだ。きっとあの時点で行き先も知っていたに違いない。
レオンはにやにやしている臣下を押しのけて宿舎を飛び出した。
早く行かねばと気が焦る。タクミが髪を切ることはレオンにとって一大事だった。きっと、昨日の戦闘中に髪を焦がしてしまったのがショックだったのだろう。
髪を短くしたタクミの姿を想像して胸が痛くなる。もともときれいだったところに、一昨日から急に艶が増してもっときれいになっていたというのに。あの長くてきれいな髪がもう見られないなんて、考えたくもなかった。
タクミの性格から考えると、誰にも知られない場所で切るつもりだろうと思った。以前カミラに聞いたことを思い出す。タクミは弓の特訓を、森の中の誰にも知られない場所でやっていたことがあるらしい。
拠点の門の近くで臣下の一人のヒナタを見つける。タクミについての話を聞くと、彼は髪を切ることは知っていても場所までは知らないと言った。
「タクミ様は『髪が焦げたからオボロに切ってもらう』って言ってましたよ。あと、『誰にも言うな』って」
ヒナタはそう言った後、自分の発言の矛盾に気付いて「あれ?」と首を傾げた。
レオンはヒナタに礼を言って拠点を出た。
おそらくゼロはタクミがオボロを連れていることも知っていたはずだ。知っていながらわざと「臣下を連れて」なんて言い方をしたに違いなかった。相変わらずの性格だ。
胸の中でゼロへの文句を垂れながらレオンは森の中へ入った。手掛かりは、カミラに教えてもらったタクミの特訓場所だ。そこに彼がいなければお手上げだった。
草を踏み分けながら、教えてもらった場所にレオンが到着すると、そこには予想どおりタクミとオボロの姿があった。レオンはほっとしかけたが、ほっとしていられない状況であることにすぐに気が付いた。タクミは簡易の椅子に腰掛け、首の周りに大きな白い布を巻いており、その背後に立っているオボロの手にはハサミがあったからだ。
タクミの髪はすでに解かれており、オボロがその髪に触れようとしている。どこからどう見ても今まさに髪を切ろうとする瞬間であった。
レオンは駆け出した。
「まっ、待って!」
「レオン王子?」
レオンが叫ぶと、二人が同時に振り向いた。タクミは驚いた顔をし、オボロは嫌そうな顔をした。
レオンはタクミに近付いた。白い布の上に広がるつややかな髪の、中程の一部が黒く縮れている。昨日の戦闘で焦げた部分だった。
「待ってよ、タクミ王子。その髪、本当に切ってしまうのか」
結局昨日の戦闘後は、ごたごたしていてタクミと話す時間は作れなかった。だから「後で話そう」と言った続きが今だった。
あのときタクミには、レオンが見ていたのはタクミの髪だけだと思われていた。守りたかったのは髪だけだと。そうではないことをまだ伝えられていない。その上、レオンがタクミに惹かれるきっかけになった髪まで切られてしまうのは、どうにも耐えられなかった。
「僕が僕の髪を切ったらだめなのか」
「だって、そんなにきれいなのに」
「きれいって
……
」
タクミの頬がぽっと染まった。困った顔になって視線を地面に向ける。
「そうはいっても焦げちゃったんだ。仕方がないだろう」
「ごめん、僕が近くにいたのに守ってあげられなかった」
「どうしてレオン王子が責任を感じるんだよ」
「ずっと見ていたんだ、君の髪も、君のことも。ずっと見てた。あの日、君の髪紐が飛んできた日からずっと。だから君の髪が切られると思うと、自分の身を切られるように辛いんだ」
タクミが顔を上げた。困ったような喜んでいるような複雑な表情をレオンに向ける。
「
……
そうやって、誰かにいろいろ言われると思ったから、ここでこっそり切ることにしたんだけどね。まさかあんたが僕を探してまで何か言いに来るとは思わなかったよ。僕のことを気にしてくれてありがとう、レオン王子。でも、もう決めたことだから」
「タクミ王子
……
」
レオンがタクミをじっと見つめていると、オボロが軽く咳払いをした。
「あの、そろそろ始めてもよろしいですか? 長くなるようなら後にしますけれど」
はっとなってレオンは二歩下がった。タクミの髪がよく見えるように斜め後ろに立つ。
「見ていてもいいかい?」
「仕方ないな、いいよ」
オボロが手桶の水でタクミの髪を軽く湿らせた。ハサミが入り、切られた髪がパラパラと落ちていく。
レオンは息を詰めて見守った。タクミの髪が切られるのは辛いけれど、しっかり見ておこうと思った。見ているだけのレオンよりも、実際に切られるタクミのほうが辛いに決まっていた。
どうして髪を伸ばす魔法がないのかと残念に思う。
暗夜王国では攻撃を目的とする魔法の研究は盛んだけれど、治癒魔法の研究は比較的遅れていた。失った体の一部を復元する魔法はまだまだ研究段階だ。
戦争が終わって国に戻ったら、髪を伸ばす魔法の研究に尽力するつもりだと伝えよう。そうすればきっと、少しは彼の気が楽になるに違いない。
どのタイミングで声をかけるのが良いかと考えながら見守っていると、オボロは焦げた部分を切った後、左右のバランスを整えて早々にハサミを片付けた。まだまだ長いタクミの髪をひとつにまとめて結び始める。
――
んんん?
黙って見守っている内にタクミの髪はいつもと同じ髪型になった。正確にいえば少し短くなって量も減っているが、全体の印象に変化はない。レオンはぽかんとした。ばっさり切るという話はどこにいったのか。
「それでは失礼いたします」
散髪の道具を手早く片付け、オボロが去った。ぽかんとしたままのレオンにタクミが近付く。
「終わったよ」
「え、終わったの? 髪を切るのは?」
「だから、切っただろう。焦げた部分だけ」
タクミは結んだ髪に触れた。一部分だけ切って短くなったはずだが、下の結び目をうまい具合に調整してあるおかげで違和感がない。
「そんなはずは
……
。だって、『ばっさり切る』って」
「僕は『ばっさり切る』なんて言っていないよ」
そう言われてレオンは思い出す。ヒナタは「髪が焦げたから切る」と言っていた。タクミも「焦げたから仕方がない」と言っていた。オボロにしても、主君の大事な髪をばっさり切るにしては態度が軽すぎだった。いくら思い返しても、「ばっさり切る」とはっきり言っていたのはゼロしかいなかった。
「ゼロのやつ
……
!」
だまされたことに気付いて悔しがるレオンを見て、タクミが思わずといった風に吹き出した。
「ふふっ。ゼロに言われて、僕が髪をばっさり切るって思っていたんだね。何だか様子が変だと思ったよ」
「気付いてたの」
「だってすごくあわてていたし、真剣な様子だったし」
タクミがくすくすと楽しそうに笑い、レオンの顔にじわじわと熱が集まる。
「もう、気付いてたのならなんでもっと早く言わないんだよ!」
「あはははは、ごめん」
口では謝りながらもタクミはまだ笑っている。レオンの勘違いがよほどおかしいのだろう。こっちは本気で心配していたのにひどい態度だ。髪を伸ばす魔法の話を出していなくて本当によかったとレオンは思った。
タクミがレオンを見上げてくる。
「笑っちゃってごめん。本当はうれしかったんだ。レオン王子が僕のことを真剣に心配してくれてるのが」
タクミはもう笑っていなかった。
「ねえ、話をしようよ。教え欲しいんだ。どうして僕のことを見ていたのか。どうして僕のことを守ろうとしたのか」
木々の間を風が通り抜け、タクミの髪を揺らす。木漏れ日を受けた髪はひときわつややかで、レオンを魅了した。
「うん、話そう。僕もひとつ聞きたいことがあるんだ。君の髪が前よりきれいになったように感じるんだけど、僕の気のせいかな?」
「ううん、気のせいじゃないよ」
「やっぱりそうだったんだね。でも、どうして?」
「それはね
――
。ああ、そうだ。それより先に、まず言わなくちゃいけないことがあるんだった」
タクミはかしこまって言った。
「初めて会ったとき、僕を助けてくれてありがとう」
ああ、やっと言えたと、照れくさそうにタクミは笑う。そのひかえめな笑顔は魅力的で、ますますレオンを魅了した。
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