望月 鏡翠
2026-02-27 15:12:57
865文字
Public 日課
 

#2012 花束

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔


 花を買ってみたものの花瓶がない、というのは珍しい悩みだったのかもしれない。愚者の街の人には笑われた。ひとまず水が入れられればなんでもいいからと、器を分けてもらった。
 手に入れたものは注ぎ口がついていたから、花瓶ではなかったのかもしれない。もしかしたら水差しとか牛乳を注ぐ女が手に持ってたアレみたいなものだったのかもしれない。
 ともあれ、なんとか花と水を一緒に入れて置いておけそうな器を見つけてきた。津鞠さんと、あーでもないこーでもないと言いながら、置く場所を探す。
 最有力候補は、床だった。他に置く場所がない。
 彼女曰く大事だという服が、まとめて一気に端に流されていくのを見たとき、やばと声が出た。
 そんな扱いしていいのか。花の威力ってすごいな……
 前まで、インテリアに興味がある人の気持ちがわからなかった。
 置く場所がないし、置いて似合うような家に暮らしてもいなかった。確かに映画のポスターとかクールだけど、飾ろうにも賃貸だから画鋲で刺したりはできない。そこであえて、壁に穴をあけずにポスターを貼り付けられる色々なものを買ってくるほどの熱意はなかった。
 でも部屋に花があるというのは、思ったよりもテンションがあがる。視界に入るたびに、おっあるなって気持ちになる。それ以上の気持ちをうまく言葉にできないんだけど、悪くなかった。
 花束って想像していたよりもかなり生っぽくて、生きている感がある。
 部屋におしゃれなものを飾っている人も、こういう感覚を求めていたのかもしれない。普段と何にも変わらない生活をしていて、でも出かける前に自分が好きで買ってきたものが視界に入る。ああ、そういえばこれ買ってきたんだったな、あるじゃんってなる。出かける前とかに、こういうのが玄関とかにあったら、確かに悪くない。
 家に置いてみてもよかったのかも。おしゃれな花瓶はないけど、ペットボトルくらいならあるし、駅の前に狭い花屋くらいはあったから。
 長持ちはしなかったけど、初めて手に入れた花は素敵な思い出になって残った。