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2026-02-27 21:40:00
2105文字
Public 高諸
 

14)前言撤回!

# いいねされた数だけ書く予定のない小説の一部を書く

高諸に振り回される山さん


蝋の僅かな灯りを頼りに、山本はここ数日の忍務の報告書を書き認めていた。

提出は明日の朝になるのだが、これを今日終えるか終えないかでは、明日の朝餉を落ち着いて食べれるかどうかに影響が出る。

睡眠時間も確保したい山本は、簡潔に報告事項を書き連ねるべく、さらさらと紙に筆を滑らせた。

ふと、一人の部下の名前を書いたところで筆が止まった。

雑渡の看病を引き受けたために、同年代に比べ修行が遅れてしまった子。去年、狼隊に迎え入れてからも、修行とは違う実戦に苦労していた姿は山本もよく知っていた。

ヘマをしては高坂や雑渡に守られて、任務後にしこたま怒られる。報告書に彼の名前を書くときは、その不始末について記載するためだった。

だが、今日は違う。今回の戦、彼は大きな手柄をたてたのだから。

高坂や雑渡に守られて、叱られて。そのたびにどこが駄目だったかを反省して、空き時間を見つけては鍛錬を積んでいる姿を何度も見た。

何度山本が焦らなくていいと伝えても、決して聞き入れることはなく直向きに努力を続けてきた。それがようやく身を結び始めたことに、我が子の成長を喜ぶ父親のような気持になった。

自然と目元に皺が寄る。

静かに優しい笑みを浮かべながら、山本は報告書に部下の手柄のこともしっかり書き込んだ。

──きっとこの報告を受ける上司も、彼の成長を同じように静かに喜ぶに違いないから。


「あの、山本小頭……

終わりが見えてきたところで、部屋の外から自分を呼ぶ声が聞こえた。その声に聞き覚えがある山本は、筆を置き、外にいる人物へ声をかけた。

「尊奈門か?どうした、入ってきなさい」

いつもなら元気いっぱいの尊奈門の控えめな声。山本の返事にすぐ戸を開けるでなく、一呼吸おいてから入室する様子に、山本は眉間に皺を寄せた。

「どうした?大手柄を立てたのに、元気がないじゃぁないか」
「い、いえ、そんなこと。夜更けにすみません」

部屋に来って戸の前に座った尊奈門は不安そうに視線を彷徨わせた。数刻前まで、戦の勝利を祝う宴会の席では楽しそうに食事をしていたはず。

この数時間で一体何があったのだろうか。

聞かぬことには始まらない。山本は身体ごと尊奈門の方に向けると優しく眼差しで言葉の続きを催促す。
そこまでしてようやく尊奈門は重々しく口を開いた。

「あの、小頭から見て、私とじ……、高坂さんはどう見えますか?」
「お前と高坂ぁ?」

よく知るもう一人の部下の名前が出て、思わず山本は大きな声を出してしまった。尊奈門はしっかりと正座を組んだまま、居心地が悪そうに体を縮こませた。

いけないいけない。山本はすぐに失敬、と咳払いをし、調子を取り戻してから先ほどの質問を思い出す。

尊奈門と高坂が、どう見えるか──

彼は一体何に悩んでいるのだろうか。

二人はそもそも里内にいた頃の幼馴染であり、仲の良さは山本はよく知っていた。

確かに一時期、高坂が一方的に気まずさを抱えていたのも知っている。だが、同室という荒療治のおかげで今は昔と変わらない関係に戻ったと思う。

少なくとも上司として公平に二人を見る立場からはそう見えた。

確かに幼馴染だからこその距離の近さはあるかもしれない。特に高坂は人間の好き嫌いが激しいから。だがそもそも、そんなことを悩む尊奈門の方がらしくない。二人の距離感なんて、それこそ今更なのだから。

誰かに、何か言われたか。

普段は負けん気が強く、他人の言葉に左右されない彼だが、先輩となった幼馴染を引き合いに出されると、そうもいかないのだろう。

しかし、これを放っておいて尊奈門が変に高坂を避ければ、今度は高坂の方に影響も出かねない。

そうなると苦労するのはその二人を部下に持つ、自分自身だ。

報告書の仕上げを明日の朝餉後に任せることにして、部下を安心させるようにニッカリと笑みを作った。

「私が見る限り、お前たちは良い先輩後輩だ。誰に何か言われたかもしれないが、不安に思わなくて良い」

己の言葉が信用できないのか、尊奈門は眉をハの字に下げたままだ。可哀想に、大きな瞳にはうっすらと水の膜が張っている。

一体誰がこの純粋な部下に変な入知恵をしたのだろうか。本人たちが問題ないなら、周囲が口出しする道理はないと言うのに。

「ほ、本当のことを言ってください!」
「嘘は言ってないさ。確かに高坂は少しお前に過保護な時もあるが、それはあいつが後輩としてお前を大事に思っている証拠だ。決して誰かがとやかくいうほどのものではないさ」

尊奈門の目の前まで行き、頭に手を置いた。そのまま子供を褒めるときのようにガシガシと左右に手を動かせば、やっと強張っていた尊奈門の表情が和らいだ。

どうやら自分の言葉に納得してくれたようだ。

部屋に来た時の緊張感が綻んだのに気づいた山本が手を離せば、尊奈門は安心したように息を吐いた。

「よかったぁ。じゃあ寝る前の口吸いや添い寝も先輩後輩なら当たり前なんですね!」
「待て待て待て待て。おまえたちなにしてるんだ?!」