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roku
2026-02-27 12:14:20
890文字
Public
松イチワンドロライ
第50回『香り』
・大人軸
一之倉を腕の中に閉じ込めている松本が首筋に顔を埋めてすうっと息を吸う。
「聡っていつもいい匂いがするよな」
「そう?」
とぼけてはいるがこれは意図的であった。
バスケに明け暮れていた学生時代、誰もが使っていた制汗剤。その匂いを嗅いだ松本が「一之倉っていい匂いするよな」と言ったのが始まり。「使う?」と差し出したそれは「ありがたいがやめとく」と丁重に断られた。
自分から一之倉の匂いがしたら我慢が利かなくなるから。という理由は付き合い始めて随分経ってから知った事実だ。
「全部違う匂いなのに喧嘩してなくてすげえ好きなんだよな」
松本が髪を掬い鼻を近づけた。
確かにシャンプー、ボディソープ、柔軟剤、香水。それぞれの匂いが喧嘩しないように計算しているが、それを伝えたことはないし、そこまでストレートに言われると戸惑ってしまう。
「
……
恥ずかしんだけど
……
」
「恥ずかしがることはないだろ」
松本の手が捲くり上げたTシャツからは柔軟剤の香りが漂う。すべて剥ぎ取られ生まれたままの姿で抱き合えば、汗ばんだふたりの香りが混ざり合いひとつになる。
人は匂いを最も忘れにくいと言われているから、たとえこの先どんなことがあっても忘れないでほしい。そんな願いを込めて、一之倉はいつも同じ香りを纏っている。
「なぁ」
「ん?」
「これってプルースト効果ってやつだな」
ベッドの中で一之倉を抱き寄せた松本が静かに笑う。
「
………
え?」
「街中ですれ違った人から同じ匂いがすると聡を思い出して無性に会いたくなる」
まさか松本からそんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかった一之倉は驚きを隠せずにいる。
「忘れてるわけじゃないから思い出すって表現はしっくり来ねえけどな
…
」
「匂いってすごいよね。オレも松本の匂い好きだよ。だからさ、あのジャケットちょうだい」
脱ぎ捨てられ皺を作っているジャケットに視線を落とす。
「どうするんだよ?」
「ひとりの時に使う」
「ひとりにさせねぇからやらない」
抱きしめる腕に力を入れ身体を寄せると熱を持ったお互いが触れ合う。
ふたりの夜はまだ始まったばかり。
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