omryksr
2026-02-27 00:35:16
2652文字
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もちもちの名は

マスターがジュナたちと反省会をします。
今日の議題は「神との関わり方について」


 「マスター、では確認いたします」
 「お願いします!」
 「神からものをいただきそうになったら?」
 「心からの感謝の言葉を述べながら、アルジュナを呼びます」
 「よろしい。その場合私でも、もう一人のほうの私でも構いません」
 「ではマスター何らかの理由で我々がそばにいなかった場合は?」
 「パールヴァティー様かガネーシャ神に来てもらえないか念を送ります」
 「よろしい。どちらも慈悲深い神々です。気づいていただけたならかならずマスターの助けとなってくれるでしょう」

 朝からマイルームで繰り広げられるミーティングのようなもの。参加者は、二人のアルジュナと、マスターであるわたしと、そうして先日神様から下賜されたもちもちの生き物がこのミーティングの参加者だ。議題はもちろん「神との接し方について」
 礼儀作法的な面から、心構えの面まで詳細に叩き込まれる。
 なお、無宗教を名乗りながら日常生活のあらゆるところでゆるい宗教行事を楽しんでいる現代日本の宗教観を最大限考慮してくれた結果「一人で神と関わらない」というところに着地した。そう、ゆるい諦観だ。もちろん、日本にも触らぬ神に祟りなしという諺があるくらいなので、神の怖さも理不尽さも少しは理解しているつもりだ。
 でも、その危なそうな感じがかの神からは感じられないというか……あまりにも感覚を人間に寄せてくれて、人間を知ろうとしている感じがするというか。とにかく危険なにおいがしないのだ。けれどこれをアルジュナに伝えたところで彼の心配の種を増やすだけだろうと思うので言わない。
 インドラ様はとても慈悲深く、人間臭い神様だ。
 そこまではいい。わたしたちの認識はずれてはいない。けれど神はどこまで行っても神であり、決して人と本当の意味で分かり合うなどということはない、というところの理解がいまいちらしい。
 わたしの目に映る神様は、勢いで神罰を下すほど狭量ではない。たしかに不敬は咎められるし、意図的に貶めるような舐めた発言は許されないし一瞬で消し炭にされるだろう。それは、わたしの立場がどうであれ関係なく行われる神罰で、それから逃れる術も思い浮かばない。けれど、カルデアでかの神と関わるうちにいくつかわかったことがある。
 神様は、神々の王として模範的な態度をとろうと常に心がけている。
 本来の、本性といわれる類いがどれ程粗野で苛烈であれど、その姿を表に出すことをよしとしていない。特に、2人のアルジュナたちの前では。それに、きっともとから人のことを深く愛してくれている神様だと思う。人から、アルジュナたちから、こう見られたいという神様像がはっきりしており、常にそれに合うように鷹揚に振る舞っている。
 悠然と構え、すべてにおいて余裕を持って対処する神々の王。全力を出さなきゃならないことなんてめったに無い、真に力のある神。本神の言うことによると、今は物見遊山中らしいのでより一層余裕ある優雅で気品を感じさせる振る舞いを心がけているように感じる。空模様のようにくるくる表情を変え、感情を見せてくれる姿を見ていなければ、近づきがたい雰囲気さえあっただろう。
 ヴァジュラたちの存在もおおきい。武器に小さな神性を宿らせ、使用人かわりにそばに置いていると言う割には、あの武器たちはとても奔放に振る舞っている。彼らも神の武器らしく行動規則があり第一に優先すべきものはインドラ様ではあるのだろうけど、物言わぬ武器ではなく自由な発言と行動を許している。そして、神様への接し方でまずい事があればまず彼らが咎めてくる。大抵の場合、それを神が何かと理由をつけて許してくれる。緩やかに、確実に神への接し方を教えてくれている。(許すたびにインドラ様の寛容な神アピールが挟まる)
 再臨を重ねるごとに少しずつ素の部分が見えかけれている気もするけど、それはそれ。フェスの時の衣装がだいぶイケイケだったけどそれも置いとくとして(催事の際には全力でエンタメに振ったほうが格好良いみたいなインドの価値観かもしれないし)
 つまり、対応を間違ってしまったとして即冥界とはならないだろう。
 わたしはそう思っているもののアルジュナたちは違うようだ。本当に大丈夫だと思うんだけどな。あのヴリトラ相手にも「一応理由を聞いてやろう」と返してくれたのだ。空を割ったあの特異点にはアルジュナも同行していたはずなのに忘れちゃったのか、あれは特例中の特例だったのか。たぶん特例だと思っているんだろう、その後結局戦うことになったし。でも、カルデアにはまだヴリトラがいる。意図して出会わないようにしているもののカルデアの協力者であるということを伝えればひとまず討伐は先送りにしてくれている。

 「殺されることはなくても知らない間に人間やめることになってるかもしれない」何度も言われている。
 たしかに、そうかもしれない。良かれと思ってやったことが裏目に出る。そういう不運がありそうだ。
 「マスター私たちとて偉大なる神の慈悲を疑っているわけではありません。神が我々人にもたらす恩寵のすべてが、いい知らせであるとは限らない」
 「ぷきゅ」
 アルジュナの言葉に、戸惑うように小さなインドラ様が声を上げる。不満そうな声ではなく、なんだろう子供が喜ぶと思って渡したものが微妙に違ってて喜んでもらえなかった親のような反応だ。おとうさん頑張って。インドラ様が良かれと思ってこの小さい切れ端ちゃんをわたしにくれたのはわかっている。アルジュナたちもそれはわかっているだろう。
「切れ端ちゃん……ううん、あまり可愛くないな」
「マスター、何を考えておられるんですか」
「この子の名前だよ! 小さいインドラ様では長いし切れ端ちゃんは可愛くないでしょ?」
 可愛い名前がいいなとあれこれ考えるわたしの視界の端に頭を抱えるようなアルジュナが映る。ああやっぱりかってに名前とか考えたらだめかな。神罰対象だったりする?先ほどから穏やかに成り行きを見守っているもう一人のアルジュナに目を向ける。
「ねえアルジュナ、この子に名前つけたらインドラ様に叱られると思う?」
「どうでしょう、そのような些事にお怒りになることはないかと思うのですが、どのような名前をお考えに?」
「そうだな、もちもちしてるから」


「もちンドちゃん!」
「きゅきゅー!」

 雷霆によく似たもちもちした切れ端は元気よく鳴き声をあげた。