彼方の作品倉庫
2026-02-26 23:57:28
3109文字
Public 利こま
 

【利こま/SS】満ちて満たして身と心

VDではなくなりましたが、元ネタはこちら
こま不在(with土先生)。利が一部方面にドライで酷いです。
※チョコの存在やVDについては捏造しています(呼び方だけ江戸時代のものを使用)。

 忍術学園に見慣れない包みを持参した私に、土井先生は目を丸くさせた。父上の洗濯物よりやや小振りなそれを、私はずいと差し出す。
「これ、きり丸にどうぞ。もちろん土井先生もご一緒に」
「いやいやいや。利吉君、まずは中身の説明をしよう?」
 出所やら経緯やらを諸々すっ飛ばしてでは、やはり受け取ってくれないようだ。まずは警戒心は解くところから始めなければ。
「最近、女子の間でお菓子の贈答が流行はやっているのはご存知ですか?」
「あぁ、一応耳に挟んではいるよ。確か南蛮の、チョコレートしょくらあとなどを贈る文化の派生だとか何だとか」
 まさにそれである。今ではチョコレートしょくらあとに限らず、ボーロや金平糖、はては饅頭や団子まで。自作であれ既製品であれ、お菓子であれば何でもアリという勢いで、贈り物や交換が流行しているのだ。突然の需要の高まりに、お菓子を取り扱っている店は大層喜んでいるとか。
「学園でも、くのいち教室の子達を中心に楽しんでるようだよ。もしかして、まさかこれも……?」
 彼はこの包みが、くのたまからの贈り物だと思ったようだ。しかしその予想はハズレである。
「順を追って話しますと、これは小松田君から貰った物です」
「? ……? 小松田君からの贈り物を手放す……? 利吉君が……?」
「そんな偽者を見るような目を向けないでください。正真正銘、利吉本人です」
「だって本物の利吉君なら、小松田君から貰った物ならゴミでも保管しているだろ?」
「ヤバめの犯罪者ストーカーみたいな認識やめてくれません!? 仮にもあなたの弟分ですよ!?」
 人を何だと思ってるんですか全く!! 正心を持って日々精進しているというのに! 何かそう考える原因でもありましたか私!?
「いくら彼からの貰い物でもゴミは捨てますよ! って、そうじゃなくて……。もっと話を遡ると、これは小松田君が受け取ったお菓子です」
「あぁ、さっきの贈り物の」
 そう。流行に乗ったくのたまや客人から彼が受け取った物が、この包みの中身なのである。小松田君は人がいい為に好かれやすく、贈る相手として選ばれやすい傾向にあるようだ。
 そして本人も警戒心がない故に、フツーに喜んでそれらを受け取ってしまうのである。危険物が紛れ込んでいるとは考えないのか、あの能天気は……
「でもどうしてそれが利吉君の元に? あ、嫉妬?」
「いきなり解を求めないでください。解を求める過程の式も大切なんですから」
「要するに、いろんな人から貰って喜んでる様子に妬いたんだろう?」
……まぁ、正解です。半分ほど」
 そこまで子供染みた悋気を催した訳ではないのだが、その気持ちも皆無ではないので否定はしない。だが本当の正解は別のところにある。
「私も貰ったんですよ。その手の贈り物を」
「おや」
 何が混入されているかもわからないような物は、基本的に受け取らない。ずっとその姿勢で来ていたはずの私が物を受け取ったことに、土井先生は驚いたようだ。元から丸い目を更に丸くさせ、幾度か目をしばたかせている。
 それらは、この前の依頼主の屋敷に勤める女中達から貰った物なのだ。家主にはよく贔屓にしてもらっている手前、下手に断って不興を買う訳にもいかない。なので遠慮しながらも受け取るという形に収めたのだが……
「まぁ普通に邪魔なので」
「邪魔て」
「何かの折に処分しようかと考えまして」
「処分て」
「しばらく放置も視野に入れていたのですが」
「もう少しこう、何と言うか……手心と言うか……
「いります? 形式上とはいえ一度は遠慮して断った物を、めげずに押しつけようとする失礼な相手に手心など」
 それも一人や二人でなく、集団戦法を取られたのだ。一度許せば五人十人と、際限なく我も我もと詰め寄られてしまった。依頼主は笑って眺めてるだけで、助け舟も出してくれず……あの昼行燈タヌキめ……
「そこで、ふと思い当たったのが小松田君だったんです。彼はお菓子が好きですし、きっと大喜びで受け取ってくれるだろうと思いまして」
……まさかとは思うけど、そのお菓子の調達先について彼に説明は……
「する訳ないでしょう。私が準備した、で終わりです」
「過程の式が大切なんじゃなかったの?」
「時と場合によりますね」
「居直り強盗並みの開き直りっぷり……!」
 例え話とはいえ、強盗とは失礼な。そんな小汚い泥棒と同列に扱わないでください。それに私は、小松田君のお菓子も無理に奪ったのではないのだから。
「すると小松田君も同じように、お菓子をたくさん貰っていましてね。『ちょうどいい』と思って、交換を持ちかけたんです」
 私が持参したお菓子には、少し値が張るようないい物も混ざっていた。交換後にそれらを見つけた小松田君の目の輝かせっぷりと言ったら。元手ゼロで彼の笑顔と感謝を得られたのだから、最高の利益率である。
「あぁ、もちろん手作りの物は省いて渡しましたよ。彼に何かあってはいけませんからね」
「まぁ何が仕込まれてるかわからないし、その徹底ぶりは逆にありがたいけど……
――で。交換して受け取ったはいいものの、ぶっちゃけ私はいらないので。タダであげる……となったら、きり丸なら喜ぶかと思いまして」
「直接きり丸に行かず、私を介したのもその為か」
「だって土井先生なら、危険物を見分けて取り払えるでしょう?」
「するけどさぁ」
 やれやれ、と土井先生は肩をすくめた。彼も「きり丸が喜ぶ」と聞けば、無下に断りはしないだろう。そんなややよこしまな思惑は、無事に功を成したようだ。押し付けてしまってすみません。
……あれ? そっちの小さな袋は?」
「これですか? 小松田君が私にと準備してくれた贈り物です。これは駄目ですからね」
「誰も取らないって。じゃあ利吉君も、小松田君にお返ししないとだ」
「何言ってるんですか。とっくにあげましたよ」
「そんなしれっと……抜かりないね」
 貰ってばかりの人間だと思われては困る。ちなみに私の贈り物は、手作りの串団子である。彼からの贈り物はまだ確認していないが、何であろうと私は喜んで受け止めますとも。
「いろんな人から貰った物は手放して、私の贈り物は受け取ってくれる。いやはや嬉しいですよねぇ。しっかり味わってほしいところです」
……あの、さ。こう言うのも何だけど…………何かちょっと怖いよ?」
「そうですか?」
 まぁ……手作りについては、私の物だけ食べてくれる・・・・・・・・・・・という事実が、内心で口角が上がってしまうくらいに喜ばしくはある。彼から贈り物を取り上げること以上に、こちらの方に重要な意味があるからだ。それが先程述べた“本当の正解”だったりする。
 日本の神話には、黄泉の食べ物を食べてしまったがために、地上への帰還が叶わなくなった神様の話がある。詳細は知らないが、この手の話は他の地域にもあるらしい。
 つまり食事とは、対象を内側からその場の存在として支配する力がある・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と見なすことができるのである。胃袋を掴む、と言えばそれまでの話なのだが……
「何にせよ、彼がそれで満たされるなら充分ですよ」
 私の目的は、それで達成するのだから。


……ところで、利吉君が貰った手作りの贈り物の処遇は?」
「廃棄直葬ですが?」
「迷いがなさすぎる目が一番怖いよ……
「怖いだなんてそんな。私は彼を一途に見ているだけです」
……やっぱりヤバめの犯罪者ストーカーに足突っ込んでるよ、君」