かん
2026-02-26 07:17:38
4216文字
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転校先で出会った彼女と、ずっと両片想いだった

山下瞳月さん





朝、教室へ入ってもまだ違和感が拭えない。

挨拶を交わす人も少なく、机もこの場所も自分のものではないみたい。

転校して一カ月、なのにまだまだクラスに馴染めていないのを改めて実感した。
 


親の都合で高一の1月という微妙なタイミングでの転校。

慣れない土地や生活に少し疲弊している。

この時期なら当然、クラスの雰囲気とかノリとか仲良いグループも勿論、既にできている。

残念ながらそこに入り込むほどの度胸とコミュニケーション能力は持ち合わせていない

スポーツも中途半端だし、勉強も特別できるわけではない。かと言ってアニメとかアイドルとかにも詳しくはない。

ずっと帰宅部だし。



まぁ、このままだとまずい。


ただ




"お、おはよっ"








〇〇:あ、おはよう



そう言ってたどたどしく隣の席に座る山下さんは、転校生にも挨拶してくれる数少ないクラスメイトのひとりだ。


華奢なスタイルに艶がかった髪、が肩から丁寧に降ろしてある。

そしてそこからひょっこり出てる耳や鼻、口など全てのパーツが小さい。


こちらを大きく写す、澄んだ瞳以外は。


毎回見かける度、新鮮に驚いてしまう。

前の学校にもこんな人はいなかった、そう言い切れるくらい可愛い。

現に他クラスの男子が山下さんを呼び出すのを何度か見た。

誰かに聞かなくてもなんとなく、彼女の立ち位置がわかる気がする。

だから転校生が仲良くしてるのが気に食わないのか、男の視線がきつい。多分。



瞳月:●●

〇〇:ん?

瞳月:今日の2時間目って何?

〇〇:えっと文国

瞳月:ありがとう


そして何故か、山下さんは自分にだけ話しかけてくれる。

あくまで主観、だけど他の男との対応が明らかに違う。

気がする。

理由はわからないけど、すごく嬉しい。

でも多分転校生が早くクラスに馴染めるよう配慮してくれてるということだと思う。

虚しくも逆効果だけど


瞳月:今日は?全部ちゃんと持ってる?

〇〇:あ、それなんだけど

瞳月:もし何か困ったことあったら、しーじゃなくて私が今日も

〇〇:ちょうど今日全部届いたから、もう大丈夫だと思う

瞳月:

〇〇:1週間色々助かりました、ありがとうございました

瞳月:よかった、うん、よかったよかった


教科書ない時なんでなのか頑なに山下さんに見せてもらったから、これで周りの視線が少しは和らぐはず


瞳月:なんやねんそんなん一生

〇〇:


思わず視線を逸らした。

山下さんが不満そうに隣で何かぶつぶつ言ってる。

そんなに嫌だったのか申し訳ないことをした。

これからは絶対忘れないようにしないと


的野:おはよー

瞳月:あ、おはよぉ

的野:●●くんもおはよー

〇〇:おはようございます


山下さんと仲良しの的野さんもちゃんと挨拶してくれる。


的野:●●くん結構朝早いよね

〇〇:あーまぁ

的野:なんで?誰かと待ち合わせ?

〇〇:いや、ひとりです

的野:友達は?誰かいないの?

〇〇:今のところ独りです

的野:えー大変だね


ニヤニヤしながらそう言ってきた。


〇〇:全然笑えないですよ

瞳月:なんで?●●、嫌われてる?

〇〇:いや、嫌われてるというかこの席が

瞳月:

的野:あー、なるほど

〇〇:はい、まぁ、誰でもこうなるかなって

瞳月:どういうこと?

的野:大変ですね

〇〇:羨ましいんでしょうね

瞳月:説明して、どういうこと?

的野:本人に自覚がないのがね

〇〇:また厄介というか

瞳月:全然わからんって!ちゃんと説明して!


的野:私でよければ、友達になりますよ

〇〇:えいいんですか

的野:もちろん


ここに女神が、目の前に


〇〇:本当にありがとうございます

的野:よろしくお願いします


深々と、気持ちを込めてお辞儀する。


的野:あ、瞳月もなろうよ

瞳月:は?

的野:一緒に●●くんと友達になろ、2人目として

〇〇:山下さんもいいんですか






瞳月:い、嫌やっ

〇〇:



的野:なんでよ

瞳月:と、友達なったらその瞬間……友達って……しかも2人目…………せめて

〇〇:

的野:あ、そういうこと

瞳月:と、友達なんかならんから!友達になるわけないからっ!そうなったら


〇〇:すいませんでした




思わずその場にへたり込んでしまう。


瞳月:あっ違う!その、嫌いとか違う!そんなんじゃなくてしーは

的野:あーあ、瞳月のせいだ

瞳月:いやっ、だから、そういう意味ちょっ、聞いてる!?ちゃんと伝わってる!?しーの





その後の会話は、全く耳に入ってこなかった。






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キーンコーンカーンコーン



「起立」


学級委員の声に、力無く立ち上がる。


「礼」


「「「お願いします」」」



〇〇:あ


前にいる先生を見て、今が3限目なことに気づいた。

慌てて教科書とノートを用意する。

この先生は忘れ物に厳しい、すぐ減点する。

早く家に帰りたい


瞳月:あない

〇〇:


隣から、絶望感を纏った声がした。


瞳月:ないないない


ガサゴソ机の中と鞄を漁るが、それらしきものは出てこない。

これはやばい


「忘れ物した人、前に言いに来て」


瞳月:


ほんとに絶望の表情。



大きな瞳が揺れている。





「他は?ちゃんと持ってきてる?」




瞳月:ぁぁの



〇〇:すいません、まだ届いてないです


瞳月:


「まだ来てないの?」


〇〇:はい


「じゃあ隣の人に見せてもらって」


〇〇:すいません、ありがとうございます



初めて自分から、彼女の方へ席をくっつける。


瞳月:っ


〇〇:



「じゃあ前回の復習からえー……




瞳月:

〇〇:

瞳月:なぁ

〇〇:ん

瞳月:その……ありがと

〇〇:ううん、毎回見せてもらったから、全然平気

瞳月:あと、ごめんなさい

〇〇:

瞳月:友達嫌とか言って

〇〇:こっちこそごめん、いきなり、変なこと言って

瞳月:

〇〇:

瞳月:友達が、嫌とかじゃない

〇〇:うん

瞳月:あの


「はいじゃあここ解いてー」


〇〇:

瞳月:

〇〇:授業中だし

瞳月:今日一緒に帰らへん

〇〇:えっ僕と

瞳月:ん

〇〇:いいの僕とで



瞳月:●●がいい


〇〇:

瞳月:


「はい後1分」


〇〇:あ

瞳月:ここ、わからんから手伝って

〇〇:うん笑






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放課後、みんながいなくなるまで2人で喋って、2人で教室の鍵を閉めた。

慣れない廊下を、慣れない人と並んで歩く。


周りの視線も様々。

ヒソヒソ喋ってたり見て見ぬふりしたり、山下さん女の子には揶揄われてたり。


〇〇:さっきから友達ばっかり、すごいね

瞳月:いや、周りがしーのこと好きって、言ってくれて、それで

〇〇:そっか、山下さん優しいもんね

瞳月:っ


鍵を返して外へ出ると、色んな部活が活動してる。


瞳月:部活入らんの

〇〇:まぁ、特にやりたいこともないし

瞳月:そうなんや

〇〇:なんか部活入ってるの?

瞳月:うん一応

〇〇:何部?

瞳月:ダンス

〇〇:え、山下さん踊れるの!?

瞳月:ダンス部やし、まぁちょっとは

〇〇:意外

瞳月:バカにしてるやろ

〇〇:してないしてない!本当に!全然想像つかないから

瞳月:いや今の言い方は完全に笑

〇〇:いい意味で!めちゃくちゃいいギャップだから!

瞳月:いい意味でってつければいいってことちゃうから笑

〇〇:違うって!ほんとにかっこいいなって思ったの!まじで!

瞳月:もうわかったから笑


口元を隠してケラケラ笑ってくれる。

地味に初めて見た、山下さんが笑ってるの。


〇〇:

瞳月:ふふ……

〇〇:えっ?

瞳月:そ、そんな見んでも

〇〇:あっ、ご、ごめんっ

瞳月:別にええんやけど

〇〇:いや

瞳月:


〇〇:その、笑ってるの嬉しくて


瞳月:

〇〇:あんまり普段笑ってないし、楽しくないのかなって

瞳月:そんなことない

〇〇:ほんと?

瞳月:うん、嘘ついてない

〇〇:

瞳月:疑ってる


〇〇:疑ってるとかじゃないけど


〇〇:いや、なんとなくだけど基本喋ってないし、無愛想であんまり目が合わない気がして

瞳月:

〇〇:やっぱり、そんなに

瞳月:違う





瞳月:その、緊張して喋れんし、見れへんだけ



〇〇:緊張




瞳月:他とは違う、なんか、別の意味の、もっと色んな、しーの気持ちとか願望とか、が入ってるから緊張、する



〇〇:


瞳月:他の女の子とは仲良くしてほしくないとか、変に思われたらどうしようとか、しーのこと嫌いになってないかなとか、そういう意味



〇〇:



瞳月:初めて見た時から、ずっと、ずっと




瞳月:しーは●●と付き合いたいって、思ってた



〇〇:僕と


瞳月:




初めて視線が交錯した彼女の真っ直ぐな瞳。


今まででいちばん、綺麗で澄んでいる。


途端に溢れそうになる本当の感情。




緊張。

疑問。

納得。

安堵。


嬉しさ。







それを見た時に初めて、

自分の真っ直ぐな想いを伝えられる気がする。