ちゃしぶ
2026-02-26 05:34:17
2500文字
Public
 

チンレンジエ!

趙イチ企画、お題『バレンタイン』、既にお付き合いのある二人の中国式バレンタイン。趙さん視点。
当日は参加が難しいので事前に失礼します!


 「チンレンジエおめでとう~!」
 「チンレンジエ? なんだ?」

 春日君の家へ押しかけた俺の突然の言葉に、本人はきょとんとしている。

 「はい、これどうぞ」
 「え? ええ? うわ、なんだ一体」

 俺がバラ一輪を差し出して、更に困惑している。無理もない。俺は春日君の手にバラを押し付けると、本題のプレゼントの箱を更に持ち上げて見せにっこり笑う。ケーキ箱を見て春日君はピンと来たようだ。

 「あ! バレンタインデーか!」
 「そうだよ~。中国ではバレンタインデーって花をプレゼントする日なんだよね。他も勿論プレゼントしたりするけど。そんでもって義理はなし。本命にだけ。俺の本命の春日君にだけあげちゃう♡」
 「はー……一体何かと思ったぜ」
 「何だと思ったの?」
 「え? そりゃあ………

 バラの花を見ていた春日君がちょっと赤くなり目を泳がせる。しかしその先は教えてくれず、俺は家の奥へと通された。ソファセットの前まで来ると、春日君は丁度置いてあったコップを取り水道から水を入れる。そのコップへバラを挿し、俺へ見せてくれた。何故か春日君が得意げだ。

 「今日からこのコップが花瓶だ! ありがとな、趙!」
 「こちらこそ、貰ってくれてありがとね。それとこっちは俺のお手製パウンドケーキ。ちょっとこんがりしちゃったけど、持ってきちゃった」

 ケーキ箱を渡すと春日君が早速箱を開ける。中にはオレンジの輪切りが上に乗せられた、チョコレート味のパウンドケーキが入っている。白状した通り、慣れない菓子作りにちょっと火加減を間違えた。それでも愛情はたっぷり入っている。ちょっとだけこんがり端が焦げてしまったパウンドケーキも、焦げた所は避けて食べて貰おう。俺はケーキ箱を春日君から預かり、切り分けるための包丁と皿、フォークを春日君から受け取る。

 「じゃあ切り分けちゃうね。春日君、多めに食べたい?」
 「おう勿論! 趙の作ったケーキなんて美味いに決まってるだろ!」
 「こんがりしちゃったって、俺言ったよね?」
 「それでも美味いに決まってる」

 こんな時ばかりは恋人のこんな言葉に俺はきゅんとしてしまう。感慨に耽りながらも手を洗い、ソファセットに座るとケーキを切り分け――焦げた端はきちんと避けた――皿に乗せる。チョコ味の少し重たいケーキなので、さっぱり口を洗ってくれる紅茶か中国茶が欲しい所だが、何かあるだろうか。俺は隣に座ってわくわくと手元のケーキを見詰めている春日君に尋ねた。

 「春日君、お茶とかってある? ケーキと一緒に飲めたら最高だなと思うんだけど……
 「あるぜ。前に趙が持って来てくれたてっかんのん? とか言うお茶」
 「あ~! まだ茶葉残ってたんだ! いいね、それ淹れよう」 
 「じゃあ俺が淹れて来る。ちょっと待っててくれ」
 「ありがと♡ 春日君」
 
 どうしても俺の語尾は甘くなる。無理もない。恋人と迎える初めての 情人節チンレンジエ なのだ。再び立ち上がった春日君は戸棚を漁り、俺が以前に持ち込んだ鉄観音茶の缶を出した。恐らくはダメにはなっていない筈だ。管理が少々不安なところだけれど、飲める味だろう。春日君はお湯をやかんに沸かし、その間に茶葉を急須に入れる。ティーカップは無いので湯呑とマグカップで代用だ。
 俺はケーキの皿とフォークをお互いの手前へ置き、春日君が鉄観音茶を互いの前に置いた。俺達が息ぴったりな事に一人満足してしまう。目を細めると春日君も何やらあたたかな表情をしていた。

 「どしたの、春日君。もしかして俺と同じ事考えてた?」
 「ん? どした? いや俺は、なんかこうして、二人で揃ってお茶の用意してるのもいいなあってな」
 「お揃いじゃ~ん♡」
 「え? 趙もそう思ってたのか?」

 びっくりした顔で春日君が驚くから、俺は嬉しくなって隣の春日君へ肩をぶつける。そのままでかい猫みたいに春日君に懐いて頭同士を擦り付ける。セットが崩れるのもお構いなしだ。こんな嬉しいことは無い。春日君は最初こそ驚いていたが、俺の様子に笑いながら両腕を伸ばしてワシワシと頭を撫でてくれる。その手が春日君を表すみたいで温かくて、俺は無性に泣きたくなる。隣の春日君へ寄りかかりながら、腰に腕を回してぎゅうぎゅう抱き締める。誤魔化す様にケーキを促した。

 「さあ食べて食べて、春日君。俺お手製のケーキ召し上がれ♡」
 「いちいち語尾が甘いぞ、でも有難うな! 美味そうだ」

 お互い座り直しから、春日君が早速満面の笑みでケーキにフォークを入れる。俺は春日君の淹れてくれた鉄観音茶を啜った。茶は毎日飲んでいる。俺が味見をしてもし味が落ちているなら新しい茶葉を持って来よう。
  
 「これうめえ!! 焦げたなんて言ってたけど、香ばしくてチョコの香りが際立ってる!! オレンジも合っててすげえ美味いぜ!!」

 春日君が一口ケーキを食べて興奮気味に叫んでいる。嬉しくて俺は満面の笑みだ。なかなか美味い鉄観音茶に舌鼓を打ちながら、俺も皿を取りフォークでケーキを一口分切り分ける。

 「ほんとォ? なら嬉しいな、春日君のお口に合ってなによりだよ~。………ん、まあまあかな。でもやっぱりもうちょっと時間ちゃんとみてたらな~」

 口に頬張るとわかる若干の焦げた匂い。それを春日君は好意的に「香ばしい」と表現してくれたけれど、俺としては不満が残る。次こそは満足いく出来にしたい。眉を下げた俺に春日君はニコニコと満開の笑顔で、フォークで刺したケーキを口元に運ぶ。そしてその満開の笑顔で俺に尋ねる。

 「でも、愛情たっぷりだろ?」
 「うん♡ もう春日君てば~♡」

 俺はこの一言に、それはもうメロメロに参ってしまった。口元に差し出されたケーキに食いつく。

 「甘いあまいこのケーキに、負けないくらいの愛情を込めたよ♡ 春日君♡」
 「勿論わかってる、しっかり受け止めたぜ趙!」

 甘く熱く見詰め合う俺達は、お互いにケーキをフォークで差し出したのだった。