Hnyanko
2026-02-25 20:16:42
4818文字
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なんかいいかんじの悠アキ

キスマつけすぎておこられる🏹と服を選ばざるを得ない🧡

朝。
アキラは鏡の前でシャツのボタンを留めながら、首元の空き具合を確認して——固まった。

……

首筋。鎖骨。喉仏の横。
赤いの、紫っぽいの、薄いの、濃いの。
数がもう、言い訳の余地を許さないレベルである。

アキラは無言でいつものシャツを脱ぎ、タートルネックを引っ張り出した。
黒。厚め。絶対に肌を見せないやつ。

そのとき背後から、欠伸混じりの声が落ちる。

「おはよー、アキラくん。なに、急に冬?」

「冬じゃない」

アキラは淡々と首元を整えながら言った。

「“君の成果物”を隠してるだけ」

「あ、見た?昨日の」

「見たよ。今」

声が静かすぎて、逆に危ない。
悠真は、アキラの肩越しに鏡を覗き込んで、ふっと笑った。

「え、だってさ。かわいかったし、すっごくきれいに付けれてると思わない?」

アキラはゆっくり振り返る。
目が笑ってない。

……あのね、悠真、やっていいことと悪いことがあるだろう?」

「えー……?」

悠真は悪びれない。むしろ“何が問題?”の顔。
朝の光の中で、金色の瞳が無邪気にきらきらしてる。

アキラは一歩近づいて、悠真のチョーカーの金具を、指で“カチ”と鳴らした。
怒ってるときの癖。音が静かなほど怖い。

「僕、今日外に出るんだけど?」

「うん」

「人に会う用事があるんだ」

「うんうん、会ったらいいと思うよ。そこまで束縛するほど狭量なつもりはないし」

……この首で?」

悠真は鏡の中のアキラを見て、まるで作品鑑賞みたいに頷いた。

「うん。いい感じ」

アキラは深呼吸をひとつ。
そして、はっきり言った。

「よくない」

その一言が、空気の温度を変える。

「見えるところに付けないでくれ。……はぁ。次やったら、君の“好きなやつ”全部禁止」

悠真が瞬きをする。

「好きなやつ?」

「僕に触るの禁止。抱きつくの禁止。首に近づくの禁止」

「え、まってそれ罰重くない?」

「重くしたんだよ。悠真が自制を覚えてくれれば必要ないんだけどね」

悠真は一拍、噛み締めるみたいに黙って——次の瞬間、けろっと肩をすくめた。

「じゃあさ」

「なに」

「見えないところに付ければいいんでしょ?」

アキラは目を細めた。

……開き直るな」

「開き直ってないよ。改善案」

「改善案の顔じゃない」

悠真はニヤっとする。
反省ゼロ、むしろ次の一手を考えてる顔。

アキラはその表情が心底むかつくのに、同時に“いつもの悠真”すぎて、呆れが先立つ。

「あと、数」

「数?」

「数も。多すぎ」

「え、だって止まんなかった」

「止めてくれ。自分のことだろう?理性の手綱をしっかり握ってくれるかい」

「ええ?アキラくんが止めてくれればいいでしょ?」

言った。
こいつ、言った。

アキラのこめかみがピク、と動いたのを見て、悠真は“やっちゃった”って顔を一瞬だけして、でもすぐ平常運転に戻る。

……ごめんって。怒んないで」

「怒ってる」

「うん、知ってる。かわいい」

アキラは真顔のまま、タートルの襟を指で引っ張って、首を完全封鎖した。

「今日からしばらくこれ。君のせいで」

「えー、似合うのに」

「褒めても許されない」

「じゃあさ」

悠真は一歩近づいて、アキラの目を覗き込む。
反省してる風の顔、だけど瞳の奥が全然折れてない。

「次から、付ける場所指定して?」

アキラは一瞬だけ黙って、言葉を選ぶみたいに息を吐く。

……指定する前に、そもそも付けるな」

「そこは無理」

即答。
清々しいほどの開き直り。

アキラはとうとう、額に手を当てた。

「ほんとに……君は……

「僕は?」

……ばか」

言い切ったのに、声が少しだけ柔らかくなってしまう。

悠真は嬉しそうに笑った。

「うん。ばかだから、またやる」

「やるな!」

「じゃあ、見えないところにする」

「“する”じゃない!しないという選択肢を持ってくれ!」

悠真が笑いながらアキラの腰に腕を回す。
アキラはその手首を掴んで、きっぱり引き剥がした。

「禁止。朝から抱きつくのも禁止」

「えー……

「えーじゃない」

それでも悠真は、まるで負けたと思ってない顔で、ゆるく目を細める。

「じゃ、夜まで我慢する」

アキラはタートルの襟元を押さえながら、じとっと睨んだ。

……夜も、反省してから」

「反省はするよ」

「ほんとに?」

「するする。口では」

「最低」

「褒めてくれてありがとう」

「褒めてない!」

――――


夜。
シャワー上がりの湯気がまだ部屋に薄く残っていて、照明がいつもより柔らかく見えた。

アキラはソファに座り、タオルで髪を拭きながら、向かいの悠真を見た。
悠真はベッドの端に腰掛けて、妙におとなしい。

昼間、あれだけ「またやる」みたいな顔をしていたくせに。
怒られた件を、ちゃんと“気にしている側”の沈黙。

アキラはため息をひとつ。

……悠真」

「ん?」

返事は軽いのに、目だけが真剣にこちらを向く。
その目が、アキラをまっすぐに見てしまうから、アキラの方が先に視線を落とした。

「昼の話、覚えてるかい?」

「うん。めちゃくちゃ覚えてる」

「“めちゃくちゃ”って言うと怪しいな」

「ほんとだよ。アキラくんが怒ってるとこ、好きだもん」

……今、怒るよ」

「ごめん、冗談。半分」

半分は本音。
悠真は笑って、でもすぐ真面目な顔に戻った。

……ちゃんとする。今日は」

“今日は”が引っかかる。
それでもアキラは、言葉を飲み込んで、髪を拭く手を止めた。

「ちゃんとするなら、約束」

「うん」

「見えるところは、だめ」

「うん」

「多すぎても、だめ」

……うん」

素直すぎる返事が、逆に心を揺らす。
アキラは小さく眉を寄せた。

……何その顔」

「え?」

悠真はきょとんとして、次に少し照れたみたいに笑う。

「アキラくんが、僕に“だめ”って言うの、ちゃんと僕のこと見てる感じがするから……嬉しい」

アキラは一瞬だけ言葉に詰まった。
そういうところだ。
悠真は、飄々としてるのに、急に胸の奥を掴みにくる。

……見てるよ。いつだって」

ぽろっと落ちた声が、自分でも意外に優しくて、アキラは咳払いで誤魔化した。

「で」

話を戻すみたいに言う。

「君がどうしても“そういうの”をしたいなら——

悠真の瞳が、きらっとする。
犬みたいに、尻尾が見えそうな顔。

アキラは眉間に力を入れて、言い切った。

「僕が、場所を指定する」

……え」

悠真が固まった。
嬉しいのに、信じられない、みたいな顔。

「いいの?」

「“いいの?”じゃない。条件」

アキラは指を立てた。

「僕が言ったところだけ。僕が“いい”って言ったときだけ」

悠真は頷く。
驚くほど素直に。

「うん。わかった」

その返事が、あまりに従順で、アキラは逆に落ち着かなくなる。

……本当に分かってる?」

「うん。今日は優等生」

「今日は、って言った」

「ばれた?」

アキラは眉を吊り上げる。
悠真は慌てて手を上げた。

「今のは、言葉のあや!ほんとに従う。アキラくんが言うなら」

そう言って、悠真はベッドから降りてアキラの前に跪くみたいに座った。
真剣な表情で、まるで誓いでも立てるみたいに。

その姿が、ずるい。
アキラの胸が、少しだけ熱くなる。

……じゃあ、こっち来て」

悠真が近づく。
アキラはタートルを脱いでいた。昼の“防御”は夜には要らない。
でも、首元に指が触れそうになって、アキラは反射的に悠真の手首を掴んだ。

「そこは、だめ」

悠真は“はい”って言う代わりに、嬉しそうに目を細めた。

……うん」

そのまま手首を引いて、アキラは悠真の指先を自分の胸元へ導く。
布越しに鼓動が伝わる場所。
それでも見えない、隠せる位置。

「ここ」

悠真が息をのんだ。
驚いたみたいに、でもすぐ、丁寧に頷く。

……ここ、いいの?」

「うん。ここなら」

……わかった」

その一言が、やけに大事そうに聞こえて、アキラは目を伏せた。

悠真は、触れていい場所を確かめるみたいに、まず指先でそっと撫でた。
許可をもらった子どもみたいに、慎重で、嬉しそうで、愛おしい。

……アキラくん」

「なに」

「すごく……好き」

アキラは何も言えず、代わりに悠真の髪を掻き混ぜる。
その仕草だけで、“黙ってろ”と“嬉しい”が両方混ざる。

悠真は笑って、言われた場所にだけ、ゆっくりキスを落とした。
ひとつ。
もうひとつ。

ちゃんと数を数えてるみたいな丁寧さで。

アキラの肩から力が抜けていく。
昼間の苛立ちが、溶けていく。

……偉いね」

ぽろっと言ったら、悠真はぱっと顔を上げた。
褒められた犬みたいに、分かりやすく嬉しそうで。

「もっと褒めて」

「調子に乗るな」

「乗らない。乗らないから……!従う!」

アキラは笑いそうになって、口元を押さえた。

……じゃあ、次。ぁっ、ここは、だめ。んんぅ、そこも、だめ」

悠真は頷くたび、嬉しそうに目を細める。
“だめ”が増えるほど、愛されてると思ってる顔だ。

「わかった。全部、アキラくんが決めて」

アキラは小さく息を吐く。

……本当に、素直だね、今日」

「今日は」

「また言った」

「ごめん」

言いながら、悠真はアキラの膝に額を預けた。
許可を待つ子みたいに、じっと。

アキラはその頭を撫でて、ゆっくり頷いた。

……じゃあ、最後にひとつだけ」

悠真が顔を上げる。
期待と緊張が混ざった目。

アキラは少し迷ってから、指先で自分の喉元を示した。

「ここ」

悠真が、息を止めた。

……え、ほんとに?」

「ひとつだけ。薄く。見えないくらい」

悠真の返事は早かった。
“うん”が、嬉しさで震えてる。

……大事にする」

その言葉が、やけに甘くて、アキラは目を閉じた。

悠真は言われたとおり、そっと、ひとつだけ。
喉元に口づける。

——はずだった。

アキラが目を開けたとき、悠真の唇は、喉元から少しずれていた。
ほんの少しだけ、鎖骨寄り。
そして、そのまま、もう一度。

……悠真?」

「ん?」

声が、けろっとしている。
悪びれない。

アキラはゆっくり悠真の肩を押して距離を取った。
喉元を手で押さえる。

「ひとつって言ったよね?」

悠真は瞬きをして、それから、笑った。

「うん。ひとつって思ってた」

「“思ってた”?」

「だってさ」

悠真は、まるで正当化するみたいに言う。

「アキラくんが“ここ”って言ったから、ここ一帯が許可範囲かなって」

アキラの目が細くなる。

「範囲、広げるな」

「ごめん。つい」

「つい、じゃない」

「でも」

悠真は悪い顔で、でもどこか幸せそうに笑う。

「アキラくんが指定してくれたから、今日はちゃんと我慢できたよ。……これでも」

アキラは、怒るべきなのに。
その言い方が、嬉しすぎて。
結局、息を吐いて、悠真の頬を軽くつねった。

……明日、また増えてたら、ほんとに禁止」

「うん」

「うん、じゃない。分かってる?」

「分かってるよ」

悠真は素直に頷いて、最後にさらっと言った。

「だから、明日もタートル着せる」

……君が着ろ」

「僕は着ない。見せたいから」

アキラは頭を抱えた。
そして、やっぱり笑ってしまった。

首元が熱い。
たぶん、今日も増える。