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木綿子
2026-02-25 20:11:35
1645文字
Public
👹(義炭)
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猫語講習会
先日猫の日だったので。輪廻転生の二人です。
「今日は猫の日です! 猫の日なので、猫になりましょう!」
力強く宣言した炭治郎に、義勇は「なぜ」と問いもせず、青い瞳をぱちりぱちりとゆっくり瞬かせた。
「猫になる?」
「そうです! 猫になるんです!」
「
……
んにゃ」
理解が早い義勇の返事に、炭治郎は「なあん」と笑った。
他愛のない遊びだ。「明日は猫の日だよ」と禰豆子から来たメッセージで、なんとなく思いついただけだ。ちなみに、禰豆子によると実家では、猫の日にちなんでランチのデザートにふわふわ肉球マシュマロが付くらしい。メッセージに添えられた画像には、白地に桃色の肉球が象られた愛らしいマシュマロが写っていた。
「にゃあ」
「んにゃ」
猫の真似事をする義勇の声は、いつもの調子だ。いつも通りひんやり落ち着いているが、ちゃんと猫らしくしてくれている。だいぶ本気の猫真似だ。となれば、炭治郎も本気の猫真似で返さなければ失礼である。できうる限り本物っぽく「にゃあん」と鳴いた。
「ん」
短い返事と共に、抱き寄せられる。いつもと同じ、足の間に。考えてみれば、こうしてすっぽり座って収まるのも猫っぽい。義勇の猫になれた気がして、なにやらとても気分がよくなった。
「なうなう」
「んにゃ」
暖かい炬燵布団を膝にかけてもらう。暖房もあるとは言え、二月である。床の近くはそれなりに冷える。一緒に重なり合って炬燵に入ればちょうどいい。
「んなん」
「んにゃ」
ついでに蜜柑も剥いてもらう。炭治郎を懐に抱える義勇の手が、炭治郎の目の前で橙色の皮がすんなりきれいに剥かれていく。炭治郎はそれをただただ眺めるばかりだ。
「んんなぁ」
「んにゃ」
仰のくように見上げると、青い瞳が緩やかに笑う。唇に触れた果実を噛めば、甘い果汁が口の中に広がった。
「おかしくないですか」
「なんだ、もう終わりか」
もぐもぐ、蜜柑を食べながら炭治郎は首を傾げた。
猫真似しかしていないのに、内心で要求してみたことがすべて間違いなく叶えられてしまい、解せぬのである。猫の日で、猫なのだから、ちょっとだけ子供のころのように甘えてみてもいいかな、などと軽々しく考えた結果の行動ではあるものの、子供のころも手ずから蜜柑を食べさせてもらったことなど一度もない。
「おれ、猫っぽく鳴いてただけですよ? なんで蜜柑まで」
「まあ、意外とわかる。猫語は昔、履修した」
「それどこで受けられる講義ですか」
確実に冗談だとわかっているから笑いながら聞いてみれば、義勇もまた微笑んで頭を撫でてくれた。額から、後頭部へ。ゆるゆるさらさら、毛髪の流れに沿って。まるっきり猫の対応だ。炭治郎が本物の猫だったら、確実に喉が鳴っているだろう。撫でるのが上手いのは、昔も今も変わりがない。
「義勇さんも、ちょっと何かおれに頼んでみてください。意外とわかるもの、なんですよね?」
「ん、そうだな
……
」
数秒の間があった。一体どんな鳴き声が来るのかとわくわくしながら待つ炭治郎の耳元に、するりと長い黒髪が流れて落ちる。耳の後ろに鼻先が当たり、温かな吐息がやわい皮膚の上を撫でていく。
「んなぁう」
その声を聞いた途端、背骨が震えた。ぞわりとした。
猫だ。猫の真似だ。すごく猫っぽい。よく見かける、飼い猫の動画で聞くような、愛されている猫のやわらかいトーンとよく似ている。
けれど。
耳の近く、皮膚が触れ合っているせいで、骨まで響く。鼓膜の奥まで義勇の鳴き声で撫で上げられる。頭と同じく、毛並みに沿って、頭蓋の奥まで。
こんなもの、「意外とわかる」どころではない。
炭治郎は身を縮こませ、ゆっくりと振り返った。するする、髪と肌とが触れ合い、微かに乾いた音を立てる。
今はまだ。
本物の猫と同じように触れ合わせた鼻の先、ひたりと合わさる視線の青が、ぱちりぱちりとゆっくり瞬く。
「
……
ぅにゃ」
答える炭治郎の鳴き声は、猫語習得者の吐息の向こうへやさしく啄まれては消えていった。
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