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ぬす
2026-02-25 17:44:03
5666文字
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まるで鈍器のような
ジェパ夢。服がダサい話。
夢のような恋をしている。
シルバーメインの戍衛官、ジェパード・ランドゥー。
彼が私の恋人だなんて。
出会いは偶然で、セーバルさんの工房を訪れた時だった。
彼の職務上頻繁に出会うことはなかったが、顔を合わせる度に話すうちに親しくなって、交際を申し込まれたのが二ヶ月前。
そして先月はじめてのデートをして、彼のいろんな側面を知った。
珍しいほどに生真面目な人で、まさに鉄壁、生きた砦のよう。
かと思えば植物を育てるのがあまり得意ではないだとか、可愛らしいところもあって。
命を賭けてベロブルグを護るとても立派な人なのに、私のようなか弱い市民にも偉ぶることなく話しかけてくれて。
セーバルさんは彼を頑固だと言っていたけど、そんなところも魅力的だ。
どう考えても私には勿体無い、とても素敵な人とお付き合いさせてもらっている。
そして今日はそんな彼との二回目のデートの日だった。
セーバルさんに彼の好みを聞いて、買い物にまで付き合ってもらって選んだ服を着て、鏡を確認する。
白と水色を基調にした清楚なAラインのワンピース。
細やかな刺繍が施されていて、膝丈のスカートが上品で可愛らしいものだ。
化粧が悪目立ちしないようにリップやアイシャドウの色も少し控えめなものにして、髪もゆるやかに巻いて。
彼を好みを取り入れた、可憐な私になれたのではないだろうか。
可愛いと言ってくれたら、なんて淡い期待を抱きながら、高すぎないヒールを履いて玄関の扉を開く。
待ち合わせの時間より少し早くに着くように、時間に余裕を持って外へ出た。
――
別れようかな。
待ち合わせ時間の十五分前。
既に彼はそこでじっと立っていて、待たせてしまったかななんて少し申し訳なくなったのも束の間。
信じられないファッションセンスの彼に、そんなことを考えてしまった。
「お、お待たせしてしまってごめんなさい」
「僕も今来たところだ」
私を視界に入れて、彼が嬉しそうに微笑む。
そんな姿はとても愛しくて、ああ私は本当に幸せ者なのだと実感するのだけれど、その首から下がとても現実とは思いたくない姿をしていた。
「
……
前のデートの時と雰囲気が違いますね」
「ああ、あの時ははじめてのデートならと張り切る部下達がいたんだ。
彼らの話を聞いて、それに相応しい服装を選んだ」
上官として慕われているようで何よりだ。
彼の職場での人間性が垣間見えて、やはり立派な人なのだと感心する。
それはそれとして、私はこの服装の人と今日一日過ごすのだろうか。
百歩譲って、彼と二人きりなら構わない。それも彼の個性だろうと、納得したっていい。
だけど、さすがに人の注目を集めすぎている。
あのジェパード・ランドゥーが、こんな意味不明な姿で、街中を歩いているなんて。
「今日は自分で選んでみたんだが、どうだろうか」
聞かないでほしい。
だけど、彼は彼の考えをもってその服を選んできたはずだ。
それなのに、ダサいと一言で切り捨てるわけにもいかない。
でも、だけど
……
と思考がぐるぐると回転する。
指摘するべきだろうか、それとも心に嘘をついてでも彼を褒めるべきだろうか。
悩みに悩んで、一つ提案をしてみる。
「せっかくおしゃれして来てもらったのにごめんなさい。
こんなことを言うのも心苦しいんですけど」
「
……
デートに相応しい服装ではなかっただろうか」
「その、ジェパードさんはベロブルグでは名の知れた方ですから。
恋人とはいえ、隣を歩くのには勇気がいるのです」
「堂々としていればいい。
君は僕が選んだ女性なのだから」
「そういうことではなくて!
……
ええと、もう少し目立たない格好の方が私達も気楽にデートできると思うんです」
「なるほど。
……
確かに、それは一理あるかもしれない」
お忍びファッション、というものだ。
彼には悪いが、その服は着替えてもらおう。
申し訳なさから購入する服は全額こちらで持つことを提案したが、それは却下されてしまった。
立場を考えていなかった僕の落ち度だ、なんて頑なな態度で。
「今日はお買い物デート、ですね」
「そうだな」
普段は入ることのないメンズファッションの店を探し出して足を踏み入れる。
彼には何が似合うだろう。白は間違いない。だが、普段通りすぎる。
思い切って黒を選んでみるのも悪くはない。
似合いそうな服を何着か見繕っていると、彼が「これはどうだろうか」とジャケットを持ってくる。
「
……
少し目立ちますね」
「そうか
……
」
それもまた滅多にお目にかかれない不思議なセンスのもので。
その後も何着か彼が服を持ってきたが、どれも彼が着るとは思えない色をしたものだった。
その色がお好きなんですか?と聞けば、何故か恥ずかしそうに頬を染めて顔を背ける。
その意味はわからないが、彼の性格からして理由なく引き下がることはないだろう。
「インナーに着て、差し色にしましょう。
だったら目立ちませんから、街中でもゆっくりデートできますよ」
ぱあっと明るくなる彼の顔が眩しい。
少し私の好みも込めて、目立ちすぎないデート服を着てもらう。
彼には珍しい暗めの色をベースに、少しカジュアルに見える服装を選んで、あとは申し訳程度に顔の印象を変える伊達眼鏡なんてかけてもらって、完成だ。
これなら、街中に溶け込むのは難しくとも悪目立ちはしないのではないだろうか。
我ながらいい仕事をした。いや、彼には申し訳ないのだけれど。
「ふふ。派手ではなくなりましたけど、かっこいいです。ジェパードさん」
「感謝する。次は君の番だな」
「えっ私?私も目立ちますか?」
「目立つというよりは
……
」
じっと考え込んで、私から目を逸らす。
何だろう。セーバルさんに聞いて彼の好みを取り入れたはずだったが、違ったのだろうか。
「
……
こういった服装は、好みではありませんか?」
普段通りの服装の方が良かったのだろうか。
いつもはこういった服を選ばないから、彼の思い描く私ではなかったのかもしれない。
いや、セーバルさんに選んでもらったのだから大丈夫なはず。だけど。
「違う。そういうわけではない。僕はただ」
顔が赤い。そして、チラチラと足元を見ている。
ヒールが気に入らないのだろうか?いや、彼の方がずっと背が高い。
私が少し身長を盛ったところで気にすることはないだろう。
それなら、何が?
「
……
脚を、出し過ぎではないかと思って」
この人は何をいっているんだ?
もう一度言うが、今日のファッションは膝丈のワンピースだ。
大胆に太腿が出ているわけでもないし、ストッキングを履いているから生脚でもない。
それなのに、脚を出しすぎ?何を言っているんだ?
ぽかんとする私をよそに、また悩んで、そして真っ直ぐな目で私を見つめて彼は続ける。
「前回も気になっていた。君は肩を出していて
……
」
「ちょ、ちょっと待ってください。少しだけでしたよね?」
「ああ。だが、君が肌を露出していると僕は心配なんだ」
少し赤い顔で真剣にそう告げられて、ウブで可愛らしいなと思う私と面倒だなと思う私が争い、面倒な方に軍配が上がる。
ああしかし彼は私を大切にしてくれているのだろうなと思い直して、一度失った笑顔をもう一度取り戻す。
「そんな、心配するほどのことではありませんよ」
「だが君は僕の恋人で
……
大切な人だ。
家族と同じように君を想っている」
二回目のデートでそれはさすがに重い。
セーバルさんやリンクスちゃんと、ちょっとデートしただけの私を同列にしていいわけがない。
「家族だなんて
……
あ、ほら!
セーバルさんのファッションだって、肩を出していてもかっこいい部類に入るでしょう?」
「姉さんには姉さんの服装がある。
今は君の話だ」
「で、でも少し肩や脚を出したぐらいで
……
」
「他の男に妙な目で見られてほしくないんだ」
「えっと
……
」
どうしよう。
憧れの彼が私を想って、なんて夢のようなシチュエーションのはずだ。
だが程度が程度だ。さすがに度が過ぎている。
目を閉じて、頭を抱える。
この男、お堅いどころの騒ぎではない。
そういえば私が初めての彼女とか言っていた気がする。
姉妹がいるのだから女性への耐性がないわけではないだろう。
おそらくこれは、相当束縛が強い!
「脚が出ない服を買いに行こう。
これは僕の我儘だ。服代はこちらで出す」
「そこは気にしていなくて、あの」
正直、いくら彼が素敵な人でも納得がいかなかった。
これだけ想われているのに申し訳ない話だが、重いだとか面倒だとか、そういったマイナスな感情を抱いてしまう。
彼の独占欲が全く嬉しくないわけではないが、せめて頑張ったご褒美がほしい。
「これ、セーバルさんにお願いして、ジェパードさんの好みの服を選んでもらったんです」
「!
……
そう、だったのか」
「ジェパードさんに、可愛いって言ってもらいたくて」
「
……
気の利いた事も言えず、すまない」
重い沈黙が流れる。
そうじゃない。思い悩んでほしいわけではない。
褒め言葉がない事を責めたわけではない。
私はただ、あなたに可愛いと思われたくて努力したのだ。
私の姿を見て喜んでほしかったのだ!
「
……
やっぱり、だめですか?」
「
……
いや、すまなかった。
本当は、とてもよく似合っているとずっと思っていた」
また顔を赤くして、彼がぽつりとそう告げる。
ずっと欲しかったその言葉。
きっと彼の中で独占欲が邪魔をして口に出すことが難しかったのであろうその言葉を、大切に大切に胸にしまう。
「わかった。君はそのままの姿でいてほしい」
「いいのですか?」
「ああ。今君の隣にいるのはこの僕だ。
全ての邪な視線から君を守り抜いて見せると誓おう」
「
……
ありがとうございます」
誓いなんて、やっぱり私には少し重い。
だけど彼なりに考えて、あの頑固な彼がここまで譲歩してくれたのだから有り難く受け入れよう。
同時に、申し訳なさがふつふつと湧き上がる。
彼だって、私と同じように考えて服を選んできたはずなのにそれを壊滅的にダサいと思ってしまった。
聞こえの良い嘘で丸め込んで、せっかく選んだそれを塗り替えさせてしまった。
私は身勝手だ。自分の姿は受け入れてほしいと願うくせに、彼のありのままを受け入れなかった。
「ジェパードさん、ごめんなさい。
私の都合で着替えさせてしまって。
ジェパードさんだって、デートのことを考えてくれていたのに」
「構わない。立場上、僕が人の目を引くのは事実だ」
ずきん、と心が痛む。
そうではないのだ。
あなたの姿を馬鹿にしてしまった私がいたのだ。
「聞かせてください。
何を思ってあの服を選んで来てくれたんですか?」
よくわからない生地、謎の柄、奇妙な色合い。
きっと、彼なりに一生懸命このデートのために選んでくれたもの。
もしかしたら、特に意味なんてないのかもしれない。
だけど、知りたかった。彼の考えに触れたかった。
「
……
はじめてのデートの時、君が着ていた服や小物の色が気になった。
君はその色が好きなのだと思って
……
君の喜ぶ顔が見たくて、あの服を選んだんだ」
思い返してみれば、今日彼が着てきた服も今インナーに選んだものも、目立つからと却下したあのジャケットも全部同じ色だ。
前回のデートで、私が選んだ色。
彼とのデートに何を着ていけばいいのかわからず、自分の好きな色合いの、フェミニンな雰囲気のものを選んだ。
それがメンズ服に取り入れられた結果、彼が着るにはおかしなデザインのものになってしまったらしい。
「ふ
……
ふふ、うふふ!
ジェパードさんって、やっぱり可愛らしい方ですね」
「君がそれを言うのか?」
「ふふ、あはは
……
!
嬉しいです。そんなことを考えていてくれたなんて」
「
……
笑い過ぎだ」
ジェパードさんに私の色はどうしても似合わないらしい。
純白が似合う彼を染めることがないのだと思うと少し寂しくて、それでいて安心感があった。
だけど、誰よりも誠実な彼はこの先も私の色を選び続けてくれるのだろう。
また彼をおかしな姿にしてしまう。それは避けなければいけない。
「ジェパードさん、アクセサリーを買いに行きませんか」
「アクセサリー?」
「ええ、やっぱりその色は目立ってしまいますから。
同じ色の石がついたブローチなんてどうでしょう?」
一番の理由は彼のファッションセンスが暴走するのを防ぐため。
だけど、少し欲を込めてそんな提案をする。
嬉しかったのだ。
彼が私を想ってその色を選んでくれたことが。
メンズ用のアクセサリー店を検索して、並んだものを見比べて、彼の意見も取り入れてひとつのブローチを選ぶ。
あまり華美ではないが確かに存在感のある、銀色のそれを箱に詰めてもらって彼に手渡す。
罪悪感と独占欲を「プレゼント」なんて言葉で隠して。
「大切にする。
これからは肌身離さず身につけておく」
「デートの時だけにしませんか?
危険なお仕事ですから、怪我の原因になっちゃうかもしれません」
「問題ない。僕が身につけていたいんだ」
引き下がらないのが彼らしい、なんて思わず笑みを溢してしまう。
高潔で、実直な彼。このベロブルグを守る、尊敬すべき偉大な人。
だけど少し手のかかるところもあって、それがなんだか可愛らしくて。
悪いことも考えてしまったけど、私はやはり彼が好きなのだと思わされる。
「次は、僕から君へ贈り物がしたい。
ついてきてもらえるだろうか」
「はい、もちろん!」
この後ジュエリーブランドに向かった彼は子供っぽすぎるハート型のネックレスを買おうとしたし、次のデートではやはり独創的なファッションの上からブローチをつけてきたのだけれど。
――
それはまた、別のお話。
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