長月ユウ
2026-02-25 12:34:57
1184文字
Public 庶莉
 

【庶莉+石韜】お互いさま 後日談

「お互いさま」から数日後の話。ほとんど石韜の回想。莉杏は出てきません。

……で、どうだったんだよ? この前の散策は」
……む?」
石韜が問うと、点心を頬張っていた徐庶は茶をあおり、口の中の物を胃に流し込んだ。
「ええと……普通に会話して、こんなふうに点心を食べたくらいだよ」
惚気の一つも飛んでくるかと思ったが、あまりにも普通な答えに、石韜は肩透かしを食らった。
「あー……そうかい、初々しいねぇ」
「俺も莉杏も緊張していたから、君が期待するようなことはしなかったよ」
しても言わないけど。
苦笑しつつも楽しそうな友の顔を見て、石韜はハハッと笑った。
だが、その明るい表情の裏で、石韜はふと徐庶が西涼から莉杏を連れて戻ってきた時のことを思い出す。

事あるごとに未練たらしく莉杏の話を聞かされていた石韜を含め、誰もが「これが、今まで燻っていた徐庶を突き動かすほどの女なのか」と疑うほどに、当時の莉杏は退廃的な雰囲気をまとっていたのだ。
馬一族の男に囲われていたという話は徐庶から少し聞いた程度だが、一般的に言うような寵愛は受けていなかったのだろう。目には光がなく、常に不安げな表情を浮かべ、声も弱々しかったのを覚えている。

「初めて莉杏を見た時は、元直の趣味を少し疑ったくらいだが……今じゃ、だいぶ変わったもんな。お前が宣言通り、面倒を見たおかげかね」
「俺だけじゃない。元化殿や皆のおかげもあるよ」

療養生活を経て戻ってきた莉杏は、徐庶曰く当時より大人しくなったが、武芸の腕や芯の強さは変わっていないらしい。
表情も豊かになり、口数も増え、徐庶以外の曹操軍の将や軍師たちともあまり物怖じせずに会話している場面も目にするようになった。

「身体はともかく……壊れた心は、完全に元に戻ることはありませんよ」
馬一族掃討後に、今までの心労がたたって彼女が倒れた際、診察した元化がこう断言した。腕の立つ医者である彼が言う通り、今の莉杏は、徐庶がとても眩しく見えると言っていた西涼の莉杏ではないし、石韜がその姿を見ることも叶わないのだろう。
しかし、
「それでもいい。彼女をずっと見守りたい……俺にできることは、それくらいしかないのだから」と言い放った徐庶の表情は、今も石韜の脳裏に焼きついている。


「莉杏が今までどんな仕打ちを受けてたか知らねえが……あの娘を壊すようなことはするなよ、元任侠の旦那」
「ああ、当然だ」
あの時と同じ、揺るぎない意志のこもった瞳を向けてくる友を見て、石韜はニヤッと笑って席を立ち、

「じゃ、大した惚気話も聞けなかったから、今日はお前の奢りな。ご馳走さん」

「石韜殿!?」
徐庶の肩にポンと手を置いた。
「どうせ食ってる量はお前の方が多いだろう? それに比べりゃ俺の分なんて誤差だ、誤差。次は奢ってやるからさ」
戸惑いながら財布の中身を確認している友を背に、石韜は店の出口に向かった。

end.