葵月
2026-02-25 00:25:35
2576文字
Public
 

寂しさの置き場【王最】


※同棲 ※平和

私の今見たいものを詰め込んだ作品。
・ワイヤレスイヤホンで的確遠隔指示だす総統が見たい
・寂しさをぶつけるために「好き」を使って意地悪して満足そうな最原くんが見たい
・普段言わないのにいきなり好きとか言ってくるから普通に動揺しちゃった王馬くんが見たい


「えーっ、それならさー……

リビングの上に広げられたよく分からない言語の紙。
椅子の上であぐらをかいて、大道芸のように小さな指先で踊るペン。
……ペンと同じくらい、よく回る口。

その口が発する音は、同じ家にいる僕に投げられているわけではない。

……そうそう。さっきの報告からして、反対側も同じことになってると思う。これまでの情報まとめて送るから、一旦そこで待機ね」

「はーい。あ、やっぱり? そしたら作戦変更。合流地点中央から南東に変更ね。
多分右手に隠し通路あると思うからー……
あった? そしたら入って。え、何があるかって?
そんなの現地入りしてないオレに分かるわけないじゃーん!

そうそう、入ってすぐの右側の扉。……を、開けると多分トラップあるから気を付けてね。……あーあ。
落とし穴から這い上がったらそのまま道なりに進んでねー」

……わかってて落としたんだ。王馬くんの部下の人たちって、毎日王馬くんに振り回されて大変そうだな。

「もしもーし、待機解除。他の班に南東集合って伝えたから、そのまま隠し通路で向かってくれる? さっきお前らが落ちた落とし穴にハマってるらしいから、5つ先の曲がり角で合流して」


ノートパソコンを叩きながら、スマホが机を揺らす度に瞬時に右耳に触れて代わる代わる話し出す。
スマホの画面は伏せられていて、あの速さで取ってしまえば誰からかかってきたかも分からないはずなのに、会話とタイミングで察して無駄なく指揮をとるこの姿は、きっと総統の姿なのだろう。

見た目は、いつもより多めに跳ねた髪と灰色のスウェットのままだけど。


『いやー! 最高の下調べ日和だね!』とリビングのカーテンを開け、曇天を見ながら話す王馬くんに『今日は何かあるの?』と尋ねたら、ぽかんとした顔しながら右耳をちょんちょんと指差された。

ワイヤレスイヤホンで話しているから、またあとでってことなんだと思う。
……あと、なんでこんな朝早くに起きてんの?って顔かな。


王馬くんは、基本的に家に仕事を持ち込まない。
どうしても理由があるときだけ持ち帰ってるみたいだけど、持ち帰った日はいつもより執拗に僕のことを抱く。
元々数少ない稀な日を昼過ぎまで眠らされてしまう僕がこの事実に気づいたのは最近になってからだった。今日だって意地だけで重い腰と瞼を無理やり上げて、リビングにあるソファまで出てきたんだ。


彼のまたあとでのジェスチャーからとっくに3時間が経っている。
……彼が僕のいるリビングに居座ったということは、僕が聞いても問題ない、聞いたところで手出しできないと判断されたんだと思うし。
濃いめに入れたコーヒーで遠くなる意識を誤魔化しながら、ソファの肘掛に背中を預け、聞こえてくる声に遠慮なく耳を傾けた。


普段僕に話しかけてくるより少し低く、夜のキミよりはトーンが高い、自然と耳に入ってくる芯のある声。

心がざわざわして落ち着かない。眠気覚ましには最適な声。

……昔、父親の舞台稽古を見に行った時もこんな気持ちになったな。


「はーい、合流したんでしょ。
そしたらそのまま……、ん? ねぇ、50年前の図面だとそこに隠し倉庫あんだけど、今どうなってる?
あー、なら無理やり埋め立てたんだろうね。
……いや、今日はいい。位置的にこれ崩したら新しく作られた道で身動き取れなくなる箇所が出てくるから、中を見るのは最後だね。
図面もできたし、今日はこのまま解散!」

……やっと終わった、のか?
ずっといつたどり着くか分からない船の上で待たされたんだ。意趣返しくらい許されるだろう。

「もしもーし、捜索班南裏から出すよ。2つ隣の空き家前でスタンバって、全員乗ったらそのまま休暇ね!」

……ん? 何、トラブル?」

「好き」


椅子の倒れる大きな音と背中にぶつかる衝撃、どちらが先だったかなんて、僕にはわからなかった。

僕の手から落ちたスマートフォンがまだ通話が切れていないことを教えてくれる。でもそんな些細なこと、今の王馬くんには見えていないようだった。


……ねぇ、もっかいちゃんと言って」

「何のこと」

「やだ、もっかい」

「僕何も言ってないよ」

「最原ちゃん」

……ああ、やっと目が合った。
いつもの声、僕だけにくれる言葉。

キミの顔に住んでる猫、今日は朝から家出してるんだね。

眉間に皺を寄せて、静かに見つめてくる瞳をそっと見返して。

「眠い、寝よう。どうせキミも寝てないんでしょ」

「ちがーーうっ!!
そもそも勝手に番号見るなんて、いくら同じ屋根の下に住んでるとは言えプライバシーの侵害だよ!!
あーぁ、最原ちゃんに踏みにじられた‎オレの繊細な心はボロボロだよ……この傷は最原ちゃんからの愛の言葉でしか癒せないよ」

「うるさいな……、このくらいでボロボロになるなら僕の心はどうなるんだよ」

「オレの心は最原ちゃんと違ってガラスのハートなんですぅー!」

「アクリル製なんだね」

「こいつ……

「うわっ! ちょっと!」

胸ぐらを掴まれたかと思えばそのまま視界が逆さを向き、目の前は灰色一色に染まる。

「普段はベロベロかデロデロの時にしか言ってくれないのにさー、ほんと性格悪ーい」

そのまま雑に放り投げられた先は3時間前まで一緒にいたベッド。
相変わらず眉間に皺を寄せたまま、頬をひきつらせ、据わった目で見つめられると、この後の展開が読めてしまう。

「一緒に寝たいんだよね」

「ちょっ……とまって!?」

「何」

……睡眠欲の方なんだけど」

「あ、やべ。昨日でローション使い切っちゃった。買い置きクローゼットの中だっけー?」

「話聞いてよ……

こちらに背を向けて探す姿に、そっと。



「好き」


……だからさぁ」


こちらに向けた顔には、家出中の猫がすっかり帰ってきたみたいで。
意地の悪い綺麗な笑顔を貼りつけて、これから吐き出すであろう言葉を、布団で塞ぐことにする。


「わかったわかった、今日は酷くされたい気分なんだね! 仕方ないからとことん付き合ってあげる」


おやすみ。大好きな人。
お土産はパピルスのブックカバーがいいな。