三毛田
2026-02-24 22:24:17
1073文字
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78 32. ピン留めされた感情

78日目
そのピンを外してくれる君

 外部に勝手に留められ、ただ一つの感情だけを抱くように。
 まるで洗脳するかのような言葉ばかりを、向けられる。
 そんな生活をしていたものだから、他の生命のように情緒など育っているわけもなく。
 氷の少女が楽しそうにはしゃぐ姿を、まぶしく思っていた。
 そして、宇宙ステーションで出会った彼も。
 のだが。
「うぇ~ん。たんこ~」
「お前はまた……
 パムに怒られたらしい穹が、俺に泣きついてくる。
 今日はいったい何をしたのだか。
「丹恒。オマエからも叱ってくれ! タルトタタン用に取り分けておいた林檎を、勝手に食ったのじゃ!」
「それはお前が悪い。林檎を買い直せ」
「ふぇ~ん」
 叱ると泣きつきながら俺の胸に顔を埋めてきて。頭を撫でてやると、顔を左右に動かす。
 何がいいのかわからないが、彼は時々こうして俺の胸に顔を埋めたがるのだ。
「うう……俺のたんたんぱい……
「意味が解らない」
 俺の胸に顔を埋めながら、ごそごそと背中の方で操作をしているのがわかる。
「今、注文しますた。すぐ届くと思います」
「オマエのせいでおやつが遅くなると、ちゃんと三月ちゃんたちに説明するんじゃぞ」
「はぁい」
 パムは未だぷりぷり怒りながら、キッチンへと帰っていく。
 彼が列車に乗ってから、毎日が騒がしい。
 それが嫌なのかと問われると、特に嫌というわけでもなく。
 ピン留めされていたものが、次々と外されていく感覚がして戸惑っている。そちらの方が近い。
「真っ赤でツヤツヤな林檎って、そのままかじりたくなるだろ?」
「せめて、パムに許可を摂ってからやった方がよかったな」
「うん。俺もそう思った」
 こちらもこちらで、未だに胸から顔を離さず。
「あうあう」
 無理矢理引きはがして襟を掴んで持ち上げると、泣き真似。
「次は、朝の鍛錬に無理やり付き合わせるからな」
「はぁい」
 言質を取ったので、林檎が届いてからパムに届けた後も手伝う。
「うう……丹恒の切ったものよりガタガタだ」
「それは慣れじゃな。丹恒。砂糖を取って欲しいのじゃ」
「レモン汁は必要か?」
「うむ。用意しておいてくれ」
「ああ」
 砂糖とレモン汁を用意し、残りの林檎も切っては鍋に入れていく。
「生地も作っておいた」
「うぇえ。丹恒作業が早すぎるだろ」
「慣れだ、慣れ」
 最近、穹といると退屈せずに済むなと思うようになった。
 自分の変化に驚いているし、それが嫌だとは感じないしむしろ良いことだとも。
「丹恒、ご機嫌?」
「さあな」
「あ。今笑った! なのに教えよう」