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toko-honey
2026-02-24 17:55:49
3527文字
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結んでほどけて3【見つめる】
レオン×タクミ。タクミの髪をきっかけにレオンがタクミに惹かれていくお話の第3話。1日1話の連載で全7話です。
Japanese Only
#leokumiweek2026
レオンが呼び出されてカムイのツリーハウスに行くと、兵種の変更を提案された。
「僕にソーサラーになれって?」
「はい。次の出撃に備えて軍の編成を見直していたら、レオンさんにソーサラーになってもらうのがいいと思ったんです」
カムイは図面を広げ、真剣な顔で熱心に理由を説明する。偵察で判明した敵軍の情報を踏まえて彼女なりに出した最適の戦術のようだった。それを聞き終わってレオンは言った。
「ふうん、まあ面白いかもね。いいよ」
話が終わって部屋を出ようとするとカムイに引き止められた。椅子に座り直すと、カムイは打って変わったにこにこ顔でテーブルに紅茶を用意し始めた。レオンにどうぞと勧めてくる。
「何だか機嫌がよさそうだね。僕がソーサラーになるのがそんなに嬉しいの?」
「いえ、そうじゃないんです。レオンさんが、私が前に言ったことをちゃんと考えてくれたのが嬉しいんです」
「えっ? 前に言ったことって何? 法衣が裏返ってたこと?」
「法衣のことじゃないです。とぼけなくてもいいんですよ。私、嬉しいんです。あのレオンさんが私からの注意を素直に聞き入れてくれるなんて」
カムイはすこぶる上機嫌な様子でベリージャムクッキーの皿をレオンの前に置いてくる。
レオンは紅茶とクッキーを前に首をひねった。軍のリーダーとしてのカムイの指示には従っているが、それ以外で注意を聞き入れた覚えなどない。というか、注意されたこと自体記憶にない。その前に、「あのレオンさん」の「あの」の部分はどういう意味なんだよとも思ったが、取りあえずそれは置いておくことにした。
「何か勘違いしてるんじゃないの? 心当たりがないんだけど」
「だから、とぼけたって無駄ですって。私にはお見通しなんですから」
レオンは腕を組み、カムイの顔をじっと見ながら言った。
「とぼけてなんていないよ。本当に心当たりがない」
「えっ」
ふふんと得意げだったカムイの表情が固まる。
「えっと、
……
本当にですか?」
「本当に」
レオンが力強くうなずくと、カムイは椅子から身を乗り出してきた。テーブルの上のカップがガチャンと音を立てる。
「そうなんですか!? だってレオンさん、最近タクミさんと仲がいいじゃないですか!?」
「はあああっ!?」
レオンは驚きすぎて飲みかけの紅茶をこぼした。飲み込む寸前だった紅茶が変なところに入りそうになってどんどんと胸を叩く。
「な、何言ってるんだよ! 誰と誰が仲がいいって!?」
「レオンさんとタクミさんです。違うんですか?」
「全然違う!」
レオンはひとしきり驚いて、ひとまず呼吸を落ち着けることにした。呼吸が落ち着くと気分も少し落ち着く。
カムイが突拍子もないことを言い出すのは昔からだが、今回の発言は今までの中でもトップクラスだった。ここは冷静に話を聞き出して、誤解を解かなくてはならない。
「話を整理しよう。まず、カムイ姉さんは以前僕に何か注意をしたんだよね」
「はい、しました」
レオンが落ち着いて話し始めると、カムイも椅子に戻って真面目な顔になった。
「どんな注意だったっけ?」
「『もっとタクミさんと仲良くするべきです』って」
「いつ?」
「この前の軍議の後です」
「『言い過ぎだ』って言われたのは覚えているけど
……
」
「その後です」
「その後?」
そう言われれば、カムイは続けて何かを話していた気がする。だが、たしなめられたことの理不尽さにばかり気持ちが向いていて、内容はほとんど聞いていなかった。何を言われたのか全然覚えていない。
「もしかして、私の話を聞いていなかったんですか」
「うっ
……
。そっ、それよりも、どうして僕とタクミ王子が仲がいいなんて思ったのさ」
「だってこの頃のレオンさんって、タクミさんのことをよく見ているじゃないですか」
ドキッとする。
「それは
……
」
「それも嫌っている相手を見るようなのじゃなくて、おだやかな顔で。それって、仲がいいからじゃないんですか」
「
……
」
レオンの脳裏に、ふわりと風になびくタクミの長い髪が思い浮かんだ。
自覚はあった。
タクミの髪を下ろした姿を見たあの日から、レオンはタクミの姿を探すようになっていた。最初は無意識に。自覚してからは意識的に。
目印はあの特徴的な髪型だ。拠点での訓練中や休憩中、食堂での食事中など、時間があればタクミはいないだろうかと目で探していた。
見つけたからといって何をするでもなかった。ただ、タクミが動くのに合わせてその髪が揺れる様子や、立ち止まったときに背中に垂れている様子を見ていただけだ。
それで偶然タクミと目が合ってしまい、あわてて視線をそらしたことも何度かあった。だからおそらくタクミもレオンに見られていることには気付いているだろう。だが不思議なことに、それを表立ってとがめられたことはまだなかった。
「
……
見ているからって、別に仲がいいわけじゃないよ」
「仲良くなりたいとは思っているんですか?」
「そういうわけじゃ
……
」
レオンは視線を手元に落とした。
では、どういうわけなのだろう。なぜ自分はそんなにも彼のことを見ているのだろうか。いったい自分は彼とどうなりたいのだろう。
長い髪なんて、今までの人生でいくらでも見てきた。現に、カミラやカムイやエリーゼは髪が長い。みんな女性だが、今の軍に男の長髪が少ないというだけで、国に戻れば長い髪の男なんてざらにいる。でもこんな風に目で追ってしまうのは彼が初めてだった。
ざらにいる長髪と、彼の長髪と、いったい何が違うのだろうかとレオンは思った。
もしかしてあの髪型のせいだろうか。いつもぎゅっと結ばれている髪が下りていた様子に大きなギャップを感じた。それだけのことかもしれない。
視線を上げるとカムイの髪が目に入った。癖のあるウェーブの長髪だ。明るい色合いはタクミと少し似ている。
「カムイ姉さん、ちょっと頼みがあるんだけど」
「何ですか?」
「髪型を変えてみてくれない?」
「いいですけど
……
、タクミさんの話はどうなったんですか」
「タクミ王子に関係することかもしれないんだ。だからやってみてよ」
カムイは申し出に戸惑いはしたものの、最終的にはレオンの言うとおりの髪型にしてくれた。高い位置のひとつ結びだ。
「ええと、これってタクミさんと同じ結び方ってことですよね? どう関係するんですか?」
「うーん、そうだね
……
」
レオンは生返事をしながらカムイの髪を観察した。
結び目の位置はタクミと同じだ。でも、結び目の太さは全然違っていた。タクミの髪はもっとボリュームがあって、長さもあるのだ。カムイの髪は癖毛のせいで広がってはいるが、毛の一本一本は細くて実際の量は少なかった。
うなじの様子も違っていた。タクミの後れ毛はこんなに多くないし、生え際の形も少し違っている。首もこんなに細くない。タクミの首筋は羽織の立て襟とスカーフで普段は隠れているが、レオンはタクミの羽織とスカーフのない姿も見たことがあった。彼の首筋は男にしては細いのだが、カムイと比べるとさすがに太くてしっかりしていた。
それにやっぱり髪の色が薄すぎる。肩幅だって狭すぎるし肌の色だってもっと
――
。
「もういいよ。ありがとう、カムイ姉さん」
「結局どうだったんですか?」
「ちょっと思い出したことがあったから、この話はまた今度ね」
「レオンさん?」
レオンは適当に言い訳すると、逃げるようにカムイの部屋を出た。
宿舎の自分の部屋に向かいながら、レオンは愕然としていた。
先ほどカムイの髪を見ながらレオンが考えていたのはタクミのことばかりだったのだ。カムイとタクミを比べ、タクミの髪はこうだ、タクミの首はこうだ、タクミの肩はこうだと、そればかり。
レオンは部屋に入ると足早にベッドへ近付いた。ボスンとうつ伏せに倒れ込む。
いったい自分は彼とどうなりたいのか。
考えなくてもその答えの輪郭がぼんやり見えてきて、その正体にレオンはまた愕然とした。
枕に向かってぼやく。
「あり得ないよ
……
」
ぼやいたところで現実は変わらなかった。頭を抱えて唸る。
レオンが惹かれて目で追っていたのはタクミの髪だけだったはずだ。だがその対象範囲は自分でも気付かない内に変化していたらしい。
要するにレオンは髪だけでなく、タクミ本人のことも気になり始めていたのだった。
自覚した途端に猛烈に恥ずかしくなる。髪を下ろしたタクミの横顔が勝手に頭に浮かんできて、レオンは枕に顔を埋めて両脚をバタバタさせた。
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