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2026-02-24 16:42:03
3103文字
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帰る星は無邪気に笑う

ウチの子、アンドリューの短編。シナリオ通過の直ぐくらいでしょうか。相棒のウレンくんを少しお借りしてます。

帰る星は無邪気に笑う

 
 つい先日まで宇宙を飛んでいた。相棒と共に飛ぶ宇宙は最高でいつまでも続けばいいと思っているのは昔から変わらない。変わらない筈なのに——
 
 なんだこれは……?と思っていると、体が動いていない。周りが暗くて、目が開いているのかも分からない。藻掻いていると、フッと力が抜けた気がした。
 
——っ、ゆ、夢か?」
 
 指先から段々と力を入れ動かしてみるが、代わりに体がぐったりと横たわっている感覚しか自分には返ってこない。ただ、体の重力を感じてくるといつもの場所だということがわかってきた。相棒、ウレンの戦闘機の中だ。操縦席にもたれかかっていると。どうにかこの暗い視界に光を入れようと目元に力を入れる。瞼が鉛のように重く、薄く目を開けるのでさえ一苦労だ。
 
……宇宙だな」
 
 いつもの景色だ。青も赤も黄色も全てが混ざった暗く深い深い混沌とした色。そして遥か遠くに輝く星と惑星。厚くて薄いその液晶の先にある。なんだか、いつもより近くに感じた。背中が妙に冷えたのは気のせいだと言い訳をしながら、目を閉じ、口を開けた。
 
「ウレン、ここはどこだ」
 
 いつもの声が聞きたい。
 
……お前も寝てるの、か?」
 
 重い瞼を薄らと開けては閉じてを何度か繰り返す。
 
……なぁ、本当は——起きてるん、だろう?」
 
 目の前の景色が変わらない。いつものにっこりと笑った顔のような表示もない。
 
——ウ、レン?」
 
 静かだ。どこかで読んだ小説の一節のように。音がない音が聞こえてくるような。
 
「ち、違うよな……ただ疲れてるんだろう。あんだけワーワー騒いでたんだ……だから、少し、バッテリー節電のためにって……
 
 何度も戦闘は経験してきた。それこそ、相棒のウレンと共に。死にそうになったこともある。機体損傷を俺の操縦ミスでだ。
 
……疲れてる、もんな……それでも外を見せてくれてるのか……
 
 慌てるウレンが居たのが場違いにも笑えてきて、乗る前から震えてた手が止まっていた。誰よりも正確なのに、誰よりも感受性豊かな相棒。
 
……お前は最後まで、気のきく……最高の——
 
 
 
 ——最高の相棒だ
 
 
 
 
 
 
 遠くから何か、聞こえる。小さかった音が段々と大きくなっている。
 
 
 
 ——リュー、アンドリュー!
 
 
「う、うわぁぁぁ!?!!」
「ワァァァァアァアアァァ!?!!」
 
 自分とは違う声に驚き目を見開く。
 
「な、なんだよ……!! アンドリュー!
 そんな声出さなくてもいいじゃないか! び、ビックリした!!?!」
「ウ、ウレン……か?」
「そうだよ……! 相棒、忘れちゃったの? この僕の顔を?」
 
 思わず腕を伸ばす。手には溢れんばかりの元気が隠せていない触りがいのある金髪に、スベスベとした肌の整った顔立ちと複雑に光る色をうつしだす瞳。その場にいるのかと頭を顔を肩をと何度も触る。
 
「く、くすぐったいって……!!」
「ウレン、だ、な……
「だからそうだって……! っていうか!! なんか凄い苦しそうにしてたけど! アンドリュー! 大丈夫?」
 
 え?と驚いていると自分の汗で赤い髪がベッタリと張り付いていた。ウレン曰く、顔色もどうやら青いらしい。
 
「もう! 心配なのはアンドリューの方だよ!! 心拍数も! ほら普段より高いじゃないか!」
 
 普段より二十回以上も多いらしい。流石AIは違うなと関心半分に聞いていたが、それよりもなんだか頭に対して情報が多すぎる気がする。今の状況について思考が追いついていないようだ。
 
「そう、なのか? それより、ここは……家?」
「え!! アンドリューの部屋だよ! マイホーム!! 意識も朦朧としてるなんて……!」
……あ、家の中、なのか!」
「そうだよ! いくら休みだから寝過ぎるのもって思ってたら! 大変そうなんだもん! 思わず起こしちゃったよ!!」
「わ、悪かった……
「謝って欲しいよりも! 今は、もう大丈夫??? アンドリューが心配だよ!!」 
 
 怒られているのに……目の前の光景に視界が歪む。まるで溢れてくるものを抑えるように手で目を被った。
 
「だ、大丈夫?」
……わりぃ、少し目が乾いたみたいで、光が眩しくて」
「わ! それは大変だ!! 確かいつもの棚に目薬があったはず! 持ってくるよ!!」
「ありがと……
 
 お礼を言い終わる前にウレンはダッと部屋から飛び出した。部屋のドアを勢いよく閉めバタンと音が響く。
 
「本当に部屋なんだな……
 
 周りを改めて見渡す。自分の紺色ベースのベットに少しかかるように交差するハンモック。ウレンの特等席だ。
 窓から指す光は明るくて、ガヤガヤとした外の音に昼近いんだと思わせた。鳥のさえずりよりも人や機械の行き交う音が賑わせている。
 
——心配かけちまった。元気な俺に戻らないとな、ありがとう。相棒」
 
 
 改めて考えさせられるものだった。ただの夢だと思いたいがあまりにもリアルで、未だに少し震える腕を抑えた。
 ただ言葉にならない想いもあった。自分が残こしたいものが増えていたことに、いつの間にか口角が上がっている。目元の熱さは冷めないまま、もう一度口ずさんだ。
 
 
 ウレン・ジエンバ
 
 子供のように笑う星にいつも帰れますように。
 朧気な両親と笑う星が並ぶ光景に目をぎゅっと瞑った。