星の子どもたち

子どもに懐かれる碇シンジ(28)が見たいなと思ってさ……。
ヒカリのことは多分トウジと結婚して今まで洞木さん呼びだったけど鈴原さん呼びもややこしいよな……とか悩んだ結果「ヒカリでいいわよ」って言われたのでこの形に落ち着いたとかだといいよなとか思ってさー
後半モブ視点です。
カッとなって殴り書きした。
これ描いてる時はニコニコだったんだけど今色々混乱してて頭が爆発しそう。誰か助けて。

居酒屋の座敷は、かつての教室をそのまま持ってきたような、懐かしくも騒がしい雰囲気に包まれていた。
大人になった彼らの手元にあるのは、教科書の代わりにキンキンに冷えたジョッキと酒の肴だ。
「いやそれにしても、マジでお前が産んだみたいだな」
ケンスケがビール片手にケラケラと笑う。視線の先では、シンジの膝の上に、トウジとヒカリの愛娘──まだ一歳を過ぎたばかりの小さな命が、当然のような顔で収まっていた。
「よしてよ、ケンスケ。……でも、本当に不思議だね。なんで僕なんかがいいのかな」
シンジは困ったように眉を下げながらも、慣れた手つきで娘の背中をトントンとあやす。そのリズムは驚くほど一定で、迷いがない。
「ほんま、ワシよりよっぽど『お父さん』しとるわ」
トウジが呆れたように、けれど誇らしげに目を細める。
「この子ね、パパが抱っこすると反り返って大泣きするのに、碇くんだとあっという間に泣き止むのよ」
烏龍茶に口を付けながら苦笑いするヒカリの言葉に、ケンスケが「見る目あるよ、ツバメは」と指を鳴らした。
「お前、昔から子供と動物に異様にモテてたもんな。なんか安心する周波でも出てるんじゃないの?」
友人たちの茶化しを、シンジは照れくさそうに、けれど温かな眼差しで受け止める。
「それにしても。トウジが一番最初にお父さんになるなんて、思わなかったな」
「ほんとそれ! 委員長がいなかったら、今頃こいつまだフラフラしてたぜ?」
「やかましわい! ……まあ、否定はせんけどな」
そんな和やかなやり取りの最中、ツバメが「ふえぇ……」と顔を歪め、ぐずり始めた。
慣れない人熱と、眠気のせいだろう。慌ててヒカリが腰を浮かせた。
「ごめんね碇くん! 代わるわ……
「いいよ、ヒカリちゃん」
シンジはスッと立ち上がり、泣き出しそうな娘を包み込むように抱き直した。
「たまにはゆっくり食べてよ。お母さんは年中無休なんだから。……ちょっと、外の風に当たってくるね」
「そんな、悪いわ……
「大丈夫、座ってて」
言いかけるヒカリを笑顔で制して、シンジは静かに座敷を出た。

春の温かな夜風は、酒と熱気で火照った体を優しく冷ましてくれた。
店先の喧騒から少し離れた、静かな街灯の下。シンジは幼な子を抱きしめたまま、ゆっくりと歩く。
……よしよし。飽きちゃったかな。もうちょっと、静かな方がいいよね」
耳元で優しく囁くと、ツバメは可愛らしい鼻をシンジの首筋に埋め、ふにふにと柔らかい声を漏らした。その小さな、けれど確かな重みと体温を感じながら、夜空を見上げる。
かつての彼が知っていた空は、もっと冷たくて、痛いものだった気がする。
眼前に広がる夜空は街明かりに烟って、道標のような星も見えない。けれど──今、腕の中にいるこの子が、その小さな指先でシンジのシャツをぎゅっと握りしめている。
ただそれだけで、「ここにいていいんだよ」と、言葉を介さずに教えてくれているような気がした。
……ねぇ。君のお父さんは、とってもかっこいい人なんだよ」
シンジは誰に聞かせるでもなく、穏やかに、独り言のように笑う。
「大きくなったら、教えてあげるね。君が生まれてくるずっと前から、みんな君に会えるのをとても楽しみにしてたんだってことも」
ツバメの寝息が規則正しくなり、完全に夢の中へ落ちたのを確認して、シンジはもう一度だけ、愛おしそうにその小さな背中を撫でた。




同僚との飲み会を終え、千鳥足で夜道を歩いていた時だった。
少し離れた居酒屋の店先に、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
……あれ? 碇さん?」
同じ部署の、いつも穏やかで仕事のできる先輩。
でも、今は会社にいる時とはどこか雰囲気が違う。思わず、大きな声を出してしまった。
「やっぱり! 何してんすか、こんなところで!」
夜道に響く俺の声に、碇さんは少し慌てた様子で振り返り、人差し指をスッと唇に当てた。
『しーっ、静かに。……今、寝たところなんだ』
囁くような声に促され、俺は視線を落とした。
……その瞬間、酔いが一気に吹き飛んだ。
そこには、碇さんの腕の中にすっぽりと収まり、幸せそうに頬を膨らませた赤ん坊の姿があった。
(えっ、碇さん、結婚してたっけ? いや、この間『独身だよ』って……じゃあ何、隠し子!? あの抱き方、あの密着具合……!)
「い、いつ産んだんすかッ!?」
混乱の極致で、自分でも意味不明な問いかけが口を突いて出た。
碇さんは無茶苦茶な俺の言い草に、虚を突かれた目を丸くした。完全に失言だったがもう後の祭りだ。
しかし、数秒の静寂の後、彼はこらえきれないといった風に、声を殺して笑い出した。
「ふふっ……あはは……っ」
目尻に少し涙を浮かべながら、肩を揺らして笑う。
会社で見せる姿よりもずっと柔らかい、心底楽しそうな表情だった。
というか、この人、もしかして酔ってる……
会社の飲み会じゃ、どんなに飲んでも涼しい顔で周囲を捌いているのに。今の、熱を持ったような蕩けた空気は何なんだ。ズルい、と言いそうになって慌てて言葉を飲み込む。
腕の中の赤ん坊は、そんな笑い声にも動じず、すいすいと心地よさげな寝息を立てている。相当に神経が太いのか、あるいは、それほどまでに碇さんの腕が安心できる場所なのか。
目を白黒させる俺に向かって、ひとしきり笑った後穏やかな顔で言った。
「ごめん、おかしくて。……友達の子なんだ。今日は久しぶりにみんなで集まっていてね」
……あ、なんだ。そういうことだったんすか……
俺は、どっと抜けた腰をどうにか支えながら、自分でもよく分からない安堵感に包まれていた。
隠し子。不倫。秘密の家庭。
一瞬で脳内を駆け巡った最悪のシナリオは、碇さんの「友達の子」という一言で、無事霧散した。
「君は? 今帰り?」
「あ、ええ、まあ。さっきまで同僚と飲んでて……
「そうなんだ。お疲れ様。……ふふっ、それにしても『いつ産んだのか』って……
まだ笑いの余韻が消えないのか、碇さんは楽しそうに目を細めると、腕の中で身じろぐ赤ん坊の背中を、再びトントンとあやし始めた。
街灯の淡い光に照らされた、その姿。
大きな愛で小さな命を包み込むような、慈愛に満ちた佇まい。
……正直、俺は混乱していた。
相手が男の先輩だってことは百も承知だ。
けれど、夜の静寂の中で赤ん坊をあやす碇さんは、美術館の奥深くに飾られた「聖母」の絵画のような、神聖なまでの静謐さを醸し出している。
その手つき、声のトーン、伏せられた睫毛の影。そのすべてが、あまりにも完成された『慈しみ』の形をしていた。
綺麗だ、と、素直に思う。
「なんか……お母さんみたいっすね」
またしても口を突いて出た自分の失言に、あちゃ、と頭を抱えた。
なのに、碇さんは怒るどころか、笑いを堪えながら呑気に首を傾げた。
「そこは『お父さん』じゃないの?」
冗談めかしてそう言った碇さんの背後で、居酒屋の扉が勢いよく開いた。
「おーいシンジ! いつまで外におるんや!お前がおらんと締まらんやろ!」
現れたのは、碇さんとは正反対の、体格のいい男性。
「声大きいよ、トウジ」
呆れながら友人に答える碇さんは、完全に気が抜けていて、いつもよりさらに柔らかさが増している。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
最後に「またね」と笑いながら、赤ん坊を抱いたまま、碇さんは賑やかな店の中へと消えていった。
……一人、夜道に取り残される。
アルコールで回っていた頭は、別の意味でクラクラしていた。
……いや、でも、やっぱ」
どう考えても「お父さん」って感じじゃなかった。
あの抱き方、あの微笑み。
俺は去っていった背中を思い出し、ぼんやりと呟いた。
……やっぱ、お母さんにしか見えねえ……
週明け、会社でどんな顔すればいいんだそんなことを考えながら、俺はしばらくその場から動けずにいた。