機械苦手なフリンズさんがいつもと違った話

※ほよふぇあ2025「境界越え彼方へ至る」KVイラストのフリンズさんから着想したパロディです。

 ボスからのとある依頼を二人で解決したことで、フリンズさんと『コンビ』結成してから、はや一ヶ月ほど。
 
 先日提案された「『ペア』の提案は……まだ検討しません!」、と言い切って逃げたのは良かったが、コンビとして動くことをボスの夢見月さんに報告したところ、「まだコンビじゃ無かったのね?」とか言われちゃった。あの男、やっぱり外堀から埋めていくタイプだ……
 また、彼が「週に二回ほど一緒に食事に行く約束は譲れない」とのことだったので了承したのだが、約束してないのに家の前で待ってることもあるので、本当に勘弁して欲しい。食事と言いつつも、彼は元々ご飯食べないからね。コンビを組む話も、早まった感があるね。

 (今日あたり居る気がする)、と思いつつ、恐る恐る自宅の玄関扉を開けたのだが――今日は居なかった。
 拍子抜けではあるが、今日は平和な日なのかもしれない。それはそれで、と思いもしたのだが……違和感も凄い。手元の端末を除いても、頻繁に来ていた連絡も昨日から届いて居なかった。んー、ボスにでも直接聞いてみようかな。
 そんな考え事をしながら歩いて居たら――
 
「お嬢ちゃんに恨みは無いが、ちょっとばかり捕まってくれないか?」

 そんなふざけた台詞が聞こえた。まさか、私に言ってる……?んな馬鹿な。
 しかし、この路地裏には私しか居らず、柄の悪い男性(最近見かける宝盗団ってグループかな?)と、その男が操っているであろう警備ロボに囲まれてしまった。
「人違いじゃないですか?」
「いいや、依頼されてるのはお嬢ちゃんで合ってるよ! ――あ、しまった聞かなかったことにしてくれ!」
 ……誰かから依頼されていることを、サラッとバラすことある?本当に馬鹿なのかもしれない。少しだけ同情した。
 目の前の男のことはさておき、腕を組んだ姿勢のままで顎に手を当てて首を傾げる。少しだけ、私が狙われる可能性を考えてみようと思った。うーん…………無いな。依頼のたびに痕跡は完璧に消してる自信あるし、そもそもこんな私みたいな下っ端を捕える必要はないはず。じゃあ何だろうか。

 ――あっ。
「もしかして、フリンズさんを誘き寄せるため――とか?」
「あぁ、そうらしいぜ? あ、違うちがう!聞かなかったことにしてくれ‼︎」
 ……それも言っちゃうのかぁ、逆に凄いな。依頼主は、なんでこんな奴に依頼したんだろうか。少しだけ依頼主にも同情しちゃう。
 もしかして、予想に反してフリンズさんが今日来なかったことも、なんか影響してるかも、しれない? となると、援軍には時間が掛かるかもしれない。
 それはさておき、狙いがフリンズさんだと分かったので、逃げ切れば私自身は無事でいられる可能性も出てきた。
 ――よおし、やるか。
 
 こういうのは先手必勝っ! 常に携帯してる防犯用の煙幕玉を前方に投げつけて、小規模エリア無線解除のプログラム起動装置を作動させ、それも投げる。相手の視界および警備ロボの手札を無効化するためだ。
「うわぁ! なんだこれ‼︎」
 敵とは反対の方向に急いで逃げる。無線解除エリアを自分で走って抜け出したあとは、リサーチ済みの隠れ家スポットへ走りながら、応援要請を送った。あとは、何とかなれぇ‼︎
 一人用シェルターに逃げ込んで、体を縮めて息を潜めてから数分。ドアの外からは誰か分からない足音や、ガシャンガシャンと警備ロボが動き回る音も聞こえた気がする。うーん、状況としてはあまり良くない……ここが見つかったらヤバいな。次の手も考え始めようか……と準備していると、外からとんでも無い大きな音がして、シェルターのドアが急に開いた。――えっ、これやばいやつ……か?

――お迎えに上がりましたよ」

 開いたドアの向こうには、フリンズさんが立って居た。…………あっ。
「遅くなってすみませんでした、ご無事でしょうか。僕の方にも厄介事がありまして……。それに救難信号なんて久しぶりで、受け取り方が分からなくて……ダメですねぇこれぐらいは苦手でも覚えておかないと。とにかく、発信情報の位置まで走ってきたのですが、――
 ごちゃごちゃ何か言ってるフリンズさんを無視して、私は立ち上がり、両手を広げて彼の体にギュッと抱き付いた。ほんの少しだけ……自分の手が震えていることを、いま自覚した。
……来るのが遅いです、よ」
「はい、――申し訳ありません。次は十秒で来ますね」
「いやそれは無理でしょ」
 彼の胸元に頭をグリグリ押し付けながら抗議しておくと、フリンズさんは頭を優しく撫でてくれた。
 

 ***


 ことの発端となった柄の悪い男は、見たことのないビリビリしてる鎖でぐるぐる巻きにされていた。この鎖はフリンズさんが作り出してるんだって。相変わらず原理は謎だらけだ。あと、警備ロボは全部壊れてた。相変わらず機械系に対して、凄まじい特効効果だね。
「それでは、これから話し合いといたしましょうか。雇い主さんは、どなたでしょうか?」
「い、言える訳……ぅわああ‼︎」
「はて、いま貴方は何と言いましたか? 僕は、雇い主さんについて、お聞きしているのですが」
「言います! 言うから電撃やめてください‼︎」
 あの鎖からは電撃が放たれるらしい。ふと、フリンズさんの顔を覗き見たところ、声色はいつも通りなのだが、口は大きなマスクで覆われているので見えないが、目が据わっている。……こっわ。
――よろしい。もう良いですよ」
 そう言ってフリンズさんがパチンッと指を鳴らすと、特大の電撃が流れたらしく、気を失って倒れた。……フリンズさんは本当に敵に回したくないな、と思うなどした。

「彼の雇い主は分かりましたし、こちらはボスに連絡しましょう。後日何とかしておきます」
……なんとかしちゃうんだ?」
「えぇ勿論。貴女に手を出したこと、後悔させて差し上げませんと」
 そう言って彼は大きなマスクを外してニコリと笑う――いや内心絶対笑ってないと思うけど。

 そっと、フリンズさんが私へ手を差し出す。何だろうか?と、その手を見つめていると「ボスの所へ向かう途中だったのでしょう? ご一緒しますよ」と彼は言う。あぁ、手を取れってこと……
 仕方ないなぁ……と、彼の手に私の手を添える。ゆっくりと歩き出す彼に合わせて、私も歩くことにする。
「それはそうと、まさか貴女に標的が向かうとは思ってませんでしたね」
……うん」
「実は僕、最近引越しをしましてね。部屋が余ってるんですよね」
……ん、一体何の話をしている? いま話題が飛んだね」
「僕と一緒に住みませんか? その方が、今後貴女を護衛するのに都合が良いので」
「問題しかないんですが⁈」
「先ほどは不安を和らげるために僕に抱き付いて下さって、感無量でした。いつでもどうぞ」
……あれは! すぐに忘れてー‼︎」
 クスクス笑いながら、冗談とも本気とも取れる話をするフリンズさん。もう、勘弁して下さい……

 

……それで、困って私に相談しに来たってことかしら?」
「刻晴先輩、もうどうしたら良いか分かんないよ! 護衛って何助けて……
「いや、私にも分からないわよ。……って、言ってる側から、ほらお迎え来てるわよ」
「お迎えって何? なんで? 刻晴先輩のコンビもそうなの⁈」
「そんな訳ないでしょう」
 そうですよね。なにがどうして、そんなに気に入られたのか……。そして、後ろからゆっくりと近づいてきたフリンズさんは、私の肩をポンっと叩いた。


 ――余談ですが、先日聞き出した企業は……数日後に倒産したらしい。なんだろうね、怖いね。



『僕は貴女の護衛ですから、さぁ一緒に帰りましょうね』