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匣舟
2026-02-23 21:38:53
3720文字
Public
RKRN
きみのせいで冬が恋しくなりそうだ
冬リクで頂いたタカ乱を書かせて頂きました!
リクエスト下さってありがとうございました🩵ྀི
冬という季節を、生まれてからずっと一度も好きになったことはない。朝起きると、ひんやりとした冷たさが部屋中に漂っていて自分の体温で温められた布団から出られないから。
布団から出たとしても、フローリングに足を下ろした瞬間にひんやりとした冷たさが足裏に這ってきてしまうから。そのひんやりとした足の感覚が靴下を履いて外に出る準備をした頃にはもうなくなっているけれど、次の瞬間には新たな冷たさが待ち構えているので嫌になる。
仕事に行こうと、玄関のドアを開けるとぴゅう。とからっ風が防寒をしたのにも関わらず、それを通り越して 凍えるような寒さが自分の体内に入ってくる。
ああ、仕事に行きたくないな。と一旦ドアを閉め現実逃避をしてしまう。こんなに寒いのだから、本当は外に出たくないし、こたつでぬくぬくしていたい。という考えは、こんな寒さの中で出勤しているほとんどの人間が思っていることではなかろうか。
そんな現実逃避もつかの間、しぶしぶ出勤をすると歩くたびに自分の息が白い息になって空中へと吐き出され、改めて寒いということを思い知らされて嫌になる。あーあ、冬なんて来なければいいのに。と決して叶うことのない願い事を心の中で唱えながら、毎日眠りについている。
「んん~
…
。」
ジリリ!とけたたましく鳴るスマートフォンのアラームでタカ丸は寝ようとしている瞼を何とかこじ開けて目覚めた。スマートフォンを止めたのはいいが、起き上がった体はぼふん。と大きな音を立ててキングサイズのベットへと逆戻りしてしまう。
それもそうだ。なぜなら今は十二月。タカ丸の苦手な冬である。ぬくぬくとしたベットの中はまるで天国のようで、また微睡の中に落ちてしまおうとする
…
がそれを察知したかの如く、タカ丸が寝ている部屋の奥からぺたぺたとスリッパを履いた足音が聞こえて、やがて足音が止まり、タカ丸の頭上からふふふ。という笑い声と温かい手の感触がタカ丸の頬に伝った。
「ターカまるさーん、起きて。」
仕事に遅刻しちゃいますよ?とタカ丸の頭上から優しい声が降ってくる。その優しい声は、タカ丸の恋人である乱太郎の声だった。乱太郎はいつもタカ丸より早く起きて、朝ご飯を作ってくれているのでこうして冬の朝に弱いタカ丸のことを朝ご飯ができたと知らせがてら起こしに来てくれるのだ。
その声が聞こえるとタカ丸は目を閉じながらも両手を広げ、まるでベットから引きはがしてくれと言わんばかりに乱太郎のことを待っている。乱太郎はそのタカ丸の姿を見てまたしてもくすくすと笑みを零してから、両手を広げているタカ丸に近づくとぎゅうっと抱き着いた。
「おはようございます、タカ丸さん。今日は一段と寒いですよ~?」
「んん、やだぁ
…
。」
「そんなこと言われても
…
ほら、起きますよ~。」
「
…
はぁい。」
乱太郎の腕の中で暖を取りながらタカ丸はのそのそと起き上がり、ちゅっ。と乱太郎の頬に口付けを落とす。そしてまだぼんやりとしている顔を擦りながら洗面所へと向かった。
そうして朝の身支度を整えたタカ丸が食卓に行くと、乱太郎が作ってくれた二人分の朝食がテーブルに並べられており、隣に腰掛けるようタカ丸は促され大人しく席についた。すると、乱太郎は先ほどと同じようにタカ丸の頬に口付けを落とし、にっこりと笑みを浮かべる。
「改めて、おはようございます。タカ丸さん。」
「うん。おはよお、乱太郎くん。」
二度目の挨拶を交わして、二人揃って手を合わせた後、いただきますと挨拶をする。今日はトーストにハムエッグ、それと野菜たっぷりのサラダが今日の朝食のメニューみたいだった。タカ丸はサラダに入っていたミニトマトを口に入れ咀嚼した後、乱太郎の方を見やった。
「乱太郎くん、今日は何時ぐらいに帰ってこれそうなの?」
「んー
…
今日はちょっと早めに帰れそうな気がします。」
ゼミも何もなかった気がしますし
…
。と、乱太郎は自分の予定を確認するためにスマートフォンを操作しながら言った。タカ丸はそうなんだー。といいつつハムエッグを口に入れる。
「それなら今日の夕飯は僕が作るね~。」
「え!いいんですか!」
「うん、今日は確か予約は十六時までしか入ってないし、予約が入ってないなら退勤してもいいって言われたからさ。乱太郎くんの大学まで迎えに行くから、一緒に買い物でも行こうか。」
「やったー!嬉しいなぁ、タカ丸さんの料理食べられるの久しぶりだ~!」
「そうかな?」
「そうですよぉ~!最近タカ丸さん忙しかったから作る暇なんてなかったでしょう~?」
「確かにそうかもねえ~。」
タカ丸さんが作ってくれる料理は本当に美味しいんで私ちゃんと作ってくれた日を覚えてるんですよ!と乱太郎は目をキラキラとさせて、胸を張りながら言った。
その嬉しそうな表情を見てタカ丸も自然と顔が綻んでしまう。乱太郎と一緒に暮らし始めてから数年経った今でも、こんな風に嬉しそうにする乱太郎を見る度に胸の奥底から愛しさが込み上げてくる。
「それじゃあ早速だけど、今日の夕飯は何がいいかな?乱太郎くんの好きなもの何でも作っちゃうよ~。」
「えぇ~
……
?うーん、悩むなぁ
…
。」
乱太郎は口元に手を当てて真剣に悩み始めた。その姿を見ながらタカ丸は内心微笑んでいると、不意に乱太郎が閃いたように声を出した。
「
…
決めました!!」
「なあに?」
「今日の夜ご飯はハンバーグがいいです!!」
「ハンバーグかぁ、いいね。」
「タカ丸さんが作ってくれるハンバーグとっても美味しいから
…
へへ。」
「そう言ってもらえると作り甲斐があるね。オッケー、じゃあ今日の夜ご飯はハンバーグに決定だね〜。」
「やったぁ〜っ!」
嬉しそうに返事をする乱太郎を見ながらタカ丸は微笑んだ後、残りのトーストを頬張った。こうして他愛もない会話をしながら朝食を取った後、タカ丸は仕事着に身を包み玄関まで出て行った。コートを羽織り、靴を履いている最中、見送るために乱太郎がやって来たのでタカ丸は立ち上がって乱太郎の方へ振り向いた。そしてそのまま、タカ丸よりも頭一つ分以上小さい乱太郎を抱き締める。
「タカ丸さん、いってらっしゃい。気を付けてくださいね?」
「うん、行ってくるね。乱太郎くんも授業頑張って。」
「はい!頑張ります!」
ハンバーグのことを思って!と言いながら笑顔でタカ丸の言葉に元気よく答える乱太郎の姿に愛おしさが込み上げてきたタカ丸は、思わず乱太郎の唇にキスを落とした。
突然のことに驚いた様子を見せたものの、すぐにタカ丸の背中に腕を回してキスを受け入れてくれた乱太郎に更に愛しさが増してしまい、思わずそのまま貪るように深く口付けた。
最初は戸惑いながらも受け入れていた乱太郎だったが、次第に呼吸が乱れてくるとやんわりと肩を叩かれ限界を告げられたため名残惜しそうに唇を離すと、唾液で濡れた互いの唇が照明に照らされて光って見えた。
それに伴いどちらの物とも分からない銀糸が伸びて切れる様子に興奮したタカ丸だったが、グッと堪えて代わりに乱太郎を強く抱き締めた。
「た、かまるさ
……
」
「あー、行きたくないよ~!乱太郎くんとずっと家でぬくぬくしてたいよ~。」
「ダメですよぉ
……
。もうそろそろ出ないと仕事に遅刻しちゃいますっ。」
「うぅ
……
分かってるんだけどさぁ
……
。」
「そろそろ私も準備しないといけないんで
……
。」
「えぇ~?もう少しこのままでも良くない?」
「駄目です。早くしないと遅れちゃいますよ?」
「うぅ、はぁい
…
。」
渋々といった感じでタカ丸は乱太郎から離れると、今度はおずおずと乱太郎がタカ丸に向かって手を伸ばした。それに対してタカ丸は首を傾げる。どうしたのだろうと思っていると、乱太郎はゆっくりと口を開いた。
「あの、タカ丸さん
……
っ。」
「うん?」
「
……
もう一回だけ、ギュッてして欲しいです
……
。」
「
……
ふふ、可愛いなぁ。もちろんいいよ?」
「えへへ~。」
再びタカ丸の腕の中に収まった乱太郎を優しく包み込むように抱き締めながらタカ丸は思った。ああやっぱり離したくないなぁ
……
と。
このままずっとこうしていたいと思う反面、時間というのは残酷なもので刻一刻と過ぎ去っていくため、いつまでもこうしているわけにはいかない。と心を鬼にして、タカ丸は名残惜しさを感じつつもそっと乱太郎から離れた。それを合図に乱太郎はタカ丸から離れ、見送るために玄関へ向かう。
「それじゃあタカ丸さん、行ってらっしゃい。気を付けて。」
「うん。乱太郎くんもね、また大学に着いたら電話するね。」
「はい!」
元気よく返事をした乱太郎の頭を撫でたタカ丸は、今度こそ彼に手を振って家を出て行き、自身の職場である美容室へと向かって行った。冬は寒くて好きではないけれど、乱太郎と一緒にこうして過ごすようになったおかげで最近は少し好きになれたかもしれないな。と、冬という季節の見直しをしたタカ丸は鼻歌を歌いながら、からっ風が吹いている通勤途中の道を歩いていくのだった。
了
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