2026-02-23 20:39:41
1184文字
Public 刀他腐向け
 

わがまま(福→にほ)

2024年8月14日にTwitterに投稿したものを少しだけ修正したもの フクチャンとにほんごうはくっつきません

 ある日、福島は内番道具と酒を仕入れるため、日本号と万屋を訪れた。万屋には日本号の好みをよく知る馴染みの店主がいる。が、この日は店主が不在で、若い店員一人のみで対応にあたっているようだ。
 福島が知る限りでは、この店員は普段は品出しを手伝うことが多く、審神者や刀剣男士とのかかわりは少ない。店員は、福島と日本号が来店した直後は遠くから様子を見ていたが、来客がほかにいないためか、二口のそばに来て商品の簡単な説明をしてくれた。日本号と福島はそれに相槌といくつかの会話をしていると、店員は刀剣男士に興味があったのだろう、さらに二口に本体や防具について話を振ってきた。特に、日本号への興味が強いようで、先ほどから本体を盗み見ている。
 日本号は言葉に反応を示すものの、店員には目をくれず、手元の商品を見ている。店員はその反応の薄さに気付いていないようだった。もしくは、あえて気付かないふりをしているのかもしれない。
 ついには店員の手が日本号の柄にのばされた。日本号を誉めそやす言葉までは穏やかに聞いていた福島の笑顔が固まる。と同時に、
「ああ、号ちゃん、そういえば買い忘れていたものがあるよ」
と福島は日本号の腕を引いた。店員から日本号を離し、店員に目を向ける。福島はありがとう、もう大丈夫そうだとやさしく微笑むが、その目は笑っていなかった。店員は少し怯んだらしい。その後も近づこうとするようすはあったが、福島はその人を近づけさせなかったし、話しかける隙も与えなかった。
 会計を済ませ、店を出て一つ目の角を曲がったあたりで、日本号はため息をついた。
「あんまり人間をむやみに怖がらせるなよ。それもあからさまだ」
「ごめんね。でも俺が嫌だったんだ」
 当然日本号も、店員の不躾な手には気付いていたし、福島が防いだことも分かっている。日本号が拒否をしなかったのは、それより早く福島が動いたためだった。
 福島は、それが自分のわがままだと分かっている。だけど、日本号を失ったときの悲しみと、悔しさを覚えているのだ。元の主である友則の感情に引っ張られている自覚が無いわけではないが、福島自身が嫌だった。

「号ちゃん、誰かのものになるときは教えてね」
 日本号は目を瞠り、次いで笑った。
「何をばかなことを言っているんだ」
 今は同じ主のものだし、たとえ人の身を得たとしても「物」だから、誰のものになるか自分で決めることはできないだろう、と日本号は言う。
 福島が言いたかったのは、思いを寄せたりする、心の所在も含んだものだ。日本号はそこまで気付いていない。福島は少し泣きそうになりながら日本号に微笑んだ。
 日本号は自分のものになることはない、と福島は思っている。だから多少格好悪くても、今だけはわがままでいても良いでしょうが、と自分に言い聞かせて、日本号のそばにいる。