2026-02-23 20:17:32
1793文字
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kiss!

ヒュビビ16作目
男性目線って本当に書くのが難しい
好いた相手に対してはとことんアホであれ、という思想が色濃く出てしまうので

「おかえり。早かったな」
リビングに入ってきたビビアンに、そう声をかける。彼女は、パエトーンの家にチョコレートを届けに行って、1時間もしないうちに帰ってきた。ここ数日、ずっとチョコレートの研究をしていたのは知っている。昨日の夜から徹夜で、ぎりぎりまで試行錯誤を重ね、14日もほとんど終わりがけのこの時間に持っていったのだ。彼はきっと、ビビアンの熱のこもった自信作を、快く受け取ってくれたことだろう。
ヒューゴ」
彼女は俯き気味で、よたよたとこちらに向かってくる。
?どうした。渡せたんじゃなかったのか」
今にも倒れそうな様子に、慌てて近寄る。身体を支えるように抱き留めると、ビビアンは胸に顔をうずめたまま、動かなかった。
ビビ。大丈夫か」
……
「ぱ?」
「パエトーン、さま
恍惚の表情で、ビビアンはとろりと幸せそうに笑った。体調が悪いわけでないなら良かったが、拍子抜けした。体内の熱が下がっていくのを感じる。
「彼は喜んでくれたか?」
「はい。喜んでくれた上に、その場で、口に。私の
……
「私のチョコを、口に含んで。笑顔で、『美味しい』と
彼女の耳はみるみる赤らんでゆく。聞きながら、彼女の背中に添えていた手をさりげなく離していた。聞いていて楽しいと思えないのは、親心ではない。かつて本気で、自分の身に何かあったら託したいと思えた相手を、そんな感情で否定するわけが無かった。分かっている。
「カウンターの後ろ、チョコであろう箱が大量に積んであったのにも関わらず、ですよ!?私のチョコは、渡したその瞬間に、目の前で召し上がってくださったのです」
冷えた感情の俺を知ってか知らずか、彼女は一転して力強く語りだした。
「大量に、か。彼も大変だな」
「人のこと言えないでしょう。ほら」
彼女の手から渡されたのは、可愛らしいリボンがついた、ピンクのラッピングの箱だった。
「きみ?」
「私じゃないないのです。ご近所に住んでる女の子が、貴方のいなかった時間に家の前でうろうろしていたので、受け取っておきました」
「ああ、あの子か」思わず早とちりしたのが妙に恥ずかしい。彼女の選ぶデザインにしては幼いと思った。
「それに、キッチンに無造作に積まれていた箱や袋も見ましたよ。ご丁寧なお手紙つきで。情報屋のおばさま、贋作師のお姉さま挙げたらきりがないのです」
「はは。社交辞令みたいなものだろう」
「モテる男性は大変ですね」
そうかもしれないな」しかし、一番欲しい相手からは、未だに渡されていないのだ。
「はあ。さっきから、態度に出すぎなのです」
。君も存外意地が悪いな」ここまで焦らされたのだから、少しぐらい許してほしい。
「いじわるは貴方の方なのです」
「む
くちびるに何か押し当てられた。見ると、コインチョコレートだ。
「それで我慢してください」
。ありがとう」
少し残念に思ってしまったのは、欲張りすぎか。雑に銀紙をはがして口に放り込むと、慌てた様子の彼女が目に入った。
「ちょっと!もっと味わって
「味わうもなにも、いつもの
いつもの味、といいかけて、そうではないことに気づいた。市販品の大味とは大違いで、ほろ苦さの中に繊細で柔らかな甘みがあった。芳醇なブランデーが香る。
……
手作りのクオリティとは思えなかったが、銀紙をよく見れば、モッキンバードの意匠になっている。随分と凝ったつくりだ。
「ちゃんと手作りなのです。時間かかってるんですから、そんな投げやりに食べないでください
……」自分の感情が処理しきれない。
「ちょっと、大丈夫ですか?もしかして、不味かった?」彼女は、怪訝そうにこちらを覗き込んだ。
「今まで食べた物の中で一番美味い」
「なんですかその早口。というかお世辞にしてもヘッタクソなのです」
「世辞じゃないからな」
「はあ」彼女は呆れ顔だが、唇は弧を描いている。
「ビビアン、ありがとう」
はい。どうも。あ、ヒューゴ。ちょっと屈んでもらえます?」
「なんだね」
少し腰を曲げると、しなやかな動きで、くちびるが重ねられた。あまりにも自然で、今何が起こったのか理解したのは、彼女が自分から離れて、艶っぽい表情で笑ってからだった。
「確かに、今までで一番美味しいですね」