愛の告白なんてものが付随することはもはやありえないが、やたらと菓子が集まる日である。クラーリィは机に積み上がった包み紙を上から順に開いて中身を改めながら、チョコレートの香りだけで胸焼けがしそうだと俯いた。果物の皮が混ぜられていようが、表面にココアや粉糖を纏っていようが、中にクリームが入っていようが、チョコはチョコだ。
「相変わらず、すごい量ですね……」
リュートは、もはやチョコレートの塔と言うべき贈り物の隙間からクラーリィを覗き見た。生徒会の日誌を提出しに理事長室へやってきたのだが、はじめはクラーリィがそこに座っていることに気がつけなかった。種々のラッピングが施された箱が彼の姿を隠していたのだ。
「最近はこういった贈答も控える向きがあるというのに、未だにこういう気遣いを受ける」
「気遣い、ですか」
大人にとってはそんなものなのだろうか? 学生達の間では、つまりリュートにとってはこの類の贈り物には往々にして恋愛の色が乗るものだが、大人になればお歳暮感覚になるらしい。
うんざりしているようだが、それでもクラーリィはひとつひとつ丁寧に開封して律儀に中身を確認している。無碍にはしないところも渡し甲斐があると見込まれている所以だが、当のクラーリィはそれを知らない。
「癒着や賄賂を疑われても困るからな。ここに残っているのはそういう心配のないものばかりだが、それでもこの量だ。おまえ、少し食っていってくれ」
内緒でな。と、いつになく子供っぽく扱われたようでリュートは少し格好つけたくなったが、その方が余計に悪いだろうかと思い直して大人しくクラーリィの隣にあるスツールに腰掛けた。
「これは梨を干したものにチョコがかかっている。これは花を蜜浸けにしたのが乗っているな。それからこれは、キャラメルソース入りだ。ああ、こっちは酒が入っているからおまえはやめておけ。あとは――」
クラーリィはチョコレートの特徴をつらつらと説明しながらリュートの好みに合う(子供が好きそうなもの、という基準だ)と判断したものを選り分けていく。
リュートは口の中にとろける幸福な甘さに目を輝かせた。目は口ほどにと言うが、菓子を口に含んだ喜びが隠しきれず現れていて、見ているとつられて笑みがこぼれそうなほどだ。
「とてもおいしいです! でも、あの、理事長」
リュートはもごもごと一生懸命に咀嚼し、口の中のチョコレートを名残惜しく飲み込んでから師の勢いを止めた。既にその手の中には次のおすすめである野いちご色のチョコレートが納められている。甘酸っぱい香りが鼻先に漂って、気分は夢心地になる。
「なんだ。溶けやすいから早く食ってもらえると助かる」
「あのっ。……じ、自分で食べられますから」
「……んっ?」
クラーリィは自分の手とリュートに順番に視線をやって、それから顔を側めて気まずそうな舌打ちをした。親鳥と雛鳥の図になっていたことに今はじめて気が付いたのだ。無意識の行動を、それも甘やかしでしかない行為を指摘され、言い訳のしようもなく決まりが悪かった。
目を合わせないままチョコレートを差し出されたので、リュートは今度は口ではなく手の平でそれを受け取った。
「あの、すみません。次々にくださったので、言い出すタイミングを逃してしまって……。あ、これもすごくおいしいです。ちょっと酸っぱい」
手の平に溶けて僅かに付着したチョコレートをハンカチで拭き取りながら、リュートは唇を尖らせて果実の酸味を味わった。
「幼い頃、よく妹に菓子を分けたが……その時の調子になっていた」
「あ、ボクも弟や妹にやりましたよ。嬉しそうに次のお菓子を待ってたりして、かわいいんですよね」
クラーリィはそれに返事をすることが出来なかった。確かにかわいい。コルもそれはそれはかわいくて、いくらでも甘い菓子を手ずから運んでやりたいと思ったものだが、今それを肯定するということはリュートをかわいいと言っているのと同義ではないか。
「……残りも少し分けてやるから、兄弟にもやるといい」
恐縮するリュートにチョコレートを押しつけながら、クラーリィは相変わらず部屋に漂う甘ったるい匂いに心の中で八つ当たりをした。
あくまで、これにつられてやってしまったことだと。
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