「良い感じの新聞のネタあった?」
「ううーん、微妙かな
……」
トコタとカスミは校内に掲示をする学内新聞の為にネタ探しに奔走していた。いざ探し始めて彼方此方に足を伸ばしてみると不思議な事だらけの国には当たり前の不思議はあっても、飛び抜けて変わった事というのは見当たらなかった。探し始めてからいくばくが経っただろうか、時計を持たない2人には分からなかったが朝食で満たされていたはずの腹の中は既に空っぽになってぐうぐう楽器のように鳴り響いていた。
「ねーえ、ネタ作っちゃおうよ、全然見つからないし」
「それは
……私の記者魂にかけてダメ!」
皆んなに見てもらうものに嘘は絶対にダメ!とこだわりを見せるカスミであったがネタ不足に困っているのは事実、どうしようと頭を悩ませていたらまたお腹の虫が鳴いていた。
「
……一旦ご飯食べない?お腹すいちゃった」
「賛成!」
レジャーシートを広げて家から持ってきたお弁当をそれぞれ開くと中には黄色くぷりんとした黄身が巻かれた甘いだし巻き卵にピックに刺された緑色が鮮やかな枝豆、俵型に成型されてふりかけが練り込まれたおにぎりなど色とりどりに詰め込まれた食事が2人を出迎えた。
「やっぱさ〜2人じゃわかんない事もあるし人呼ぼうよ」
「でも
……誰を呼ぼう?ヤヨヅカちゃんは用事あるって言ってたから」
「うーん、あエメリーとか!」
エメリー•メリー、よく眠り、よく食べる水の魔法少女。内周である此処から外周にある彼女の家までは多少距離はあったがまだ天体は太陽の皮をかぶって強く瞬いている。今すぐ呼べば空が夕に染まる前に合流する事ができるだろう。桜の木の噂を教えてくれたのも彼女だった。きっと他にも不思議な事をよく知っている筈だ。
「エメリーは道に生えてる草も食べるからね、あとノートにメモもしてるからとこたよりもっと色んなこと知ってる」
「逸材ですね
……早く予防」
「おっけ1位かいいえに会えって電話しよ」
「ちゃんと食べてからしゃべってね」
はーい、と気楽な返事を返して食べるペースを上げたトコタに負けじとカスミもお弁当に手を付ける。ご馳走様でした、と号令を上げたのは同時だった。重なった声にふふふと笑い声をあげてお弁当箱を袋に詰めたら2人はトコタの家に走り出した。
走ること10分、息も絶え絶えに玄関を開け、靴を揃える手間も惜しんで固定電話の元へ辿り着いた。
「
……もしもし、トコタです。エメリーちゃんはいますか!」
「えっとね〜カスミちゃんと今2人でね
……そう!一緒に行こ!」
「場所はこの後遠くに行くから駅集合でまた後でね」
「
……読んだらすぐ来るって、」
エメリー暇だったからずっとご飯食べてたんだってさ、そう付け加えられた様子からエメリーは今日も平常運転なようだった。幼馴染と共に国中を探索できる機会を手に入れた少女はにこやかに、今にでも鼻歌を歌い出しそうだ。
「よかった、心強い仲間が増えたね」
「うん!、そうだついでに靴置いてっちゃお」
「」
日が暮れるまでまだまだ猶予は残されている、心持ち軽く、親に行き場を告げて先ほど飛び込んだ扉から今度は弾丸みたいに飛び出していった、今日は3人集まって日が暮れるまで国探索をしよう。
・
「ティアちゃん怪我してる
……」
資料館から出て海に向かう最中、動けずに蹲っていたティアの元に偶然ヤヨズカは通りがかりその惨状に怯えながらも駆け寄った。
急いでティアの身体を押し潰す車椅子を起こしたヤヨヅカは想像以上の質量を持つそれにぐらぐらふらつきながらも細腕で車椅子を持ち上げる。のしかかった重りが消えたティアは冷えた足に巡回する血の巡りを感じながらも身体を起こした。
「その、
…………………あり、がとう。君がいなかったらどうなっていた事か」
「ううん、役に立ててうれしい」
「君はどうしてここに?」
「うん、えっとね、お花を買いに来たの。庭のお花が動物さんに折られちゃって。今日は
……体調もよかったから」
「枯れないお花があったら良かったのに、きっとずっと綺麗なままでいたらいいのにね、わたしもいたいのは苦手、だから」
「そうしたらお母さん買い物に行くって、着いて行こうと思ったんだけどレオンと一緒に」
ヤヨヅカは矢継ぎ早に、自分の放った言葉を次の言葉で覆い隠すようにして言葉を紡いでいく。
「早く怪我の手当をしなきゃ」
「ああ、
……いや、それよりも向かわなければ行けないところが」
「
……?」
海に行きたいんだ。まるで何か大きな覚悟を決めたような、恐ろしい真実へと辿り着こうとしている質量を持った言葉に、ヤヨズカは不思議そうな顔で首を傾げた。
「確かめたい事がある、海の先に」
「何かがあるの
……?」
「あるかもしれない。何も
……ないのかもしれないそれを確かめに行きたいんだ」
「それってまたあの日みたいに夢見たいな、不思議な事が起こる?」
真実は空想と隣り合わせ、空想の先には必ず真実があり、それは一人の少女にとって目を覆いたくなるようなもので、一人の少女には道の先にある到達点だった。
「君にとって良い結果がもたらされるとは限らない」
「ぅ、
……でも、ティアちゃんをこのままほおっておけない」
「僕の探究に付き合ってくれるか?」
「
………………」
悩んだ末にヤヨズカは頷き、差し出されたティアの取り誘われるようにして歩き出した。
・ ・
簡単な治療を終えてティアとヤヨズカは海へとだどりつく。波はしんと音を立てずに嵐が来る前のような静けさを抱えてふたりを出迎えた。
「海を調べるってどうするの」
その問いに、手段は幾つか考えてあるとティアは魔法少女の姿に変身しながら答えた
「一つは僕がこの黒聖の国を抜けるまで飛び続けること、もう一つは
……船のようなものを借りれればそれを使って同じようにこの地平線の先まで行けるかもしれない」
眼前の地平線は遠く、先まで行くには二つ目の手段を使うことがもっとも効率的だろう。
「でも船を借りるにはお金もかかるし大人の人がいないと難しい
……のかな」
ヤヨズカの意見は正当な疑問であり、船を借りる手段に踏み出せないでいる大きな障壁であった。思い当たる当てもなく、そもそも大人が子供の小さな疑問符に耳を傾けてくれるかも怪しいのだ。ティアが抱いた疑問はこの国で長く生活している大人たちにとってはくだらないと一括されるような、そんな世界に対する反感は異端だと、蹴散らされてしまうかもしれない。
そんな沈黙が訪れる2人の間に差し込む一筋の光のような冴えた声が遠くから聞こえた
「ヤヨヅカちゃん〜 ティアちゃん〜!!」
砂に足を取られながらも楽しげに近づいてくるのは、駆け寄ってくる3人の少女。
「トコタ君にエメリー君じゃないか」
「カスミちゃんまで、みんなどうしたの?」
「3人でスクープ探しをしていたんだよ、でも遊んでばっかで眠くなってきちゃった」
うとうとと目をこすりながら答えるエメリーにトコタはそれはいつものことでしょ!とやじを投げかける。
「ヤヨヅカちゃんとティア先輩はどうして
……ってティア先輩!包帯巻いてる!?怪我は大丈夫ですか」
「ああ、大したことではない、それよりもこの中に船を借りるあてがある人はいないか?」
「船?だったら僕のお父さんの知り合いに漁師のおじさんがいるからその人に聞いてみる?近場だからすぐに借りれると思うよ」
エメリーの言葉を聞いてティアとヤヨヅカは顔を見合わせた。
「ほんと
……?今ね、ティアちゃんと海の果てまで行こうって話していたの、何があるのかなってティアちゃんにも分からなかったから探しに行こうって
…………」
「海の向こう〜?普通に島があるんじゃないの?」
「僕もそう思っていた。だが、その島を見たことは?名前を聞いたことは?少なくとも僕は一度も聞いたことがない」
「確かに
……これは大スクープですよ!」
「どうして疑問に思わなかったんだろう、それがわかったらぼくらのスクープ探しにもなるよね」
そうと決まったら善は急げだ、エメリーの導きを受けて船を借りに近場の漁港に向かい、少女らは魚を降ろしている中年のおじさんに話しかけた。驚いた顔をしながらも今日の分の漁は終わっているから、何よりもエメリーお嬢さんのお父さんにはお世話になっているからと気前よく漁船の運転まで引き受けてくれた彼にお礼をし、少女らは小さな漁船に乗り込んだ。
「出発進行!!」
掛け声と共に漁船のエンジンは勢いよく唸りをあげて水面の水をかき分けて進み始める。水の魔法少女たちからすれば見慣れた光景だが陸の魔法少女、天の魔法少女たちは水辺の警備につくことは少ないため物珍しそうに眺めていた。
……もう何十分経っただろうか、「そろそろ国に戻るぞ」と低い声が船内に充満して少女らは顔を上げる。先を見ると見慣れた黒聖の国の浜辺がそこに在った。
「あれ?ここって黒聖の国だよね
……」
「そりゃそうだ、国を真っ直ぐ出たからな、さっきの漁港の反対側の岸に付いたんだ。言われた通り旋回もしてないぞ」
さも当然だと言わんばかりに漁師はそう告げた。
「ティアちゃん、これって
……」
「
…………もう一度、引き返していただけますか」
「ん?嗚呼それはいいけどよ」
引き返す時間は行きに比べて随分と長く感じた。浜につく前にぐるりとUターンをして来た海路を引き返せば到着点もまた乗り込んだ船が出発した漁港。
世界は途切れてはいなかった、だが本来捲られるはずの絵本の先と先が繋がっているいるような、これではまるで、箱庭だった。
「でも考えてみれば漁師さんの言うように当たり前のことなんですかね
……」
「うーん、そう
……かな、そうなのかも」
カスミの声に同意するようにヤヨヅカも頷こうとする。
「
……いや、そんなはずはない」
海の外は、国の外はある筈なんだ。そうでなければ僕が調べたファイルの数々に記されていた記録との整合性が取れない。だとしたら何故今まで誰も疑問に思ってこなかった。認知を歪める魔法がこの国にでもかかっているとでも言うのだろうか、誰がそんな事を。
ふと脳裏をよぎるのは黒い像。ヘルーレネペト派で知識と真実の女神とされる神。国中全てに影響を及ぼすほどの強大な魔法を使うことができる存在は神以外にいるのだろうか。
・ ・ ・
場所は巡り巡って白黒魔法少女の元へ。
「メイク上手く決まらない〜!!ってこんな時間!?」
魔法少女歴も長く今回の警備でも最年長として引率を任されているヒメは誰よりも集合場所に早く集まらなければならなかった。ただでさえ自由奔放な少女達だ、様子を見ていなければ気の向くまま何処かに行ってしまうような少女だっているだろう。
「場所は海岸だっけ?ああもうっあそこ遠いんだから今日はショッピングにも行く予定だったのに〜」
プランパーを塗って膨らみを出した唇の上に薄桃のリップを塗り重ねてティッシュを軽く食む、再度鏡で確認を終えたら街に繰り出した。住宅街の中にも小さなカフェや雑貨店が並ぶ中、古ぼけたレンガ作りの店が目に入った。宝石屋の看板がかかげられた店を覗き込んでみると目を奪われるような緑色の宝石が視界に入る
「綺麗
……」
ペリドットみたい、雫型にカットされた宝石には他に立ち並ぶ宝石にはない魔力のような、人を惹きつけてやまない魅力が潜んでいた。
「この宝石が気になるかい?」
店の奥から老婆が出てきてヒメに声をかける
「これも何かの縁だろう、持っていきなさい」
「でも、ヒメちゃん宝石を買うお金、」
「ただでいいよ、この宝石も外に出たがっているんだろう、だからアンタに目をつけたんだ」
ほら、どうぞ。嗄れた声の老婆はヒメの手にそっと宝石を乗せて手をぎゅっと握らせた。
「見たところ急いでいるんだろう?お代はいらないから早くおいき」
「ありがとう、ございます
……?」
要件は終えた、と言わんばかりに店に引っ込んでしまった老婆に疑問を抱きつつ、その手の平に収まった宝石を太陽に掲げてみる
「なんだかよく分からないけどツイてるかも」
メイクは上手く決まらなかったが思わぬ収穫に気分をよくしながらヒメは駅へと向かった。
・ ・ ・ ・
「さて、皆集まっているかな?」
「ユーカちゃんこと呼んだ?いぇーーい!!ぴすぴす」
天の魔法少女の点呼を任されたユウマは周囲に集まっている数十名の魔法少女達の姿を確認して数回手を鳴らす。個性豊かな少女をまとめるのには一苦労だが、仕事は仕事、特に今回のような警備には個ではなく集団の力が必要だ。
「今夜は素敵なお姫様達が集まってくれて嬉しいよ。何となく予想がついているとは思うけど毎年恒例のトリ狩りの日がやってきたみたいだ」
説明も半ばで個人行動を好むユウカは飛び出していき能力を発動して敵と見分けがつかない姿に擬態した。敵の群れは新たに加わってきた羽を特に気にかける様子もなく列をなして飛んでいる。
「味方と敵の区別もつかないとか、やっばWW今回も楽勝で勝っちゃうもんね」
敵の背後から蹂躙していくかの如く葬っていくユウカはどんどんスピードをあげていき一つの塊をほとんど壊滅寸前にまで追いやった。
「MVPはユーカちゃんで決まり!」
上空で宣言するユウカを見て負けじと他の天の魔法少女も続く、ユウマも後輩の魔法少女達の手助けをしながら魔法で呼び出したシャンパンボトルで応戦していた。
それと同時期にティアたちも遅れてトリ狩りの現場に向かっていた、天の魔法少女であるティアだけではなく、行動を共にしていた魔法少女らも引き連れて。
「トリ狩りって敵がたくさんいるの
……?」
「そうだな、渡り鳥の性質をなぞる分敵も多い、魔法少女も大勢集まってるはずだ」
「そう、なんだ、
…………ねぇティアちゃんの中に入らせて」
敵も魔法少女も大勢集まる場所には慣れないヤヨヅカは魔法でティアの中に入り込みティアの金色の目からどろりと白い蝋の花が咲いた。
「僕としても心強いから構わないが
…………」
「ティアは戦ってる最中に塩水に当たらないか心配なんだよね」
「なっ、君!」
「トコタの中でもいいのに〜」
「トコタちゃんの中は塩水で一杯だからね
……」
敵前とは思えないほどマイペースな会話を繰り広げながらもうすぐ到着するだろう、と思っていた矢先、夜が引きづり下されて太陽が登って来たかのようなまばゆい閃光と少女の声が彼方から響いた。
「ねえ、あれ
……誰?」
「トコタ、どっかで見たことあるような気がする」
トコタがその場で足を止めて魔法少女を見上げる、此方に背を向けた太陽の魔法少女が手を天に掲げると、天体が落っこちてくるみたいに大きな魔法で地上は光に包まれた。

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光が収まった先、そこには敵の姿も魔法少女の姿もなく、ただただ屍の山が広がっていた。
つづく