死ぬ前は季節が冬だったし、前の街も寒さを感じるほどの気温だった。そもそも必ずしも生前に来ていた服を着てこの場所に来ているというわけでもないらしいし、着替えについて気にしている人間は少数派なのかもしれない。
主に臭いよって言われなければ、こっちだってわざわざ巡礼の最中に荷物を増やしたりはしたくない。
「用意周到ですね素晴らしいです。私ももらってくればよかったですかね」
制服のままだと合わせる服が難しそうだ。
どこの国風といえばいいのかわからないが、この国の服は体を締め付けないゆったりとしたデザインをしていて、日本人の感覚でいうフォーマルからは程遠い。
「ここの服だとちょっとエスニックな感じになりすすね。防御力弱めというか、緩めな感じ」
ここの人たちはそれを標準として生活しているのだから、別に緩い格好を意識しているわけではないのだろうけど、それはそれ。
日本人には日本人の感覚がある。
「そうなんですよね。ボタンの多いシャツが欲しいのですが、この街では難しいですかね」
蛇口は思案している。
「サイズ合うなら、着ます? あとで部屋から持ってきますよ」
身長が同じくらいだから、着られないこともないはずだ。
好みのデザインかどうかは別だが、少なくとも夏場に来ていて体を壊さない程度に薄手の布地もひっくり返せばあったはずだ。
「いいんですか。恐れ入ります。あの青に近いシャツはありますでしょうか」
青。あっただろうか。
「え、青かぁ。緑ならありますけど」
そもそもここに来るときに来ていたシャツが緑色だ。
もちろん洗ってあるから汗臭いままなんてことにはならない。
「代わりの服が見つかれば、洗ってお返しします」
「え、いいですよ。いうて、ここでたら多分手元からなくなってる服でしょうから」
そもそも、お金を出して買ったものでもない。実験に協力するとか、サンプルが欲しいとか、物々交換しませんかとか、あの手この手で頼みこんで譲ってもらってきたものだ。
きっと服だって、次の階層に行けばその階に似つかわしいものが見つかるはずだ。こだわりがなければ、なんだって切ることができる。
「緑でも助かります。制服のシャツの色に近しいものがあればと思い。わがままを言って申し訳ありません」
「いいえ〜。じゃ、ちょっと涼しいとこで待っててください。とってきます」
部屋に戻っても津鞠の姿はない。彼女も街に散策に行ったのだろうか。床に落ちている布の色調がわかっているから、着替えていったことに変わりはないはずだ。
自分のなわばり……もとい寝床から、未使用のシャツを引っ張り出す。緑か青のもの。
何枚か見繕い袋を探したが、入れるものがなかったのでそのまま手につかんで渡しに行った。
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