兎人
2026-02-22 22:06:16
988文字
Public TRPG
 

トッピング【ゾスク現未❌】

愛する申くんに捧げる短い文。
お誕生日おめでとうございました!

 リビングで欠伸を一つ。昼前の温まった空気が窓から入って、ワタシの頬を撫でた。何となく付けた点けたテレビでは、アナウンサーが最高気温や開花宣言の原稿を読み上げている。つい最近までショコラの話題で持ち切りだったのに。少しの驚きと牛乳をマグカップへと注いで、レンジへと入れる。これで手軽にココアを作れるらしい。
 この調理方法を教えた帳本人とは話せていない。顔を合わせるのが気まずいのだろう。理由は言われずともわかるが、逃げられれば追いかけたくなるのが摂理というものだ。とはいえ。
……本当にそれだけかしら」
 自身の脇腹を撫でる。その下には薄くなった噛み跡があった。身を差し出した従順な彼。牙を突き立てた獰猛な猿。互いに貪った時の高揚と悦楽。それらを思い返すだけで、身の内で獣が荒い息で唸り声を上げた。もし誰にも邪魔されず、全てを暴けたのなら。
 軽快なバネの音で意識を呼び起こされ、扉を開ける。どうやら加熱しすぎたようだ。レンジの中では牛乳が吹き零れて、底のプレートを真白に染めていた。ため息を吐くと同時に、背後から台拭きが差し出される。
「ほら。これで拭けよ」
「あらイズミ、いたのね」
「いたのねって何だよ……。そりゃ家なんだからいるだろ」
 件の彼──呻呶 イズミは呆れたように、その癖っ毛を掻き混ぜている。足音もなく近づくのは前職の影響だろうか。イズミは調理台に置かれた材料を見て、何を作ろうとしたか察したようだった。
「前に教えたココア、作ってたのか?牛乳は暴れがちだからな〜」
「ええ。目を離してたのも悪かったみたい。様子を見ながら温めてみるわ」
 最初は失敗するよな。そう笑う彼を見て、獣の唸りが遠ざかるのを感じた。暴きたいのに包み込みたい。食い散らかしたいのに残しておきたい。酷く優しくしたい。それでも可愛らしくて頼りがいのあるイズミが、大切で愛おしいのは変わらない。
「イズミにも作ってあげるわ。バレンタインの材料が余ってたはずだから、トッピングでもしてみる?」
 戸棚を開けて並べていく。雲のようなマシュマロや香しいシナモン、煌めくシュガー、色とりどりのジャム瓶、少し辛めの生姜チューブ。黒く熱いそれを覆い隠すか彩るか。
 焦る必要はない。今は心弾ませる彼を見ていよう。ワタシは零れる笑みをそのままに、マグカップへ匙を突き入れた。


【END】