ベッドでひと遊びして、ふたりでまどろんでいた時だ。肩口にひやりとした風が入りこみ、目を覚ました。時計は二三時をまわっている。一時間くらいは寝ていたのか。二月の夜は寒い。桐島さんを冷やしてはいけない、と布団をぐっと引き寄せた。
「きりしまにゃん、さむくないにゃん?」
自分の声だと受け取るまでに、少し時間がかかった。思わず目の前の人の口元と目を確かめたが、彼は彼できょとんとしたまま、ただ俺を見返していた。
やめて。そんなふうに見ないで。
寝起きの空耳であってほしいのに、そんなに見つめられたら、やっぱり聞かれてたんだなって思うしかないだろ。
「え?もう一回ええかな?」
「ちがっ、ちがうにゃん!」
ああ、だめだ!違わない。これは俺の声だろ。おかしいだろ。
「要くん、違うんやったら、もう一回言うて?」
一瞬で理解したらしい桐島さんが、口元に浮かんだ笑いを隠しもせず、楽しそうに聞いてくる。この人の勘のいいところこそが好きだ、と思う時と、勘のいい奴なんてろくなもんじゃない、と腹が立つ時があるけれど、今はもちろん後者だった。酷いな。絶対におもちゃにする気だろ。
クッションを掴み、顔に押し当てた。もう、絶対に口を開かない、という意思表示だ。何が起きているのかは分からないけれど、このままじゃ間違いなく弄り倒される。
「あっ、にゃっ、にゃははっ!」
口元に気を取られた、その一瞬だった。脇に指が入り込む。
「頭隠して、脇隠さずやで」
くっそ、やめろよ、くすぐんなよ。
「きりしまにゃん、はなして!はなすにゃん!あにゃっ!」
必死に逃げようとしたけれど、ベッドの中では行き場もない。抱えられたまま、脇から腹へと指が這う。それこそ、猫を撫でるみたいに。
「にゃあぁぁ、やめ……るにゃ……」
口から出てくる声はどうしても猫のような鳴き声になってしまう。俺の口、どうなっちゃったんだ。
「要くん、なんか知らんけど、めっちゃ可愛えやん?」
どうした?
いつもの数倍甘ったるい声で尋ねる桐島さんは、まるで子猫に話しかけるみたいだった。この人、猫派だったのかな?
「わからにゃい……」
喋らないと決めたはずなのに、質問には反射的に答えてしまう。顔を背けたら、そのまま逃げられると思ったのに。桐島さんは俺の頬を掴んで、簡単に向きを戻した。はあ、どんな異変が起きていようと、このでかい手に抗えるわけがない。
「なんや意味分からんけど、今の要くんてばほんまに可愛えわ」
嬉しそうに笑った桐島さんが、俺のおでこにキスをする。思わず「にゃ」と鳴いてしまったのが良くなかったのか、にやりと楽しそうに笑った桐島さんが俺にキスを乱打した。
「ああ、もう、可愛いにゃん」
「え?桐島さん?」
何が起こったかを瞬時に判断した桐島さんは、さっと俺の両頬を掴み、ぐっと唇を押しつけた。
「きりしまにゃん!勘弁してくれにゃん!」
「いやあ、猫語は絶対に要くんの方が似合うやろ」
ババ抜きですぐにジョーカーを切った人みたいな、ムカつくどや顔をした桐島さんの頬を掴み返し、避けられる前に口を押しつける。むちゅっ。
「かなめにゃん!ずるいにゃん!」
「ずるくないですよ。桐島さんと同じことをしただけでしょ」
「にゃん!」
最後は何を言いたかったのかは分からない。伸ばされた腕をするりとかわし、布団の奥に潜り込んだから。暗い中をベッドの端へ向かって這いゆく。
けれどもすぐに追いつかれ、腰をぐっと掴まれた。彼はそこを起点に、背中をずるずると這い上がる。
「これ、首にキスしたらあかんのかにゃ?」
彼は無邪気な調子で呟きながら、俺のうなじに唇をぎゅっと押しつけた。はあ、そこは、ちょっと弱いんだけどな。
「かなめにゃん、びくっとしたにゃん?」
うなじが感じやすいって知ってるにゃん。
可愛い口調で腹の立つことを嘯きながら、桐島さんは俺の肩を掴んで、くるりと返した。布団の中は、互いの呼吸でじょじょに熱くなってきた。こたつの中の猫ってこんな気分なのかもしれない。
「ぼおっとしてたらあかんやろ?」
「うにゃっ!」
一瞬の隙をついて俺の唇を奪った桐島さんは、胸の方へと体をずらし、舌を鎖骨に這わせた。
「きりしまにゃん。そこっ、だめにゃん」
「知っとる。ええやん、どうせ布団で暴れるんやったら、さっきの続きしようや」
「にゃっ、にゃぁっ、にゃにゃっ」
「要くん、可愛えなあ」
囁くようにうっとりと呟く彼は、俺を撫で、さすりながら反対側の手でいいところを愛でていく。
「にゃぁ……ぁぁぁ、っ、ふはっ……ははっ、はにゃっ」
気持ちよさと面白さが混じり合い、頭の奥がゆるく乱れる。可笑しくなって小さく笑うと、聞いた桐島さんは動かしていた舌をすっと止め、俺を見上げて楽しそうに笑った。
「いま、アホやなって思ったやろ?」
「うにゃ」
「もっとアホになったろか?」
「にゃ?」
彼は布団の中をごそごそと這い上がり、俺の顔に口を寄せ、チュッと音を立ててキスをした。
「ほら、アホだにゃん?」
彼は嬉しそうに目を細める。その顔が艶やかな猫のようで俺は頭がくらくらとした。はあ、この人といると飽きないな。
「そうです。そして、俺も」
アホなんですよ。
彼の頬に口を寄せ、ふにゃん、と笑ったのを聞き遂げてから、そっと唇にキスをする。
「ふにゃあぁぁん」
それから俺たちは、キスを交わし、鳴き声を交わし、欲を交わして、夜を過ごし。
最後は、毛布の中で、ふたり丸くなって眠りについた。
〆
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