匣舟
2026-02-22 17:12:25
4467文字
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縋る指先の温度

冬リクで頂いた仙乱・冷たい手をあたためる・にょたゆりで書かせて頂きました。
リクエスト下さってありがとうございました🤍

 この地域で知らない人はいないと言われている女の花園である星華女子学院は、他の学校には存在しないであろうスール制度というものがある。スールとはフランス語で姉妹という意味で、上級生が下級生の身の回りの世話をしたり、上級生は常に下級生にお手本となるような行動を心掛け、逆に下級生は上級生の行動を見習わなければならないとされている。
 上級生と下級生がスールになるためには、新学期の一週目にて開催される歓迎会にて上級生から自分の妹だという証であるロザリオを渡されなければならない。上級生にロザリオを渡された瞬間から、下級生は基本的にその上級生の妹と認知され、寮の部屋も一緒になり、生活も行動も共にしなければならない決まりとなっている。
「さ、寒い。」
 雪が降りそうなほどの寒い空気の中、星華女子学院一年生の猪名寺蘭は彼女のスールである三年生の立花仙華のことを待っていた。彼女は約束の時間を守る人なのだが、なぜか今日は待ち合わせ時間を過ぎても蘭が所属しているクラスの教室には来なかった。
 いつもなら教室まで来て蘭。と凛とした声を出して迎えに来てくれるのに。蘭の教室に時間になっても迎えに来なかったときはそのまま教室で待っているように。と仙華から釘を刺されているため、蘭にはこの場所で仙華が来るのを待っているしかないのだ。
 そもそもどうして蘭がこの場所で待っているように。と釘を刺されているのかというと、一度仙華のことを探しに行ったっきり、校内の中で迷子になるという珍事件が起きたからだった。
 星華女子学院は蘭や仙華が在籍する高等部のほかに中等部、そして初等部があり、また高等部になると全寮制になるため、女学生たちが生活する寮も校内にあるので学校自体の敷地面積が広いのだ。
 蘭は高等部からこの学院に入学した者で、迷子になったときは入学してまだ一ヶ月しか経ってなかったことから迷うのは当然であるといえるが、それがきっかけでスールの仙華に待っていろ。と釘を刺されているのだ。
 でも、もうすぐこの学院に来て一年になろうとしているし、もう迷子になんてなりませんよ!と仙華には何度か言ってみたが、私がきみを迎えに行きたいのだ。私のかわいい、かわいいお転婆姫をな。と首にかかっているロザリオにキスされてしまい、何も言い返せなかった蘭は、こうして今でも仙華に迎えに来てもらっている。まあ、今日は迎えに来ることはなかったのだが。
「どうしたんだろう。」
 新入生歓迎会の時に渡された仙華の妹だとわかるロザリオを握りしめながら、蘭は仙華の身に何かあったのかと思ってしまう。でも、探しに行くことはできないし、もし入れ違いになったりしたらいけないのでここで待つしかないなあ。と蘭はカバンの中にしまってあった教科書とノートを開いて今日の授業のおさらいをすることにした。
 仙華はこの学院において一番優秀な生徒で、成績や品行方正なども含めて完璧を絵に描いたような人である。そんな人なので、教師陣からの信頼も厚く、授業のことで何か聞かれたりして遅くなっているかもしれない。
 そんな完璧な姉である仙華の隣に立てるような妹にならなければいけない。と思いながら蘭はシャーペンを動かしてノートへと文字を書いていく。さらさらとシャーペンを紙の上に滑らせながらテスト勉強の時に役立つようにと要点と解説を書いていく。
 仙華の成績が凄すぎて蘭の成績が霞んでしまうことが多いけど、蘭自身も成績は学院内では上位に入るほどで頭もいい。だけど、どうしても数学が苦手で、数学のせいで順位が下がっているといっても過言ではない。まあ、最近はスールである仙華のおかげで少しずつ伸びていっているのだが。
「んー、ここわかんないな……。」
 過去のおさらいを進めていくうちに解らない問題にぶち当たってしまい、蘭は小さく唸ってしまう。何度も教科書と自分が板書をしたノートとにらめっこをしてみたが、あともう少し、答えに行くまでの最後の計算式が分からないのだ。
 あともう少しでわかる気がするけど、わからないままだし、仙華が迎えに来たときに答え教えてもらおうかな。そう思っていると、どこからともなく睡魔が蘭のことを襲った。
 蘭が勉強をしていると、いつの間にか教室に設置されているエアコンの人感センサーが蘭のことを検知し、自動で運転を開始していたのだ。暖房が効いている教室の中は暖かくて、数学の難しい問題に頭を使っていた蘭の前に、尚更睡魔がやってきてしまう。
 でも、このまま寝てしまったらきっと、仙華に怒られてしまうから駄目だと思い、頭を横に振って睡魔を飛ばす。しかし、その瞬間再び眠気が襲ってきて、瞼が落ちてくる。
 だめ、もう少しで仙華さんが来るから、あとちょっとだけだから寝ちゃ駄目。と思いながらも、蘭は睡魔に抗うことなんてできなくて机に突っ伏してしまう。ゆっくりと落ちてくる意識のなかで、蘭はずうっと、仙華さんに怒られちゃうなあ。とそればかり考えていた。
 微睡む意識の中誰かに頭をなでられている気がする。それも、すごく優しい手つきで。うぅん……。と不思議に思いながら寝ぼけ眼のまま顔を上げると、そこには蘭のスールである仙華が蘭の前の席の椅子に座っていた。蘭の頭をなでながら優しく微笑んでいる彼女の姿をみて、蘭は寝ぼけながらも仙華のあまりの美しさに目を細める。
「おはよう、蘭。」
ん、せ、んかさ?」
「あぁ、遅くなってしまったね。眠り姫を迎えに来たよ。ふふ、寝癖がついてしまっているじゃないか。」
 仙華は、眠りから覚めたばかりでしゃきっとしていない蘭のことを慈愛のこもった目で見つめながら、ほら、直してあげるからおいで。と言って彼女の額についた前髪を後ろに流しながら、よしよしと撫でていく。
 眠気を残したまま、仙華のことをぼんやりと見つめていた蘭は、彼女の手を捕まえて頬ずりをする。仙華の手に自分の頬をすりすりとしている彼女はまるで猫のように甘えてくるものだから、仙華は自然と笑みが溢れてしまう。
「ふふ、どうしたんだい?甘えただな。」
「ん~……だあって……。」
「だって?」
「仙華さんの手がつめたくて、気持ちいいんです……。」
「ふふ、私は冷え性だからね。」
 逆に私と違って蘭はあったかいね。と仙華は蘭の頬に手を滑らせる。仙華のひんやりした手は、先程まで暖房が効いた暖かい部屋の中で眠っていて熱を持った蘭の頬にちょうどよく、蘭はその手に魅了されていた。
 もっと触って欲しくて仙華の手を両手で包み込みながら自分の頬に押し当てる蘭を見た仙華は、本当に今日の蘭は甘えただね。と言いながら蘭の頭を優しく撫でていく。
「それにしても、私の可愛いお転婆姫は私が迎えに来る前に眠ってしまっていたみたいだね?」
「うぅ……ごめんなさい。」
「ふふ、別に怒ってるわけじゃないさ。きみのその可愛らしい寝顔を見ることが出来たんだからね。」
 蘭の温かい頬を撫でながらでも、次からは気をつけるようにな。と言って、眠っている時の蘭の写真が映ったスマホの画面を見せてくれた。そこには眠っている蘭のあどけない寝顔が映っており、どうやら仙華に起こされる前に撮られていたらしい。
 仙華は、かわいいだろう?私の眠り姫は。と言いながら頭を撫でてくるが、蘭は恥ずかしさのあまり顔を赤くしながらも仙華の腕の中へと潜り込むように飛び込んでいった。
「ちょっ、なんですかこれ!」
「ふふ、とても可愛いだろう?」
「かわいくないです!消してください!!」
「嫌だよ。こんなにかわいいお転婆姫の寝顔なんて消せないよ。」
「ひゃっ!?」
 仙華はくすくすと笑いながら、自分の胸元に潜り込んできた蘭の耳元で囁き、そのまま彼女の首筋に口づけを落とす。突然のことに驚いた蘭は身体を震わせて肩をすくませてしまうが、そんなことはお構いなしといった様子で仙華は首筋に何度も唇を落としていく。
 仙華の柔らかい唇が触れられる度にぞくぞくとした感覚に襲われてしまう蘭は、いやいやと首を振りながら必死に仙華の胸を押して距離を取ろうとする。
 しかし、蘭の弱々しい抵抗など仙華にとっては子どもの戯れに過ぎず、最後に強く吸い付いて痕をつけた仙華は満足気に微笑みながら、蘭の首筋に咲いた紅い華にそっと触れていく。その際に熱っぽい視線を向けられてドキドキとしてしまった蘭は、思わず仙華の胸元に顔を埋めてしまった。
「もう……!急に何するんですか……!」
「ふふ、きみがかわいくて仕方が無いものだからつい。」
 悪かったね。と仙華は謝るものの、悪いとは微塵も思っていないのが表情から分かる。むしろ嬉しそうに微笑む姿を見てしまっては何も言えないまま黙るしかなかった。そんな蘭の様子に気を良くしたのか、仙華は彼女の頭を優しく撫でながら耳元で囁くように呟いた。
「かわいい、かわいい私の妹、蘭、私の大事なお転婆姫。」
……もう!からかわないでください!」
 仙華の甘い声と言葉に耐えきれなくなった蘭は、彼女の胸元に顔を埋めながら叫ぶ。すると、くすくすと楽しげな笑い声が聞こえてきて余計に恥ずかしくなった蘭はさらに顔を赤くさせた。
「はは、許してくれ。そんなに拗ねないでおくれ。」
「むぅ〜っ!」
 仙華はまるで子どものように頬を膨らませる蘭を見てさらに笑みを深める。そんな様子に呆れたようにため息をつくと、蘭は渋々といった感じで顔を上げた。すると目の前には愛おしそうに自分を見つめてくる仙華の顔があって思わずドキッとしてしまう。
 それと同時に心臓が激しく脈打つのを感じた蘭は慌てて視線を逸らすと仙華から離れようとしたのだが、それを阻止するかのように腰に手を回されて引き寄せられてしまった。
「せ、仙華さん!?」
「大丈夫だよ、誰も見ていないさ。」
 そう言うと仙華は蘭の額にキスを落とす。その瞬間蘭の身体がびくりと跳ね上がった。その反応を楽しむかのように今度は瞼に、鼻先に、頬にと次々とキスの雨を降らせていく。
 最初は抵抗しようとしていた蘭だったが徐々に力が抜けていき、最終的には大人しくされるがままになっていた。そして、最後に唇へと軽く触れるだけのキスをするとゆっくりと離れていく。
「さ、もう帰ろうか。食堂が閉まったら駄目だしね。」
……もう、仙華さんってば意地悪です。」
「ごめんね。かわいいものは愛でたくなる性分なんだ。許してくれ。」
 そう言いながらも反省している様子がない仙華を見てため息をつくと、仕方がないなぁと言わんばかりに苦笑いを浮かべる蘭。そんな彼女に仙華は優しく微笑みかけると立ち上がって手を差し伸べてきた。その手を掴んで立ち上がった蘭は、鞄を持って教室を出て、そのまま細くて長い肌白の仙華の手を繋いだ。そうして二人はそのまま一緒に並んで寮までの道のりを他愛のない話をしながら歩いて行くのだった。