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やまだ
2026-02-22 15:55:10
1791文字
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羅小黑戦記
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2021.11.07 日本語版上映一周年の日に書いた師弟
じゃあこの日にするか、と言ってムゲンがずらりと並ぶ数字の一番上、一番端を指さしたとき、シャオへイはその膝の上で頷いたのだ。
「けどさ師匠、タンジョウビってなんの意味があるの?」
息苦しいほど蒸し暑い日だった。ホテルの部屋に入るなり空調を効かせて、汗を流してからシャオヘイはムゲンの石鹸の香りがする膝によじ登っていた。さっきまで熱いから触るなと言っていたくせに、と笑うこの人と旅をするうち、太陽がぎらぎらとシャオヘイの肌を焦がす季節がやってきたのだった。
「師匠もタンジョウビがある?」
「あったよ。だが随分前に忘れてしまったな」
「だめじゃん」
「私はもういいんだ。あってもなくても変わらないようなものだからな」
「ぼくはいるの?」
うん、とムゲンは微笑んだ。
「いる」
「
……
ふーん?」
シャオヘイのまだ湿ったままの髪を、大きな手がくしゃくしゃと撫でる。知りあったころのムゲンはあんまりシャオヘイを撫でるのがうまくなかったけれど、少しずつ上達しつつある。
「で、タンジョウビって何」
「生まれた日から一年後の同日、おまえが無事でよかった、元気に成長してくれてよかったと祝うんだ。次の一年もそうであるように、と願う日でもある」
「一年ごとにお祝いするの?」
「そう。贈り物をして、ご馳走を食べる」
「ご馳走!」
きっと肉も魚もお菓子も食べ放題なのだ。甘い飲み物もあるかもしれない。誕生日とはなんとすばらしい日なのだろう。ムゲンが忘れてしまっているのがかわいそうになってきた。
口の端から垂れたよだれをムゲンの手がぬぐってくれる。
「ねねねね、師匠、ね、ぼくやっぱり明日がタンジョウビがいい!」
「だめだ。今私と一緒に決めただろう?秋まで待ちなさい」
「ちぇっ」
悔しまぎれに頭の後ろにある体にどしんと寄りかかってやる。痛がるどころか軽く笑ってさえいるムゲンは、まだシャオヘイの頭を撫でている。
たぶんふたりで決めた誕生日にも、こうして笑いながらシャオヘイを撫でるのだ。そう思うと、なんだか胸のあたりがもぞもぞくすぐったい。
「ね、師匠」
「ん?」
「次の次のタンジョウビも、次の次の次のときも、ぼくちゃんと覚えてるからね。師匠がぼくにくれたタンジョウビ、大きくなってもずっと忘れないよ」
ぐるんと上を向いて仰いだムゲンは目をまるくしてシャオヘイを見ていた。しばらく返事をしないで黙りこくって、シャオヘイが何度か瞬きしたあとようやく小さく笑う。ふ、と微笑んだムゲンは、やっぱり優しくシャオヘイを撫でている。
「そうか」
「うん。だから師匠もちゃんとずっとぼくのお祝いしてよね」
「ああ。毎年する」
「うん!」
空調のおかげでムゲンにくっついていても部屋の中は快適だ。けれど朝になればまた太陽が容赦なくシャオヘイを茹であげてしまうだろう。
それでも、もう平気だ。もともと夏は好きだし、毎日がこんなに目まぐるしいのだから、暑い夏もすぐにどこかへ行ってしまうに決まっている。そうして涼しくなればシャオヘイの初めての誕生日が待ち構えている。しかも、なんと一年経てばまた祝ってもらえるのだ。
むふん、と笑ってムゲンに寄りかかる。
「師匠」
「うん」
「しょうがないからさ、特別にぼくのタンジョウビと師匠のタンジョウビ一緒にしてあげてもいいよ」
「いや、私は別に構わない」
「なんで!せっかくぼくがいいよって言ってんのに!」
ふふふ、とムゲンが笑い、膝に乗るシャオヘイの体をごく軽く左右に揺らしはじめた。
「いいんだ。その日はおまえだけの日にしなさい」
「えーっ」
「きっとたくさんの人がおまえの誕生日を祝ってくれる。そのときもらった言葉のすべてをおまえだけのものにして、一年間大切にしなさい。きっとそれがおまえの自信になるから」
「自信」
首をゆらゆらさせながらシャオヘイが繰り返すと、ムゲンがうん、と頷いた。
「自分のことを思ってくれている人がどれだけいるか、よく覚えておくといい。幸福を願ってくれる人の存在はとても大きい」
ふうん、と言って、シャオヘイはゆらりゆらりと優しく体を揺さぶられるまま考える。胸がくすぐったくてしかたない。
たぶん、シャオヘイの幸せを一番考えてくれているのは、わざわざ誕生日なんてものを妖精の自分に与えてくれたこの人だ。
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