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やまだ
2026-02-22 15:39:01
1500文字
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羅小黑戦記
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2021.10.14 一緒に泣いたり笑ったりする師弟の話
「ねえ師匠
……
」
ちいさな手がムゲンの服を引く、その甘えた仕草がいつになっても笑みを誘う。普段はうるさいほど活発なくせに、ねえ、とこうしてムゲンを呼ぶときのシャオヘイはいつも少しだけしおらしい。
「どうした?」
「
……
えっと、その
……
うんと、ぼく疲れたから、だっこして」
「ん?」
小さな山を迂回して、今日はずっと裾野を歩いてきた。まだ昼下がりで、普段のシャオヘイならきゃあきゃあ騒ぎながらムゲンの先を駆けている。
下を向いたまま、シャオヘイは足を止めたムゲンの確答を待たずに慣れた動きで足を登ってくる。疲れたと言うわりにはしっかりした動きだった。
瞬きつつ、ムゲンはそれを眺めている。
腰のあたりまで辿り着いたところを片腕で掬い上げてやると、子どもはおとなしくムゲンの懐に収まった。
猫のようだ。実際彼の本性は猫の妖精ではあるのだが、腕の中で丸まって擦り寄ってくる様子に改めてそう思う。
ふわふわした白い髪の中に、黒猫の三角耳がぺたんと伏して潜りこんでいる。下げた視線でそれらを見つめながら目を細めた。
「シャオヘイ」
「
……
ん」
「どうした?」
同じ質問を繰り返す。シャオヘイはムゲンの胸にもたれ、じっと景色を眺めるようだった。
無視するつもりではなさそうだ。沈黙の合間に、時折ぐっと背筋に力が入ることがある。すっかりムゲンへ体重を預けた体が、うまく言葉にできない感情のやり場に迷って緊張と弛緩を繰り返している。
やがてシャオヘイは途方に暮れたようなため息をついた。ゆらりとムゲンを仰いだ顔の、大きなまなこに水膜が張っている。
「師匠」
瞠目するムゲンの腕の中で、シャオヘイはぽろっと一粒だけ涙を落とした。
「ぼく
……
ぼくさ、なんだかさ、前より弱虫になっちゃった気がする
……
」
「
……
何か嫌なことがあったのか?」
ない、と言いながらシャオヘイはムゲンの胸に顔を埋めた。涙と鼻汁をごしごしと人の服で遠慮なく拭って、皺が寄った衣の隙間から赤い目元を覗かせる。
「ぼくいつも楽しいよ。なのに
……
師匠といると、たまにすごく泣きたくなるんだ。なんで?」
「
……
さあ、なんでだろうな」
子どもの体を抱き直す。柔らかな髪が頬をくすぐるせいにして、ムゲンは声なく微笑んだ。
シャオヘイの過去の暮らしぶりをムゲンは多少知っている。ひとりで肩を怒らせて人間の街を渡り歩く黒猫は常に鋭い目をしていた。あの時間がシャオヘイから奪っていたものが、ようやく戻ってきたということだろう。
「ただ、それはおまえが弱いからではないよ」
「ほんと?」
「修行でどんなに傷だらけになっても、私に勝てなくても、おまえはこれまで泣いたことがないだろ?」
「
……
うん」
シャオヘイはいかにも不承不承、という様子で頷いた。負けん気が強い子のまるい背は、ムゲンが撫でてやるたび少しずつ緊張を解いてゆく。
「強い弱いは関係ない。泣きたくなるなら泣きなさい。そして理由があるときには、できれば私にも話してほしい」
「
……
師匠、呆れない?」
「呆れない」
「
……
師匠さ、師匠も、ぼくといて泣きたくなることってあるの?」
おそるおそるの心許ない声ごと、懐にいる子を揺すり上げた。
「いや。私はないな」
「
……
じゃあ、ぼくだけ?」
「私はね、シャオヘイ」
ひとりで過ごすことが嫌だったわけではない。それでも旅の連れが増えて同じ道を歩くようになったときから、ムゲンのなかで明確に変化したものがある。
それが、口元からこぼれて空気を微かに揺らすのだ。
「おまえといるようになってから、おまえと逆に笑うことが増えたよ」
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