へぶしゅん、と、予想よりずっと大きくて不細工なくしゃみが出てしまった。星を啜って肩を竦めるシャオヘイを、先を歩いていたムゲンが足は止めずに振り返る。はらはらと山道に降りしきる、赤や黄の色あざやかな枯葉が、一瞬だけシャオヘイの視界からムゲンの顔を隠した。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっとむずむずしただけ」
ついこの前までは、外を歩けばすぐに全身汗でべたべたになるぐらい蒸し暑かったはずなのだ。それなのに最近は、急にぞくっとするほど冷えるようなときがある。みずみずしくぴかぴかしていた青葉もすっかり水分が抜けて、今はシャオヘイたちの足下でかさこそ言いながら地面に落ちた栗や胡桃を鳥たちから覆い隠している。
夏もすっかり終わったな、と、この山道を通るときにムゲンも呟いていた。
「だから長袖の服を着ればいいと言ったのに」
半袖から剥き出しの、少しだけ鳥肌の立った腕をごしごしやりながら唇を尖らせた。だってさ、と言い返すための声は、うしろめたさのせいで枯れ葉を踏む足音より小さくなる。
「だって師匠も長袖じゃないし……」
「私は大人だからいいんだ」
「なんで?」
「大人は子どもより体が丈夫だから」
「でも、ぼく妖精だよ」
さすがにムゲンと比べるとちょっと勝てないかもしれないけれど、体の頑丈さでいえば、シャオヘイは普通の人間の大人よりずっと強いはずだ。
ムゲンが歩いた真後ろを飛び跳ねてついて行きながら言い返すと、頭の上からふ、と笑う声がする。
「体が強いことと丈夫なことは、少し意味が違う」
「なんで?わかんない」
追いついた腰に飛びつき、ぎゅっと手足でしがみつく。シャオヘイをぶら下げてびくともしない体をよじ登り、肩に顎を乗せてムゲンの顔を視きこんだ。横目でシャオヘイを待ち構えていたムゲンと視線が絡む。
笑みをたたえてやわらかい目だ。
「おまえは岩がぶつかってきても片腕で防げるだろ?」
「うん」
「だが、腹を出して寝た翌朝はそれだけで具合を悪くする」
「……師匠はお腹出して寝ても平気ってこと?」
「そもそも私は腹を出さないが、そういうことだな。……シャオヘイ」
おいで、と言ってムゲンが懐に腕を構えたので、シャオヘイは喜び更んで肩を乗り越えそこに体を滑りこませた。しっかり抱きかかえられると、触れあう部分からぽっぽと陽だまりに似たぬくもりが伝わってくる。
たぶんシャオヘイは、昔から寒さというものが苦手なのだ。
とはいえ森にいたころは気にしたことはない。故郷を離れて人間のすみかをさまよっていた、あまり思い出したくないあの時間、あのころシャオヘイはいつも寒さを感じていたような気がする。
人間はよくこんなに寒いところで暮らせるな、と思ったことを覚えている。道に炎が立ち、うるさいほど蝉が鳴く日だった。
寒いのはいやだ。どこへ行けばいいかわからなくなって、足がうまく動かなくなる。あんな思いはもう二度としたくない。
「寒がりなくせに体温は高いんだな、おまえは」
ムゲンはずっと、腕の中で具合よく収まる場所を探してもぞもぞやるシャオヘイを支えてくれている。揺すり上げられる感覚が心地よかった。
「そう?」
「ああ。あたたかい」
ふふ、と笑うムゲンにぴったりくっつくシャオヘイの体だってあたたかだ。たまに顔に当たる風すら今はすがすがしく気持ちがいい。鳥肌はすっかり元に戻っていた。
「寒くないか、シャオヘイ」
返事をする前にシャオヘイは深くゆっくり呼吸した。
ふーう、と体から力を抜いて上を向く。
優しく微笑むムゲンの目をまっすぐ見ながら、ううん、と首を横に振った。
「ううん、師匠。ぼくね、もう全然寒くない」
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