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やまだ
2026-02-22 15:25:42
1691文字
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羅小黑戦記
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2021.10.03 隣にいる師弟の話
軽やかな足取りで前をゆく子の背を眺めている。
人ごみもなんのその、歩道に満ちる脚と脚の隙間をすいすい紫用にすり抜けて、シャオヘイはムゲンよりも数歩先のところにいる。行き先はもうこれまでに何度か通ったことのある食堂で、道順をすっかり頭に叩きこんでしまったシャオヘイは、先ほどからほとんどムゲンを振り返らない。
はぐれてしまうから傍にいなさい、と、かつて似たような場面でシャオヘイを嗜めたことがある。
「師匠、でもさ」
するとシャオヘイは目をまるくして、ムゲンの指摘についてまったく考えもしなかったような表情と口調で返事をしたのだ。
「だって師匠はぼくがどっか行っちゃったってさ、絶対ぼくのこと見つけてくれるじゃん。だから大丈夫なの」
あまりにあっけらかんとした声だった。
咄嗟に声が出せず立ちつくしてしまったムゲンをどう思ったのか、そのときは、ちょっと唇を尖らせて結局シャオヘイはひとりで先へ進んでいたぶんを引き返してきたのだった。
まだお互いがようやく、師匠と呼び呼ばれることに慣れようとしていたころの話だ。あれからさらに少しばかり時間が経った現在、シャオヘイはもうムゲンを呼ぶときに口ごもったりしない。
「シャオヘイ」
ムゲンも、今日までに小さな子どもの名前がすっかり舌へ馴染むようになった。
特別声を張ったわけではない。すぐ足下にいるシャオヘイを呼ぶときと同じ声量だ。
それでも人の隙間を泳いでいたシャオヘイはすぐにムゲンの声に気がついた。大きな猫耳を巡らせるのと同じ動作で体がぐるりと振り返る。その両脇を忙しそうな人陰が忙しなく流れつづけていた。
「なに、師匠?」
一度思い出してしまうと懐かしい。懐かしいと思うほどシャオヘイとともに過ごし積み重ねてきた日々があることに微笑み、ムゲンはゆっくり一歩を踏み出した。
「おいで。今日は人が多いから」
「ええっ、いいよ別に」
もちろんシャオヘイはムゲンの懐古を知らないから、不満そうにそう言うのだ。ふ、と笑ってそれを受け入れるムゲンを胡乱な目で伺っている。シャオヘイが立ち止まっているうちに結局ムゲンもその隣に追いついてしまった。
外に向けては意地っ張りで人見知りをするが、シャオヘイは慣れた相手には結構な甘えたがりだ。小さな手が、横に並んだムゲンへ向けて繋いで欲しいと当たり前のように伸ばされる。
握り返した手は少し汗ばんで、あたたかだった。
「なんなの師匠? ぼくこれぐらい平気だよ」
「うん」
ムゲンの手に遠慮なく体重をかけてぶすくれる子と、並んで歩く。
「はぐれてしまうといけない」
「師匠が?」
「
……
まあ、そうだな」
「じゃあしょうがないね」
「そうだろ。だから私の隣にいて」
「うん」
こっくり頷いたシャオヘイは、ムゲンの手を掴む力を少し強くしたようだ。加えて、ムゲンが人ごみに流されていかないようにと両足を踏ん張って歩きだす。
ついこの前までは身長差がありすぎて、こうして手を繋いで歩くこともできなかったはずなのだ。それが今はどうにか互いの手をとり並べるようになっている。
もう少しするともっと自然に手を引いて歩けるようになるだろう。
さらにもう少しすれば、そのころにはムゲンの手はこの子の背を押し出してやっているだろう。軽やかに前へ向かう子を、引き止められないときがいずれ来る。
「師匠、ね、ぼくがいるからはぐれないね!」
得意げに鼻の穴を膨らませて歩くシャオヘイの、ふわふわと揺れる白髪を見下ろして微笑む。
「ああ。頼もしい」
むふっ、と笑う声がする。きっと前を向く顔は唇が忙しくむずむずしているのだろう。
まだまだすべらかで柔らかく、そして小さな手を握り直した。シャオヘイ、と呼ぶと、なに、とすぐに返事があることの得難さを、この子は知らない。
「何を食べようか」
「えっと、えっとね、この前師匠が食べてた卵のやつ! あれまた頼んで!」
「うん」
「あとね
……
」
シャオヘイが自分だけの未来を選べるようになるそのときまで、ムゲンはこの手を決して離さない。
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